二人が聞きたかったこと
美玲に言われてすぐに扉を閉め、向かって来るジャニファを迎え撃とうとかれんと志田は武器を構えた。
ジャニファの後ろの方にちらりと見えた美玲と市原はもめているようだった。
「あいつら何してんだ?」
「さあ……あっ!」
二人の間にフレイズが立ち、仲裁を始めた頃、ジャニファとの距離が思った以上に縮んでいた。
「止まってください!」
かれんはバトンの先端を迫り来るジャニファに向けて止まるように言うが、聞き入れるジャニファではない。
「志田くん!」
「任せろ!」
二人は視線を合わせ頷くと、それぞれの要素を高めるために集中した。
火の要素は窓から射し込む暖かな日の光から。
※ 地の要素は石の床から集める。
焦ることはない。ジャニファとはそこそこの距離がある。集中するのだ。内なる力に耳をすませて、精霊の力を借りる。
かれんと志田の周囲にそれぞれの要素が集まり、赤と黄色の淡い光が舞いはじめた。二人はそれを練り上げ、一つの術に組み上げた。
「炎晶石!」
「くっ!」
かれんがバトンを、志田は拳を床につけると、二人が触れたところから炎を内に秘めた赤い水晶群が現れた。
それらはすごい勢いで大きくなり、まるで津波のように石の床を這うと、牙のように尖ってジャニファへと向かっていく。
「星円鏡!」
鏡の盾を出して防ごうとしたジャニファだったが、炎晶石の盾が触れた部分はすぐに崩壊し、内に秘められた炎が噴き出して渦となってジャニファに襲いかかった。
「こしゃくな!」
短剣に雷を纏わせ長剣にすると、剣を振るって炎の渦を散らした。
「そこをどけ、火の娘と地の少年よ。私はお前たちと戦う気は無い」
まだまとわりついて来る火の粉を払い、宙に浮いたままで剣先をかれんたちに向けた。
「誰がどくか!」
「ここは通しません!それに私たちはあなたに聞きたいことがあるんです」
「聞きたいこと、だと?」
ジャニファは両手を広げて仁王立ちをするかれんと志田の二人を警戒するように後ろに跳躍して距離を取り、羽を羽ばたかせて浮くと何事かと首をかしげた。
「あなたは私たちを助けてくれた。紅の泉で、私たちは見たんです。あなたが敵だなんて、私たちにはとても思えないんです!」
「お前達を助けた?フン、なんのことだ。利用できそうだから連れ帰ったまでよ。勘違いするな」
ジャニファは鼻で笑って短剣を構えなおした。そして刃を撫でると雷をまとい、それは長剣に姿を変える。
「本当ですか?私があそこで見たあなたは、私たちを利用するために連れ去ったようには思えなかった……」
紫の閃光をあげる剣を構えながら、じりじりと距離を詰めてくるジャニファに、かれんと志田も精霊石に要素を集めていく。
「待って、かれん、さっきから何を言っているの?」
いつの間にか追いついたのか、肩で息をしながら美玲が叫んだ。ジャニファが敵じゃないなんて納得できないというふうに。
「炎帝たちに見せてもらったの。この人は紅の泉で火の海にかこまれた私たちを助けてくれたの」
「どう思おうがお前の自由だ。もういい、そこをどけ!」
しびれを切らしたのか、ジャニファが雷剣を振るった。
「どきません!」
「地晶壁!」
志田の呪文に黄色い結晶がドームのように出現して二人を覆うと、ジャニファが放った雷撃はドームに阻まれて散った。
「雷強波!」
しかしその黄水晶のドームはついで放たれた、威力を強めた雷撃に破壊されてしまった。
黄水晶の結晶が宙に舞い、きらきらと窓から射し込む夕日を反射させる。
だがその美しい光景にぼんやりしている間はない。
「くっ!」
かれんがバトンを振るうと精霊石から炎が舞い、黄水晶のドームを破った雷撃をはじき返した。
「すごい……!」
かれんと志田はジャニファの攻撃とまともにやりあっている。
美玲たちが手を出す余地がないほどに両者の戦闘は熾烈であった。
「ほう、まともに力を扱えるようになったのか」
とても面白い、というように唇の輪郭を歪めてジャニファが笑みを浮かべた。
「お願いです、記憶の書を返してください。私たちはあなたと戦いたくありません!」
「こちらもその気は無い。すでに目的は果たしたからな」
「ダメです、その本を返して……火焔弓!」
ヒップバッグを狙って彼女が火の矢を放つ。だがそれは空を切り、石の床にあたって消えた。