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怪しい噂と超能力

誘拐事件の犯人である能力者を倒し、「エンハンススキルゲーム」の参加資格を得た凛。

凛のスキルの内容とは?

ついさっきの高校生が言っていた造語が目の前の手紙に書かれていたことで、もはや私は超能力の存在を否定できなくなってしまっていた。

無理やりでも常識とこじつけて考えるのは不可能だと思えるほど、今の状況はありえなかった。

夢だったことにして自分を誤魔化そうとしていた私自身もどうかしていたと思うが、まさか本当に超能力を使えるとは思わなかった。

私は一度冷静になり、手紙の裏を見る。しかしそこには、あの高校生が言っていた『たくさんの並んだ単語』はなかった。

代わりに、数行の文が書かれていた。

『飛び入り参加の君には、こちらが決めた超能力で参加してもらうことになる。参加する場合は『YES』と言ってくれ。』

能力者の犯罪が増えることが目に見えてるのに、阻止しないわけにはいかない。そのためには、少しでも対抗できる力が欲しいと思うのは当然の考えだ。

…というのは建前で、結局は好奇心が溢れて仕方ないだけだったりする。

「YES」

私が意思を口にすると、手紙の文が変化した。もうこんなことでは驚かない。落ち着いて文章に目を通す。

『君の超能力は『目星』。相手の能力を知る能力だ。』

相手に直接的な効果が全くない能力だが、能力者を地力でどうにかしろということだろうか。

そうだ、裏にもまだ何か書いてあるかもしれない。しかし、その文を読んだ私は、首をかしげた。

『あなたの能力は適正です』

…完全に説明不足である。でもここだけ『能力』と書いているあたり、何か意味がありそうだ。

とりあえず梨奈に連絡してみよう。梨奈も何か能力を貰ったかもしれない。

「もしもし梨奈?そっちに変な封筒届かなかった?」

「え、もしかして凛も貰ったの!?」

梨奈は少し興奮気味のようだった。元々超常現象とかは好きみたいだし、無理もないか。

「その様子だと貰ったみたいだね。何て書いてあった?」

「えっとね、『君の超能力は『医学』。怪我や病気の原因を知れたり、それを自身の体力と引き換えに治せる能力だ。』だって!」

私の超能力がハズレだと思える程に強い能力だ。ひいきでは無いのかと思ってしまう。

「私は『目星』だった。とりあえず明日の朝7時に、近所の公園で会おう。二人で超能力を試すよ。」

「わかった。詳しい話もそこでするってことだね?」

「そう。だから手紙持ってきてね。」

「りょうかーい。」

「じゃあ、また明日。」

私は通話を切り、手紙をバッグにしまう。

超能力者になったことで、今までのような日常が少しずつ変わっていくのだろうか。

全てを知り尽くしたと思っていた私が、こんなにも未来にわくわくするなんて。

早く明日にならないかと、私はそわそわしながら眠りについた。


朝になり、両親が起きてくる。既に私は朝食を済ませ、身支度を整えていた。もう家を出る寸前だった。

「おはよう。今日は友達と遊びに行くんだっけ?」

「そうだよ。夕飯前には帰る予定。行ってくるね。」

私は言い終わるが早いか玄関を飛び出し、数分もかからないうちに公園に着いた。流石に早すぎたかと思いきや、梨奈は更に早く来ていたようだ。

「楽しみ過ぎて早く起きすぎちゃった!ねえ、早く試そうよ!」

「一旦落ち着いて。まずは手紙を交換しよう。」

私は手紙をバッグから取り出し、梨奈に渡す。梨奈も同様に、手紙を渡してきた。

手紙には昨日言った通りの文だけで、裏には何も書かれていない。紙の材質も文字の書体も、全て私と変わらないものだった。

「…そういえば凛、ちょっと聞きたいことあるんだけど。」

「なに?手紙のこと?」

「そう。昨日の電話のこと。」

なんだか私を試している言い方だ。手紙と昨日の電話に関係があるのは、あの話しか無い。

「梨奈は電話で手紙の内容を全て伝えたのに私からは能力名だけで、何故詳細を省いたのか…ってこと?」

「いつも思うけどよくわかるね。テレパシーでも出来るの?」

「手紙の話で疑問に思いそうな部分がここくらいだったからね。答えとしては、このゲームで警戒すべき所を警戒したって感じ。」

「…と言うと?」

「このゲームは基本的に相手の能力の有無や内容がわからない状態から始まるけど、それを利用した情報戦が勝率を左右すると思うの。」

「戦いの前の戦いが勝負を決める?」

「そう。能力の詳細を誤魔化せば、戦い方は大きく変わる。正しい情報を仕入れてこそ、勝利への第一歩ってこと。」

「なるほどね。その解説が私への注意喚起って所までわかったよ。」

「さすが梨奈。話の意味も話してる意味も理解してくれて助かるよ。」

詳しい話を明日に回すことは気付いてたから、多分理由を聞きたかっただけなのだろう。

「ねえ凛、『適正』って何?」

「うーん…表では『超能力』と書いてあるのにその文では『能力』と書いてあるから、多分『その人自身の技能』と『超能力』の相性が良かったってことなんだと思うよ。」

「なるほど。凛が言うならそうなんだろうね。」

「なんでもすぐ私の言ってること信じるのやめた方がいいと思うんだけど。」

「だって間違うこと無いし。」

信頼が厚すぎて、何かの教祖にでもなった気分だ。

「それで、私の超能力の情報わかる?」

「手紙に書いてあった通りの事がわかる程度みたい。直感的に『こういう能力だ』ってわかる感じかな。」

「…物理的な効果は何も無い能力なんだね。」

「好きで選んだんじゃないよ。じゃあ、今度は梨奈ね。…ちょっと怪我してみる?」

「一時的でも痛いのは嫌だなあ。」

「冗談だよ。そもそも親友を怪我させたりしないよ。」

そう言った後、私は病院がある方向を指差した。

「誰でもいいから治してみたらどう?」

「…最初から待ち合わせ場所にしなかった理由は?」

「病院は人が多いから、偶然いた能力者に情報を漏らしちゃうかもしれないでしょ。手紙も見られるわけにいかないし、朝の人気のない公園が一番都合が良かったの。」

「そんな偶然あるかなあ?」

「気をつけないとすぐに会うことになるんじゃないかな。『能力者は必ず面識を持つ』らしいからね。」

「あ、そういえば叔父さんが最近『盲腸になっちゃって仕事休まなきゃいけない』って言ってたから、まだいるかも。」

「それじゃあ、お見舞いに行ってみようか。梨奈の叔父さんに連絡しといてね。」

私達は花屋に寄ってブリザードフラワーを買い、病院へ向かった。


受付を済ませ病室へ行くと、梨奈の叔父さんがベッドで横たわっていた。

時刻は昼過ぎ。昼食を済ませた後だからか、みんなまどろんでいた。

「おお、梨奈ちゃんに凛ちゃん!退屈してたから助かったよ~。」

「病院の近くを通る用があったので立ち寄らせて頂きました。これ、お見舞いの品です。」

「相変わらず堅苦しいなあ。もう少し砕けてもいいんだよ?」

「はい、善処します。」

敬語を使って心の距離を置き、面倒な会話を避ける。私達がしたいのは雑談ではなく実験だ。

私が果物を渡すと同時に、梨奈は本題に入った。もちろん叔父さんはこれが本題だと気付いていないが。

「盲腸らしいけど、今も痛いの?」

「うーん、まあ少しだけね。そこまで酷いわけじゃないけど。」

「どの辺が痛いの?」

「最初はみぞおち辺りだったけど、最近は右脇腹かなあ。」

「そうなんだー…」

梨奈は叔父さんの体を見つめる。まずは念で治せるかの実験だろう。

「どうかしたの?」

「ううん、なんでもない。痛いのってこの辺だったっけ?」

次に梨奈は左脇腹を手で触れた。体のどの部分でも治るかの実験か、普通に間違えたか。

「違う違う。俺が痛いのは…あれ?」

「どうしたの?」

「なんか突然痛みが引いちゃって…治ったのかな?」

「もー叔父さん、そんな突然治るわけ無いじゃん。」

「そうだよね…でも一応確認したいなあ。」

そういって梨奈の叔父さんはナースコールをし、医者を呼ぶように言った。ナースも医者も半信半疑だったが、問診と触診をして驚いた顔になった。

詳しい検査をするらしく、梨奈の叔父さんは病室を後にした。

実験も終わったので、私達は出口へ向かった。しかし、途中で気になる噂を耳に挟んだ。

「そういえばここ、幽霊が出るらしいね!」

私は噂している人達の後ろにつき、噂の続きを聞くことにした。梨奈は私に合わせて歩いてくれているので、別行動になったりはしない。

「私も聞いたことある!たしか、メリーさんに似た感じなんだっけ?」

「そうそう!それで気が付くと気絶してて、携帯見ると『呪ってやる』って書いてあるらしいね!」

「あの子ここで入院してて大丈夫なのかな?幽霊に会っちゃうかもじゃん!」

いつもなら『よくある話』と一蹴するところだが、今回だけは能力者の可能性があるので聞き流せない。

そのままこの人達に付いて外に出ると、梨奈がスマホを見せてくる。

スマホには今の話の発信源と思われるナースのチャットが表示されていた。書き込みは6月2日。あの高校生が能力を貰った日より後だ。

『休憩室で休憩していたところ、夜中の12時半頃にナースコールが鳴りました。』

『周りが全員他の病室に行っているようなので、仕方なく私がその病室に向かおうとしたら、丁度携帯が鳴りました。』

『携帯を開くと非通知の文字。最初は急いでいたので無視したのですが、何度もかかってきました。』

『廊下を歩いている途中だったのですが、急ぎの用かもしれないと思い仕方なくその電話に出ると、「もしもし、私…今あなたの後ろにいるの。」と言われました。』

『その瞬間意識を失ってしまい、気付いたらその場で倒れていました。』

『同僚には「疲労で倒れて夢でも見たんじゃないか」と言われましたが、私はどうしても夢だとは思えません。』

『でも、何故か着信履歴は残っていないので証明のしようがなく、何も言えませんでした。』

『メールも届いていたのですが、痛い人だと思われるのが怖くて見せられませんでした。』

文章はこれで終わり、コメントにもめぼしいものはなかった。

「…どうしようか。」

梨奈が困惑した表情を見せる。しかし、私は既に行動を決めている。

「ちょっと考えさせて。」(後で考えを言うから待ってて。)

まずは噂の発信源であるナースに話を聞きたいが、他の書き込みを見てもこのナースを特定できそうな情報は無かった。

さらに自分でも検索をかけてみたが、この人の他に同じような事があった人はいないようで、この時間のこの病院にのみ起こった事のようだ。

「凛、あの問題解けた?」(何かわかった?)

「まあ、半分くらいわかったかな。」

私はメールの画面を開き、自分の考えを綴った。送信するつもりはないので、あくまで見せるためのものだ。

『この【発信源のナース】は仮にXとして書くよ』

『Xは【携帯を開く】と書いているからガラケーでほぼ間違いなく、スマホに変えないのは新しい事が覚えられない年齢だからか、必要がないからだと考えられる』

『年齢は大体三十代後半から上、【友達のような関係の同僚】というのが殆どいない人で、その日の午前0時半に休憩時間だった人だと思う』

『この人以外に誰も同じようなことを言っていないのにさっきの二人が噂を知っているってことは、恐らく二人共Xの知り合いか二人の友達とXが知り合い』

これを見て、梨奈もメールを開いて何か書き始めた。質問があるのだろう。

『偶然二人がこのサイトを見たのかもしれないよ?』

『噂の病院の場所とかメールの内容がわかるのは知り合いから聞いた以外にありえないから、ネットから仕入れた情報じゃないよ』

梨奈が関心したような顔になる。私の文章に納得してくれたのだろう。

『Xと知り合いでもここに二人で病院に行く理由はほぼ無いに等しいから、多分後者で間違いないと思う』

また梨奈が何か書き始めた。よく聞いてくれている証拠だ。

『Xが他のナースに言って、そのナースがさっきの二人に言った可能性は?』

『事件直後に言ったらしいけど、それだとメールの内容を知っているのは不自然だよ』

『二人は別々の時間にこの病院の噂を聞いたってこと?』

『そういうこと』

『これからどうするの?』

『叔父さんに日時でXと条件が合うナースを絞ってもらって、その人達に話を聞いてXを特定、何があったか詳しく聞くって感じかな』

『メールの内容を見せてもらうとか?』

『あと怪奇現象の起こった条件を聞いて、そこから噂の犯人を探す』

『Xと同じ目に遭ってみるっていうのもありだね』

『じゃあ、行動に移そうか』

私達は聞き込みを開始し、X特定に踏み込んだのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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