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その7。強敵。


「あー、次は母親も一緒に来るらしい」

「え?お義母さん?わあっ!楽しみですね!お部屋は二階で大丈夫でしょうか?」

 ライザーは気が早いよと苦笑した。


 ミリエア達が帰った日から三週間。彼女から手紙が届いた。新しく買ったソファにファニーと並んで座り、先にライザーが読んでいた。

 手紙の消印は二週間前。この期間がこの街と王都の距離移動の正しい片道最速時間である。この際、また一週間で王都に着いた体力馬鹿は無視する。

「いついらっしゃるんですか?」

「いつとは書いてはいないが、母さんは体力は普通の人だからな。来るだけで三週間は見ていいだろう」

「ということは……来週にはこっちに着きますか?」

「…………そうだな。早ければ来週あたりには着くだろうな……」

 だから手紙の出し方がおかしくないか? うちの女共は初動が速い。ファニーの気が早いと思ったが、割とギリギリなんじゃないか?

 げんなりとするライザーに、今度はファニーが笑う。

「じゃあ、そういうことで心の準備をしておきますね」

「そうだな。また世話をかける。頼むな」

「!……はい! また賑やかになりますね!」


 俺はまだ二人きりでいる時間が欲しいんだがな~。また邪魔されるのか。くそっ、ファニーが楽しんでなきゃ追い返せるのに!母さんの常識に賭けて、出発の手紙が届くことを祈ろう。


「とりあえず明日の昼休憩に家具屋に行こうか。出て来れるかい? もう二階の空いてる部屋用に簡易ベッドを買おう。ファニーがしたいって言ってた、部屋ごとに色合いも変えよう。ついでに明日の昼は外でご飯にしよう」

「外ご飯はいいですけど、大きな物をそんなに買って大丈夫ですか?」

「突然来られて文句を言われるのも腹が立つ。早々に壊れる物でもないし簡易の方が安い。初期投資だ。ただ、小物は少しずつ揃えることになるけどいいか?」

「わかりました! ライザーさん太っ腹ですね!フフ。うちも大家族みたいですね」


 うちも。

 ファニーが詰まらずに言えるようになったのをライザーは聞き逃さなかった。

 生まれ育った家ではないし、結婚したとはいえ家族になってまだ二ヶ月程だ。ずっと遠慮があったが、騒動に揉まれてやっと少しずつ崩れてきたようだ。ミリエアたちに感謝する。

 次は母も来るし、どんな事になるのか今から恐ろしいが。


「じゃ、そろそろ寝るか。明日に備えよう」

「あ、あの、っ」

 最近、ファニーはこうして何かを言いよどむ事が増えた。

「ん?」

「あ……あの……いえ、また明日。お休みなさい」

「ん。お休み。愛してるよ」

 フード越しに頬にキスする。こうすると必ずファニーの体から余分な力が抜ける。安心してくれてると思っていいのだろう。

 焦らなくていい。ファニーも、俺も。

 ずっと、傍に居るから。



***



「「あ」」

 ファニーが納品から帰る時、その男は串焼きを咥えて食堂から出てきた。

「ふぇはい~!」

「すみません、マルスさん。わかりません!」

 小走りで近寄るマルスに「危ないから食べながら走っちゃいけませんよ!」とあせる。

「はぁ~!やはり女神はお優しい!後光が差してますよ!」

 大袈裟に喜ぶマルスに苦笑しながらも、ファニーは会えて嬉しいと伝える。


「それにしても、マルスさんはここの串焼きをお好みですね。前にライザーさんに会った時もこのお店の前でしたよね?」

「そうでしたね~。ここの串焼きはデカイので買っちゃいますね~。唐辛子が良い具合にかかってるのも美味しいところですね! 女神は何がお好みですか?肉よりもお菓子ならば今回はお土産がありますよ」

「え?」

「じゃん!大女将に持たされた、日保ちする上に口の中の水分を根こそぎ取られる罠付きの面白美味しい焼き菓子です。俺は牛乳に(ひた)して食べる派です。あ、ついでに手紙も預かってますのでどうぞお納めください」

 マルスは背負っていた袋から菓子折りを、そして胸元から封筒を出してファニーに渡す。

「大女将ってライザーさんのお母さんですよね?ありがとうございます! フフお土産も嬉しいです。お手紙はこのままライザーさんに渡しに行きましょう」

「手紙はファニーさんが先に読んでも良いそうですよ。二人に宛てた物だからって言ってました」

「えぇ!……緊張するのでライザーさんと一緒に見ます……」

 手紙を大事そうに胸元に持ち、本当に緊張した様子のファニーに和み、じゃあ俺も一緒に職場参観しようっと!とのマルスの言葉に、二人で詰所へ向かった。


「な、なんて書いてあるんですか?」

 大きな、しみじみと大きなため息を吐いたライザーに恐る恐る聞いてみる。

「五日後に着くようだ。ファニーの予想通りだな」

「は~、色々買い込んで良かったですね~。ライザーさんが買い物しなかったら間に合わなそうでしたね」

「だから連絡は一週間前に届くようにしろって言ったよな?」

 マルスに向かって低い声で睨み付けるライザー。

「五日前に着いたことを褒めて下さいよ~。俺、今月の半分は馬に乗ってるんスよ。大体姐さんを押さえるのは俺じゃ無理ですからね。シードさんは結局手綱離しますから!無理無理! 今回大女将が一緒だからこれだけの余裕があるんですよ。そんで手紙を渡したら大女将たちのとこまで護衛にとんぼ返りですよ。女神に会えたって癒しきれませんて」


 睨んではみたもののマルスの言う通りではある。若手の「草」として頑張っているので、そこは評価しなければ。何だかんだ言ってもライザーというストッパーが一人減ったので、ミリエアの無茶の被害を一番受けているのだ。

「じゃあ昼飯奢ってやる。ちょうどいい時間を狙って来やがって」

「やったあ!坊っちゃん太っ腹~! さあ女神、先に席を取りに行きましょう!」

「え?私もですか?」

「当たり前じゃないですか!女神が一緒だと坊っちゃんの財布の紐がユルくなるんですから! 愛ですよ愛!俺にもおこぼれをください!」

「阿保か。ファニー先に行っててくれ。注文も適当に頼むよ」

「任せて下さい!ランチメニュー全制覇してやりますよ!」

 ファニーが返事をする前にマルスが恐ろしい事を宣言した。

「デザート付きの一人前だけだ!!」

 ライザーが思わず大声を出す。ファニーはふと思い出し、マルスに向いた。

「あれ? さっき串焼きを食べてましたよね?」

「ランチセットは別腹です!」

 ふふんと胸を張るマルスにファニーは慄いた。

「うえぇ!? ライザーさん、止める自信がないので早く来てくださいね!」

「悪い。なるべく急ぐ」

 慌ただしく出て行く二人を見て、キリの良いところまでを目指して書類を処理していく。


 あの隊長に睨まれたのに平然としていたぞ!? そして流れるように隊長に奢らせる約束をしたぞ!? 奥さんという隊長の弱点を巧く突いてる! 隊長を坊っちゃんと、黒魔女を女神と呼ぶアイツは何者だ!?

 戦々恐々とした部下を残してライザーは食堂へと急いだ。



***



 そして五日後。マルスが先触れに来たので出迎えの準備を済ませることができた。ただ、ライザーは出勤日なので今は仕事を抜けて来たところだ。

 見計らった様に家の前にダーナット商会の馬車が停まる。馭者を兼ねたシードが「よお!」と軽く手を挙げてから、馬車の扉を開ける。先ずはミリエアが降り、ライザーとファニーに軽く抱きつく。

「久しぶり!」

 そして、シードにエスコートされた婦人が馬車を降りる。落ち着いた色合いの服と帽子を揃え、優雅に歩く。

「いらっしゃい母さん。お疲れさま。外で悪いが仕事を抜けて来たからここで紹介させてくれ」

 そう言ってライザーはファニーの肩を抱く。

「この娘が俺の嫁さんになってくれたファニーだ」

「は、初めまして!ファニーと申します!こちらまでの長旅お疲れさまでした。至らないことがあると思いますが、ゆっくりご滞在なさってください。ふつつかものですが、これからよろしくお願いします!」

 緊張でガチガチのファニーを安心させるようにライザーが背をぽんぽんと軽くたたくと、不安気なファニーが上向いたので微笑んでみせた。ファニーの余分な力がちょっとだけ抜ける。


「あらぁ、アラアラ!ライザーのそんな顔が見られるなんて!本当にあなたがお嫁に来てくれて良かったわぁ!」

 予想外の反応に戸惑うファニーだったが、義母となる人はニッコニコとしてファニーの手をとって包む。

 あったかい。

「イリアよ。幻の三人目の娘に会えて嬉しいわ。これからよろしくね。遠慮なくお世話になります」

「幻って……」

 ライザーがぽつりと突っ込む。

「だってそうでしょう?あなたが結婚するなんて誰一人として想像もしてなかったもの。ミリエアとシードに聞いたから余計に早く会いたくなったから来ちゃった。本当に絵本の魔女の様ね! 良かったら私にも着させて欲しいわぁ。ああ!楽しくなってきちゃった」

「ハイハイ。俺は仕事に行くから、とりあえず今日はうちでゆっくりしてくれ。でもあまりファニーに無茶を言わないでくれよ。頑張り屋だから倒れるまで動いちまう」

 前科があるファニーは小さくなる。

「まあまあ!働き者は大事にするわよぉ!お互い長く頑張りましょうね」

「はい!」


 そして、イリアとミリエアを家に招き入れ、ライザーとシードとマルスは荷物をそれぞれの客間に運び入れる。運び終えるとライザーは仕事へ向かった。

 ファニーはほんの少し模様替えをした客間を褒められ、山のようなお菓子のお土産をちょっとだけ食べ、化粧水の製作過程を見学され、二人の目の輝きに慄きながらも質問に丁寧に答えるのであった。


 夕食後のお茶を飲みながら各々が寛いでいると、ライザーが皆に相談があると切り出した。

 隣の領で敗戦国の残党が盗賊紛いの事をしてるとの知らせが届いた。大人しくしていれば見逃したが、犯罪を犯したので残党狩りをすることになった。その地域は第一隊の管轄だが、やんごとない人物が多く所属しているので、代わりに第三隊が請け負う事になったと言う。

「やんごとないって誰よ?」

「勿論ここら辺を治めている小さい貴族の三男や甥っ子だ」

「あ~、穀潰しな」

「貴族だからこそ前線に立ちなさいって教育はしてないのかしらぁ?」

「この地域は昔から割と平和で、婆様はそれでここに住むことに決めたそうです」

「へ~、そんな地域がこの国にあったんスね~」

「あの、ライザーさんが行くんですか?」

「命令されたからな。新婚だから勘弁してくれと言っても駄目だった」

「ぶはっ!そんな理由は通らないわな!」

「そぉね、家族の為に行けって言われるだけねぇ」

「俺、行ってきましょうか?」

「いや、第三隊の実戦経験積ませるのに丁度良いかと思ってさ。シードとマルスがいるから今なら留守を頼めるしな。残党といっても話を聞く限りはただの盗賊としか思えない。油断してるつもりはないが若手の相手には丁度良いだろう」

「ん?あんた達が全員で行くの?ここの治安は?」

「第一隊が代わりにやってくれるそうだ」

「「はあ?」」

「何それ!」

「危ない事は下っ端で、お貴族様は安全に、か。暴れてやろうか?」

「止めてくれ。部下の日頃の頑張りを無駄にしないでくれ」

「そぉね~、ライザーが帰って来るまでファニーと大人しく待ってるわ」

 イリアに言われ、ほっとするライザー。ファニーに向き直り、フード越しに見つめ合う。

「そういうことでしばらく留守にする。たぶん五日程」

 ファニーがキュッとライザーの袖を掴む。

「俺の事は心配ない。遠征も捕り物も慣れてるから。さっさと捕まえて帰ってくるよ」

「……はい。出発は?」

「明日」

「明日!?」

「母さん達がいるうちに片付けたいと思ってさ。こういうの含めて色々部下に仕込みたいし。急に決めてごめんな。帰ってきたらファニーの言うこと何でも聞くから」

「何でもだって!やったね!」

「いいな~!俺にも何か聞いてくださいよ~!」

「一番高い店を予約しようぜ!酒の旨いトコ」

「本当にメロメロじゃないの。見てる方が恥ずかしいわぁ!」


 ライザーは外野を無視してファニーを見てる。

「あの、無事に帰って来て下さいね」

「うん。それまで考えといて。ファニーだけだからな!」

 ライザーはぶーぶーと騒ぐ外野を牽制する。握られた袖はそのままだった。



***



 ライザーが出発した日は何事もなく過ごした。

 イリアの要望で街を案内する。ミリエアとシードもついてきたが、マルスはどこからか護衛をしてるらしい。ご飯時になると現れた。皆がよく喋るのでそれに答えるのに精一杯だ。ライザーと一緒にいる時も喋ったが、相手が四人では体力がゴッソリと無くなる。

 よく眠れるだろうと寝室に入ったが、一人になった途端に手が震えだした。


 ライザーが強い事は噂で知っている。噂でしか知らない。

 いつだったかライザーと出会う前に訓練風景をチラッと見かけた事があるが、騎士様は体つきががっちりしてるのねと思っただけだ。街の無法者をどんどん捕まえたが、その現場を見たことはない。顔の傷は戦争で負ったと聞いた。

 無傷で帰ることは難しいかもしれない。かすり傷程度なら自分の薬で間に合うが、相手は戦場経験者だ。

 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。


 恐い。


 帰ってくる、大丈夫、行った時の様にただいまって言いながら帰ってくる、大丈夫、無事に、婆様助けて、ライザーさんを守って、大好き、ライザーさん、ライザーさん、帰って来て、まだ顔を見せてないよ、大好き、神様やっぱり怒ってた?だからライザーさんが行くことになったの?ライザーさん、早く、早く、早く、


 コンコン


 ハッとした。


 コンコン


 あ、ノック……誰だろ。

 返事をしてノロノロとドアを開ける。思うように体に力が入らない。懸命に開けた先にはイリアがいた。

「今日は一緒に寝ましょ。私の部屋にベッドを運んでもらったからね。ミリエアも一緒よぉ」

「……お義母さん……」

「そうよ。今夜はお母さんと一緒に寝ましょうね」


 そう言ってファニーの手を引いて、片方にはファニーの毛布を抱えてイリア用に準備した客間に戻る。部屋にはもうミリエアがいた。ベッドは二台くっ付けられ、ココ!と真ん中をポンポンと指す。戸惑いながらもその場所へ座る。

「大丈夫、眠ってもフードを取ったりしないわ」

「あらぁ寝かせないわよ今夜は!夜通しお喋りしましょ。これがやりたくてね、楽しみにしてたの!」

「この為に道中万全の体調管理だったわよ。お陰で三週間もかかったわ」

「だって!イタズラには体力が必要って言ったのはミリエアでしょう? ほんと喜んじゃいけないけど今回の盗賊騒ぎは渡りに舟だわ。ねぇファニー、ライザーにイタズラしてみない?」

「え?え!? お義母さん!? お義姉さん!?」

「イタズラ、楽しいわよ~!」

「そうよぉ、今回のは特に。ワクワクしちゃう事だったからミリエアに賛成したの!」

「え、ぅえぇ……ど、どんなイタズラですか?」

「「結婚式を挙げよう!」」


「………………え? 結婚式はしましたよ?」

 キョトンとするファニーに二人はニヤリと笑う。悪い顔のまま持ち込んだ荷箱に寄り、ミリエアが蓋を開けるとイリアが中から白っぽい布を取り出してファニーに見せる。夜なのでランプがあっても部屋は薄暗い。どんな素材かと触らせてもらえば、さらさらと柔らかく、よくよく見れば光沢がある。子供の頃、布屋で一度だけ見たことがある。

「……これは、絹?」

「正解!これでドレスを作りましょうねぇ!」

「お義母さんに似合うでしょうね」

「は?何言ってんの。ファニーのドレスよ。花嫁はあなたでしょ!花嫁以外の誰が純白のドレスを着るのよ」


 ファニーは頭が真っ白になった。ミリエアは何を言っているのか。絹とは超高級品だ。子供がうっかり触れば拳骨付きで怒られ、あっという間に店の外に放り出される程に高級品なのだ。

「レースも沢山持ってきたのよぉ!ベールだって顔を隠せるくらい重ねられるわよ。ファニーの好きなデザインにしましょうねぇ」

 レース!白い!細い!街の奥さんが色糸で作る物より遥かに遥かに繊細な模様だ。恐ろしくて触れない。もう近寄れない。じりじりとベッドの上を後退り壁に背中がついた。

「あの朴念仁をあっと言わせましょう!どんな顔するのかしら、楽しみねぇ!」

 ライザーが驚く前にファニーの息の根が止まってしまいそうだ。


 どう思い直してもらえば良いのか、二人の顔つきを見てるとまったく思い付かない。

 追い討ちをかける様にふふふ、とイリアがファニーに迫る。

「あなたの花嫁姿を私に見せてちょうだい。天国であなたのお母さんに会ったら全てを説明してあげなきゃいけないから。もしかしたらいつも見てらっしゃるかもしれないけど、折角だからお茶をしながらお話したいわぁ」

 ファニーをにっこりと見つめる。隣では呆れた様子のミリエアがいる。

「気の早い話なのか、気の長い話なのか、よくわからないわね」


 婆様が寝物語に教えてくれたお姫様に憧れた。

 どのお話も運命の王子様が現れて、最後にお姫様は綺麗なドレスを着て、めでたしめでたしで終わった。石を投げられても、化け物と叫ばれても、諦めたふりをして、憧れていた。

 街で祝福されてる花嫁がその象徴だった。いつか、誰かのお嫁さんになりたい。お姫様のように幸せに愛されたい。

 婆様にされたように自分の子に愛情を注ぎたい。素敵な王子様の様な旦那様と一緒に。そして式では婆様に、お母さん今まで育ててくれてありがとうと言いたかった。


 小さい頃に間違えてお母さんと呼んだことがある。婆様は泣きそうな苦笑いをして「もう婆ァだからね、お母さんは変だよ、やめとくれ」と言ったのだった。この頃には孤児だと教えられていた。血の繋がりはないが母親として育ててくれたのは変わらない。


「お、かあさん、」

 涙が止まらない。私のお母さん。口が悪くて、人付き合いが苦手で、毎日欠かさず薬を作り、悪党悪童には容赦しない、貧乏生活で何でも手作りして、私に沢山の愛をくれた人。


 見せたかった。花嫁姿は普段着でも、ライザーを会わせたかった。

 素敵な人だよ!真面目で優しくて力持ちなの!人相が悪いのをちょっとだけ気にしてる可愛い人。顔も見せない私を可愛いと言ってくれる人よ。今、仕事で離れてるからちょっと寂しいけど、大好きなの!


 何で顔を見せなかったんだろう? もし、もしも帰って来なかったら、もう見せられない。婆様にお母さんと言いたかった、お母さん、お母さん、お母さん!ライザーさん!帰って来て!帰って来て。私のところに帰って来て。



「ふふふ、可愛い。泣きながら寝ちゃったわねぇ」

 ファニーはイリアに抱き付いたまま、泣き疲れて寝てしまった。混乱しながらぽつぽつと話していたが、少しはスッキリしただろうか。

「可愛い義妹でしょ。義姉さんにも会わせるのが楽しみでしょうがないわ。何だってこんなにライザーが良いのかしら?」

「ふふふ、それはこの子にしかわからないわねぇ」

「それより、だいぶ絹にビビってたけど大丈夫?」

「そんなの着ちゃえば肝が座るわよぉ。私もそうだったもの。ライザーが甘やかしてるみたいだから、荒療治は私が担当ね」

「ほどほどにしてよ」

「あら、あなたが言うのぉ?」

「だってライザーに怒られるのは私なのよ」

「言い出しっぺだもの。しょうがない~」

「くっ、怒るの忘れるくらいにファニーを着飾らせてやる!」

「そうね、頑張りましょう!」


 そうして、ファニーを真ん中にして女三人並んで眠ったのだった。











サブタイトルって難しいです。数字では面白味がないかと思いましたが、今頃、心惹かれます。

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