オカルト幼女と超能力 その1
怪しい噂の発信源であるナースを特定すべく動き出す凛と梨奈。
メリーさんの正体とは?
病院内に戻ると、梨奈が質問を投げかけてきた。
「凛、ちょっといいかな?」
「いいよ。何?」
「さっきの推理の意味がわからないんだけど。」
この話を口に出すのは、もう内容を聞かれても行動を悟られないと踏んだからか。
しかし、さっき全てを納得していたように見えた梨奈がわざわざ聞いてくるということは、推理の内容がわからないという意味ではないだろう。
もしそうならここで質問するのは危険だからだ。私が質問に答えると行動を悟られてしまう原因になり得るのに、梨奈がそんな間抜けな事をするとは思えない。
つまりこれは『何故推理を解説したのかわからない』ということだろう。
「私達は必ず会うことになる話、覚えてる?」
「?…あ、覚えてるよ。」
『能力者は必ず面識を持つ』の隠語として使ったが、わかってくれたようだ。周りには何かの作品の話だと思われるか、変な人だと思われるな。
「あまりにも偶然が重なり過ぎてると思わない?二人の話を聞いた私達、二人がネットではなく人から聞いた証拠とか。」
「言われてみれば出来すぎてるような気もするね。」
「これは今言った『会うことになる法則』のせいだと思うんだよ。」
「調べようと思った理由の解説だったって事か…なるほど。」
理解してくれたようで何よりだ。そんなことを話してる間に、叔父さんが居る部屋に着いた。
ちょうど叔父さんが部屋から出てきて、私達に笑顔を見せる。
「聞いてくれよ、盲腸が突然治ったんだよ!医者も『こんなことあるんですね』とか言って驚いてたけど、ラッキー!」
「おめでとうございます。ところで先程恐ろしい噂を聞いたのですが、詳しく聞いてもよろしいでしょうか。」
「ん、もしかしてナースがメリーさんと電話して気絶した話?」
知っているなら話は早い。私達もラッキーだったようだ。
「そうです。何か知っていることはありますか?」
「俺も聞いた話だったけど…あ、今この部屋で話したナースが噂のナースだったはずだよ。」
そう言った直後、ナースが出てきた。見た目は四十歳前後ぐらい、予想どうりの年齢だ。
「あの、この書き込みって貴女のですか?」
そう言って梨奈がさっきのサイトを見せる。ナースは驚いた顔になった。
「そうですけど…多分夢でも見てただけですから、気にしなくていいですよ。」
「…メールの内容、見せてもらってもいいですか?」
「えっと、あれは…」
急にナースが視線をそらした。見せたくないものなのだろうか。
「見せたくないなら、話してくれるだけでも構いません。是非、私達に教えてください。」
「…じゃあ、一つだけ質問してもいいですか。」
「いいですよ。」
「朝起きたとき、手紙ってありましたか?」
そういえばロリコン高校生が『自宅に手紙が届いた』って言ってたから、そのことだろうか。私達が貰ったのは朝ではなかったが、多分時間はどうでもいい。
そんなことより『手紙を貰う』という条件が合致しているのだから、エンハンススキルゲームに関係のある可能性が高い。
手紙を持っている事がメールを見る条件ということは、まさに『能力者であることを確認している』ことと同義だ。
「ありましたよ。梨奈も貰ったよね?」
「あ、うん。お母さんに手紙が来てるよって言われた。」
「そうだよね。梨奈の叔父さんはありましたか?」
貰ってない事は能力で知っているが、叔父さんに私達と共通の話が出来ない事を悟ってもらうため確認することにした。
「え?いや…特には来てないなあ。凛ちゃんの友達が一斉に送ったとかでしょ?」
ナースが言ったメールを見る条件を『ナースとの共通の友達と本当に知り合いか試す質問』と勘違いしているようだ。知らない人をも使った大規模な推理ゲームでもしてると思われたのだろうか。
そうだとすれば叔父さんは、『怪奇現象に遭ったナースを探せ』とでも言われていると思ったのだろう。
梨奈は私達がゲームをやっている体で話すことにしたようだった。
「来てないなら主催者側が用意した人じゃないってことだね。叔父さん、情報提供ありがと!」
「あ、やっぱりゲームしてたのか。外に出るのは良いことだけど、あんまり大人を巻き込むなよ?」
「わかってるって。完治おめでと!」
そう言って梨奈は叔父さんを私達から離した。ナースはそれを確認すると、私達に「更衣室に取りに行くから勤務終わりまで待ってて」と伝えてきた。当然だが今は持っていないらしい。
私達は待合室で待つことにした。
数時間後、先程のナースが私達の隣に座り携帯を渡してくる。メールの文章は単純なものだった。
『朝起きた時に手紙があったら返信をしろ この文章を関係ない人に見せたら呪う』
なんとも強気で脅迫的。相手は傲慢な人か、よほど切羽詰まっている人といったところだろう。
だが私はこの文章を見て、何か助けを求めているように感じた。
《手紙があった人=関係ある人=能力者》であれば『関係ない人に見せたら呪う』というのは『もし貴女が能力者なら別の能力者にも見せてくれ』という意味でも捉えられる。
能力者は誰しも良い人ではなく、味方になってくれるとは限らない。それでもなるべく能力者を集めたいのはどうしてもなんとかしたいけど一人では成し得ない何かがあるのか、それとも敵を誘い込んで倒していきたいのか。
しかしメリーさんを装って一人ずつに連絡していくのは非常に効率が悪く、途方もない時間がかかる。
その点でもやはり切羽詰まっている、もうこれしか出来ることが無いという気持ちの表れのように感じた。
もし敵を誘い込んで倒すつもりならもっと大きな噂にするだろう。関係ない人に教えない理由がない。
私はメールに返信することにした。『私は電話の持ち主の知人で、手紙を所持している。そちらの要件はなんだ?』
しばらくするとメールが来た。『今から待合室に行くから待ってて』
携帯をナースに返し、用が済んだ事を伝える。ただの悪戯メールでしたというと、納得のいかない顔をしながら帰っていった。説明する気が無いことを察したのだろう。
その後、『オカルト』という能力を持っているらしい幼女が待合室をウロウロしているのが見えた。それはつい先日助けた、あの幼女だった。
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