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呼ばれた理由

  ポワンはトルトという人物の元へ美玲たちを案内すると言っていた。


  廊下にあるものは美玲には見慣れないものばかりで様々なものに目を奪われる。


  淡い草色で統一された廊下の壁には、等間隔に花のつぼみのような形のランプが設置されている。


  木でできた扉には様々な花の細工が施されていて、美玲は思わず触ってみたくなったが、前を歩くポワンと市原に置いていかれてしまうので諦めた。


  そうしていくうちに、三人は二人の妖精の騎士が両脇に立つ、ひときわ豪華な扉の前に着いた。


  ポワンが左に立つ騎士に何かを見せると、二人は頷き、扉を開いた。


 その向こうは、奥まで金色に縁取られた深い藍色の絨毯が伸びている。


  ポワンは騎士に一礼してから部屋に入り、ミレイと市原もそれに倣って一礼して続いた。

 

  磨き抜かれた青い床は鏡のようで全てが対照に写っている。


  藍色の絨毯の上を進み、玉座とみられる数段高い位置にある椅子の前まで来ると、ポワンは頭を下げて跪いた。


  ちらりと壇上を見上げると、そこには誰も座っていない玉座の隣に、きらびやかに着飾った妖精が立っている。


 とても美しい妖精だ。


  おそらくこの妖精がいま、ここで一番偉い妖精なのだろう。


「トルト様、イチハラ・ナイト様、ナガクラ・ミレイ様をお連れしました」


「ご苦労様でした、ポワン。下がってよろしい」


  ポワンをねぎらうトルトという綺麗な妖精の声は、とても穏やかな、いつまでも聞いていたいと思うような声だった。


  ポワンはトルトの命に応じ、一礼をして引き返していった。


「ここって、お城みたい……」


  辺りを見回しながら市原に小さな声でいうと、その言葉が聞こえたのかトルトは優しく微笑んだ。


「はい、ここは妖精の城です」


  トルトは壇上から降り、ミレイたちのそばまで来ると一礼をした。


  ふんわりと甘酸っぱい桃の香りが漂ってきた。


「ナイト様、ミレイ様。お初にお目にかかります。私の名はトルト。この国の記録官です」


「記録官?あなたは王様じゃないの?」


「はい。国で起こったいろいろなことを記録する係です。そして、女王不在の折りは私ができる範囲で政務も代行しています」


「ふざい?だいこう?」


「不在はいないってことで、代行は代わりにやるってことだよ」


  首をかしげると、頭のいい市原が美玲にそっと教えてくれた。


「そうなんだ……女王さま、いないんですか?どこかにお出かけですか?」


「まぁ、お出かけというか、なんというか…」


  美玲の問いに、トルトは歯切れの悪い返答をする。


 その様子は、どう伝えたらいいのか考えているようにも見えた。


「じゃあ、いまのところはあんたが一番偉いんだよな。お願いがあるんだけど」

 

  市原が腕組みしながら言った時だった。


「うわっ!」


  ドン!という大きな音がして、城の天井からパラパラと何かのクズが落ちてきた。


  地震だろうか、それともどこかの部屋で爆発が起きて火事でも発生したのだろうか。


「何、地震?!」


  美玲はとっさに片手で頭をかばい、もう一方の手でポケットから出したハンカチで口を塞いでしゃがんだ。


「いや、奴らだな」


  慌ててしゃがんだ美玲とは逆に、市原は美玲をかばうようにして自分もしゃがみ、天井を眺めて呟いた。


 汗の臭いに混じって石鹸の香りがして、どきりとした。


  自然に女子を守るように振る舞える市原に驚きながらも、少しドキドキしてしまい、心の中で親友に謝った。


(かれん、ごめん)


「ええ、奴らです」


  市原の言葉に応じるようにトルトが答えた。二人のいう奴ら、という言葉に美玲の心臓がざわついた。


「奴ら……?」


  あの黒くて気持ち悪いものだろうか。あれは二度と見たくない。


  美玲を助けてくれたフレイズやベルナールもどこかで戦っているのだろう。


 再び聞こえてきた衝撃音に美玲は耳を塞ぎ、目をきつく閉じた。


「大丈夫か、永倉」


「うん……ありがとう」


  衝撃音と揺れが収まり、市原の手を借りて立ち上がる。


「市原、奴らって、あの黒いやつのこと?」


「永倉は見たことあるのか?」


「黒くて、ぬるぬるして気持ちの悪いものだよ……市原は見たことないの?」


  あの感触を思い出して、美玲は身震いした。両腕をさすると、鳥肌がブツブツと立っていた。


「俺は気がついた時にはこの城の中庭にいたから…… こういうことは何度かあったけど、実際に見たことはないんだ」


  拗ねた口調で市原が言う。


  自分が何も知らないのに知ったかぶって「奴ら」と言ったのだと思われるのが悔しいのだろう。


  美玲がトルトの様子を伺うと、天井から視線を戻したトルトと目があった。


「私たちの敵、夜の国の王である常夜王とこよのおうバライダルのしもべ、黒きものアイーグです。奴らはこの妖精の国を狙っているのです」


「とこよのおうバライダル?アイーグ??」


  そのアイーグというのが、美玲が見た黒いぬるぬるしたものの名前なのだろう。


「バライダルは、永遠に夜の国と呼ばれる常夜の国を治める王ですが、その夜の闇をこの妖精の国にまで広げようとしているのです」


  こんどは三度続けて大きな破裂音がした。そして、天井からは屋根をせわしなく駆け回る音まで聞こえてくる。


  アイーグの足音だろうか。


 ドスンドスンという音からすると相当大きなもののようだ。


  やがて、濁った断末魔の悲鳴まで聞こえてきて、美玲は気持ちの悪いその声に思わず耳を塞いだ。


  一体外はどうなっているのだろう。フレイズたちは無事だろうか。


  だんだんと不安になってきて、美玲はトルトを見ると、彼女はそんな不安をぬぐい去るように優しく微笑んだ。


「大丈夫、いつものことですから。それにご存知の通り、この国は四元騎士団という精鋭が守っています。彼らに任せておけば心配ありません」


  その言葉通り、しばらくするとようやく部屋に静寂がもどった。


「終わったようですね。では、本題に入りましょう。あなたがたをこの国に呼んだのは、私です」


「あたしたちを呼んだ?」


「なんのために?」


 二人の問いにトルトはやがて重い口を開いた。


「我々の女王ユンリルを救っていただくためです」


 その予想もしなかった言葉に美玲と市原は驚き、顔を見合わせた。




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