鐘の音
ジャニファが残したアイーグを倒し終えた頃、突然鐘の音が鳴り響いた。
学校で聞くチャイムよりも大きい音で、結婚式のコマーシャルでよく流れる、リンゴンという響きが城の中に広がっている。
「何?!何なの?!」
突然響いた聞きなれない、あまりにも大きな音に美玲たちは驚き、耳をふさぎながら辺りを見回した。
「トルト様が城に帰還された合図です」
深刻な顔をしてポワンが教えてくれた。フレイズの表情も硬い。
「どうしたんだよ、ポワン、フレイズ。なんか二人とも暗いぞ?」
市原がわざと明るい声で言うが、二人の表情は硬いままだ。
「トルト様にお伝えしないと……記憶の書のことを」
ポワンの言葉に四人の顔も暗くなる。
中でも美玲は顔面蒼白になっていた。
最後に記憶の書を持っていたのは美玲だ。一旦は取り返した一冊を、雷撃を受けた衝撃で手放してしまい再び奪われた張本人だからだ。
ひどく怒られるかもしれないと思うと、心臓が握られたようにキュッと縮んだ。
「美玲、大丈夫?」
足が震えてきて、立っているのがやっとのような美玲を支えるようにかれんが手を取った。
「大丈夫……ありがとう」
親や先生など周りの大人にもほとんど怒られたことのない美玲は不安でいっぱいだった。
親以外に怒られたのは、こっちに来る前に職員室で担任に注意された時が初めてだったかもしれない。
「ちゃんとごめんなさいって言えば大丈夫だって」
「市原くん、そんなに簡単なことじゃないよ……この国の大切なものが持っていかれちゃったんだから」
美玲を励ますように言ったつもりの市原にかれんが首を振った。
市原に意見するなんて、と、こんな時だが美玲はとても驚いた。
市原と話すのも、彼の近くに行くのも恥ずかしがっていたかれんが、市原に堂々と意見を言っている。
紅の泉で一体何があったのだろうか。
「でも謝るしかないだろ。取り返せなかったんだから」
かれんに責められたように感じたのか、市原は唇を尖らせた。
「だな。永倉だけの責任じゃない。みんなの責任だし、な。みんなで叱られようぜ」
志田が市原と肩を組んで拳を突き上げた。
「叱られるだけで済めばいいけどね……」
「美玲……」
遠い目をして、乾いた笑いを浮かべた美玲は石の床に視線を落とした。
「ミレイたちは何も心配しなくていい。俺に任せて」
美玲たちと少し離れた場所で話していたフレイズとポワンが駆け寄ってきた。そしてフレイズは一人一人の顔を眺めてそう言った。
「このポワンにも責任があります。一人で抱え込まないでください。敵の侵入を許してしまったのは留守を預かっていた妖精である我々の責任ですから」
「みんな……ありがとう」
鼻の奥がツンとして涙が溢れそうになる。だがそれをこらえ震える声で礼を言った。