報告
そして美玲たちは足取りも重く、トルトが居る城の謁見の間に行くと、彼女が不在の間に起こったことを報告した。
「まあ、そんなことが……!」
「結局一時は取り返したものの、二冊のうち一冊が奪われてしまいました……申し訳ありません」
フレイズがひざまづき、こうべを垂れる。美玲たちも彼に倣って頭を深く下げた。
拳を握ってきつく目を閉じる。絶対怒られる、と覚悟を決めた。
ネフティから聞いた、羽を失ったジャニファの話を思い出していた四人は生きた心地がしなかった。先生に職員室へと呼び出される方がだいぶマシな気分だ。
「いえ、あなた方さえ無事ならば良いのです。女王陛下を目覚めさせることが今は一番大切なことですから」
だが予想に反して優しい言葉をかけられ、驚いて顔を上げると、玉座の脇に立ったトルトは抱えている一冊の本を大切そうに撫でた。
「二冊のうち一冊は取り返せたのです。あなた方がジャニファの侵入に気づいてくださって助かりました。感謝いたします」
怒るどころか逆に礼を言われて、美玲たちは戸惑い顔を見合わせた。
「あの、怒ら……ないんですか?」
おずおずとかれんが尋ねると、その言葉に驚いたようにトルトは首をかしげた。
「怒る?何故です。あなた方を怒ったところで本が返ってくるわけでもないのに。それにこの本ほど重要なものは他にはありません」
「その本は一体何なんですか?」
ジャニファはもう一冊の方が重要だと言っていた。だがトルトが持っている方の記憶の書をトルトは大切だという。姉妹の意見が合っていない。
美玲の問いにジャニファは本を開き、途中のページを美玲たちに向けた。
まるで使いかけのノートのように、左側の途中まで美玲たちの世界のものとは違う文字が書かれているが、右半分は真っ白だ。
「これは今使用している一番新しい記憶の書なんです。これがないと今日以降の記録ができませんから、とても困るのです」
「じゃあ、ジャニファが持って行ったのは……」
「おそらく昔の記憶の書でしょう。ですので、あまり気に病まずともよいですよ」
トルトはなんでもないことのように言い、微笑んだ。
四人を気遣って言っているわけでもなさそうだ。トルトの「気にするな」という言葉に、ようやく四人は安心して大きな息を吐いた。
「さあ、あとは月が全て隠れる日を待つのみです。皆さん、当日はよろしくお願いしますよ」
「はいっ!」
次いでかけられたトルトの言葉に、四人はすっかり元気を取り戻し、大きな声で返事をした。