その5。嵐再び。
ヤクザ騎士と森の黒魔女が結婚した。
裏社会と騎士団上層部では、それぞれにそれはそれは慌てふためいた。最要注意人物の二人である。片や一騎当千の洒落にならない戦闘力。片や恐ろしい薬を使いこなす得体の知れない女。
二極の組織のもっぱらの噂は、今まで大人しくしていた黒魔女が、最強騎士を手懐けて国盗りをし、世界は暗黒時代を迎えるという。
なんとも平和なことである。
ライザーはそんな噂に踊らされるオッサン共を鼻で笑っていた。顔には出ないが。
……アホか、国なんか手に入れたところで面倒この上無い。それよりもファニーと暮らす家をどう改装するかで今は頭がいっぱいである。
一応上司だからと支部団長に結婚の報告に来ただけなので、終わってしまえばさっさと詰所へと帰る。祝いを貰うのも辞退した。上司からの御祝いなど趣味が合わないと相場が決まっている。
今晩の飯は何だろう。
ライザーは常にスキップで移動してしまいそうな程に浮かれていた。
だって自分に嫁が出来たのだ。しかも、自分が好ましいと思った娘が自分を好いているとか奇跡としか思えない。傷を舐め合うような関係だろうと構うものか。正直なところまだこの思いが恋か愛か、そこまで育ったモノか確信はないが。
ただ、あの娘が可愛い。大事にしたい。
ライザーは、幸せを噛みしめた。
家ではファニーも浮かれていた。仕事部屋でゴリゴリと乾燥させた薬草をすり潰してすり潰してすり潰してキャ~~!と悶え、すり潰してすり潰してキャ~~!を、繰り返していた。
ライザーさんが、私をお嫁さんにしてくれた!心配して助けてくれただけじゃない。私を好きだって言ってくれた。いいなぁと思っていた男が自分を可愛いと言ってくれた。吊り橋効果でも、私はライザーさんが大好きだ。きっと彼の好意の半分は同情だろう。それでも、傍にいられて幸せだ。彼に何かをすることができることが幸せだ。彼を大事にしたい。私のできる全てで彼を大事にしたい。
婆様、私を拾ってくれてありがとう。大事にしたい人ができたよ。
ファニーは、幸せに感謝した。
二人のそれぞれに関わりを持つ人達も二人の結婚に何かあるのでは!?と戦々恐々としたが、三日も経つ頃には気にも留めなくなった。二人の様子を見ていると、心からアホらしくなるのである。
結婚が先だったが、付き合いたての恋人同士の初々しさが周りに振り撒かれるのである。陰謀など目を凝らさなくても影も無い。そんな風に見る奴の方が何かを企んでいると思われる。
混乱から一番に立て直したのはライザーの部下達だった。若いとは素晴らしい。いつもの巡回のいつもの世間話で住人たちに聞かせるのだ。いかにライザーが腑抜けているかを。そしてそれを住人は楽しむのだ。いつも目付き鋭く厳つい男が、詰所の中でするささやかなヘマや、妻を前にした時の表情に出ないデレデレを。
そして、花を振りまきながら街を歩く黒魔女を見て、あぁ、ただの新婚夫婦かと納得し安心するのだった。
騎士団上層部と裏社会を置き去りに街が落ち着きをみせた頃。
嵐は来た。
「「あ」」
ライザーは巡回中にたまたまその男を見つけた。本来ならこの街にはいないはずの男は、持ち帰り用の串焼きにかぶり付きながら食堂から出てきたところだった。
向こうもライザーに気付くと、もぐもぐとしながらこちらに来た。
「おっひやん、ひょうもにーおとふぉに、ふぐっ!」
「口の中に入れたまま喋るんじゃない!」
相変わらず行儀の悪い食べ方をする男に容赦なく拳骨をし、用件を促す。
「久し振りに会ったのに容赦ないですねぇ、坊っちゃん。お元気そうで何よりです。姐さんからのお手紙を預かってきました」
男は懐から封書を取りだしライザーに渡すと、串に残った肉をまたかじった。
「いやあ、本当にちょうど良かった今渡せて! 危ない危ない」
手紙を読みはじめてからライザーの眉間に皺が寄る。そして、地を這うような低い声で男に聞く。
「お前、いつから居た?」
部下達ならば顔色を青く変える程の声だが、男は変わらず、「朝イチでこの街に着きました」と朗らかに答えた。
「遅い!!」
そういうとライザーは突然走り出した。
置き去りにされた男はその後ろ姿を見送り、さてと、と姿を消した。
バァン!!
「うわっ!何だ!?」「あ、隊長? どうしたんです、忘れ物ですか?」
息荒く詰所の扉を開けたライザーに、留守居役達が不思議そうに声をかける。
「すまない、誰か俺を訪ねてきたか? または手紙を持ってきたとか」
「有りますよ手紙! 背の高い男性が隊長に渡して欲しいと持ってきたのが! これです」
背の高い男!くそ、すれ違ったか!
舌打ちをして封を乱暴に開けて中身を見る。眉間の皺が更に深くなった。
「え?なんか事件ですか!?」
「「ええっ!!??」」
ライザーの様子から危機を感じた部下達が、奥の部屋からも出てくる。
「事件じゃないが今は時間が惜しい。一端家に帰る。悪いが後を頼む」
「「分かりました!お気をつけて!」」
ライザーが理由も言わず何かしたい後を頼むと初めて言った。本当に切羽詰まっている時だと理解した部下達はアッサリと任され、あっという間に走って消えた隊長を見送ったのだった。
「ファニー!!」
今までと違い、可愛いリースが飾られた玄関扉を壊れないように勢いよく開け家の中に駆け込む。窓が開いていたから今は家に居るはず!
居た。
背の高い男に後ろから両腕を捕まれ、前に立つ女にフードを捕まれた姿で。
ライザーは迷わず女を蹴り飛ばす。はずが、ファニーを脇に放った男に渾身の蹴りを受け止められた。止められたとわかるとすぐにファニーを抱え、二人と距離を取る。
ファニーは泣いていた。
ライザーは沸騰した頭を無理矢理冷やす。
「怪我はないか? 遅くなってすまん」
「けが、ない、です。あ、あのひと、だれ、ですか?ら、ライザー、さんを、おい、かけて、来た、って、……恋人、ですか?」
「絶対!違うっ!!」
女は妖艶に笑う。
「うぅ、美人、で、ぼん、きゅっ、ぼん……やっぱり、いた~!」
「あれは姉だ! そしてその旦那だ!!」
ピタッと泣きが止まる。ホッとしたが、改めて二人を見てライザーを振り返ったファニーに一抹の不安がわく。
「ライザーさん、両刀ですか?」
「なんでそうなるっ!??」
「「ぶぁははははは!!」」
頭を抱えるライザーに、腹を抱えて笑いだした男女をキョトンと見るファニー。ついには床に蹲って笑い続ける二人に、ユラリと立ち上がったライザーが拳骨を落とした。
ゴンッ!ゴンッ!
「連絡は前もってしろ!」
「イターッ! ひー、ひー、苦しー。さっき手紙あげたじゃないの。受け取ったんでしょ?」
「連絡は!余裕をもって!前もって!しろ!」
「五分やったろうが。あー!痛ぇー」
「足りるか!一週間寄越せ! なんの準備もしとらんからお前らを泊める部屋は無い!」
「「ええぇ~、遥々来たのに~」」
「知るか!帰れ!王都から出直して来い!」
ライザーが怒鳴っている。あのいつも穏やかな彼が、流れるように二人に拳骨をお見舞して、そして避けられている。
ファニーは三人のやり取りを呆気にとられながら眺めていた。
「はあ!? 一週間で来ただと!? 馬を殺す気か!」
「一日ごとに代えたわよ。マルスに準備させたから一日二頭ずつにマルスの借りた分で結構な出費だったのに、帰れって何なのよ。姉に対して冷たくなぁい?」
「馬を二十四時間走らすな! まさか全頭潰して来たんじゃないだろうな?」
「泡吹いてたけど、休めば大丈夫だろ」
「加減を知れぇっ!!」
何だろう、楽しそう……
「いやいや急ぐわよ。あのアンタが結婚したなんて手紙寄越すんだもの。家じゃ呪いを掛けられたか、罠に嵌められたかの二択しかなくて、私とシードが様子見で来たの」
「そうそう。ミリエアの結婚報告以来の混乱ぶりだったな」
「え?そうだった?」
「だってあの時、俺、大旦那と若旦那に教会に連行されて聖水ぶっかけられたぜ。目を覚ませ!って。あれはびっくりしたなぁ」
「あ~、だからあの時濡れて帰って来たのね。父さんも兄さんも失礼な。まあいいわ。時効にしてあげよう」
そう言うと女は立ち上がって、ファニーの前に膝をついた。
「はじめまして、ライザーのお嫁さん。私はミリエア・ダーナット。正真正銘ライザーの姉よ。久し振りに会う弟にイタズラをしたかっただけなの、泣かせちゃってご免なさいね。あなたの見た目はアレだけど、ライザーが女の子をあんな風に庇うなんて初めて見たわ。良いもの見せてくれてありがとう。これからよろしくね!」
にっこりと笑う美女に見惚れていると、男も隣に座った。
「はじめまして、ライザーの嫁さん。俺はミリエアの夫で、シード・ダーナットだ。婿入りしたから俺もダーナットなんだ。これからよろしくな」
ハッとして、ファニーは居佇まいを正し、二人に向き合う。
「ファニーです。ふ、ふつつか者ですが、お義姉さん、お義兄さん、よろしくお願いいたします」
深く頭を下げると、
「あ、俺はマルスです。ダーナット家の下僕です。ついでによろしくお願いします」
シードの隣に見知らぬ男が正座していた。びっくりすると同時に「玄関から入って来い!」とライザーの拳骨が唸った。
***
「大体いっつも、いっっっつも無茶なんですよ、ダーナットの人は! 主に姐さんですけど!いっつも血ヘド吐かされるんです!」
「お前串焼き食ってたろうが」
「だからさ、長旅のせいでお尻が痛いワケ。もっと鞍を改良したらいいと思うのよ」
「一日中馬に乗り続けるアホは姉さん達だけだ。馬車に乗れ」
「こっちは平和だな~。腕が鈍ったんじゃないか?」
「そうならないように動いている。平和なら多少腕が落ちても構わない」
「こっちは二週間も先に出たんですよ。それなのに目的地手前で追い付かれるって、どういうことですかね? 本当に体力化け物ですよ。それで今リリィお嬢さんがそれを受け継ぐかどうか、ダーナット家の使用人でトトカルチョが、」
「途中で何回か盗賊に会ったんだけど、田舎に行くほどに着てるものが酷くなっていくのよ! もう見る度に可笑しくて、余計に襲撃されちゃった! あ、盗賊の馬も奪ってみたんだけど、痩せぎすなものだから売値が、」
「ここに来てから何回かやられたって聞いたぜ。随分と大人しくなっちゃって。来てるついでだから一緒に暴れてやっても、」
「『今日着くからね~』なんて手紙を持たされて、どこを探せばいいのか悩んでとりあえず腹ごしらえから、」
「母さんや義姉さんはあまり心配してないのよ。男の方がこういう時に狼狽えるのは何で、」
「何かの時の為に便箋は持ってんだけど、封をするもの忘れてさ~。詰所で借りたんだわ。お前のとこの連中、若いのばっかだけど、客への対応いいな!ああいうヤツらに出世して、」
大きなテーブルにところ狭しと料理と酒が上がり、それを五人で飲んで食べている。まあ主に四人だが。食べて喋り飲んで喋り食べて笑い飲んで突っ込みそして笑い、ファニーは圧倒されていた。
「食べてるか?」
大人しいファニーに新たに届いた料理を取り分けるライザー。
「はい。あ、いえ、なんか圧倒されちゃって、食べるの忘れてました」
「温かいうちに色々食っとけ。な?こんなんじゃ早食いにもなるだろ?」
「フフ本当ですね! 私じゃこんなに料理を準備できずに困ったでしょうね。こちらに招待してもらえて良かったです。組長さん、ありがとうございます!」
「突然なのにこんなにしてもらえて助かったよ、組長」
「本当ですよ。聞いてみるもんです。五人ぶちのめしただけですぐ了承してくれたんスよ~、流石ですよね~」
実は同じテーブルにもう一人席についていた。この屋敷の持ち主、以前ライザーに屋敷を壊された組織の長である。ハゲ髭デブ組長は引きつった笑顔で冷や汗をたらしていた。
「イエイエ、ミリエア様がいらっしゃるなら、もてなさないなど有り得ません。我が屋敷にお越しいただけるとは、」
「なんでアンタのとこに来たか分かる?」
ミリエアに遮られて、青ざめた顔で小さく震え出す。
「わ、我が組織の貢献度が高いからでしょうか……?」
「は?アンタの稼ぎなんぞ何の足しにもならないわ。田舎だし、ライザーがやり返したから一度は見逃すけど、ライザーとこれからはファニーにも、何かしたら骨も残さず潰すよって予告をしに来たの。他所の組織にも言っといて、面倒だから。わかった?」
「は、ハイぃ!かしこまりましたぁ!」
散々食い散らかし、姉夫婦をマルスが見つけてきた宿に送った時。
「ライザー良かったわね。左遷させられて」
「何だ?」
怪訝な顔でニヤニヤする姉を振り向く。
「ファニーに会えて良かったね!」
「はは!本当にな!あんなに甲斐甲斐しいライザーは初めて見たよ。やるな、ファニー」
「ええ~!? え?ライザーさんはいつも優しいですよ! け、結婚、してからの方がもっと優しいですけど」
姉夫婦のニヤニヤがイラッとするが、ファニーに可愛いことを言われては返さなくては。
「こういう素直に何でも良いように言うところも可愛いんだ。「キャー!」俺の嫁だからな!姉ちゃんにはやらん!」
ライザーが話す途中で、ミリエアがファニーに抱きつく。それを慌てて引き剥がし、ミリエアをシードに押し出し、自分はファニーを抱える。すると宿屋の入り口にいたマルスが「ひゅーひゅー!」と囃し立てる。シードもそれに乗る。
「ライザーが惚けるなんて!」
三人のニヤニヤが止まらない。
「当たり前だ。ファニーに逃げられないように必死なんだよ俺は。毎日可愛いくて可愛くて、自分がおかしい自覚はある。拐うようなら姉ちゃんだって容赦しない。まあ、今日は組長にああ言ってくれてありがとう。後は余計な事すんなよ」
ファニーは真っ赤である。見えないし見たこともないが、体が硬直してぷるぷるしてる様子からそうだろうと思われる。
「あ~二人とも可愛いわ~。ちゃんと父さん達に伝えるわ。後追いするって言ってたから、もう準備してるんじゃないかしら?」
「は? ったく。落ち着いたら二人でそっちに行くって書いたのに」
立ち直ったのか、ファニーがライザーの服をツンツンと引く。
「何?」
「ライザーさん、愛されてますね。フフ。ライザーさんのご家族に会えるのが楽しみです」
ライザーが微笑む。ファニーはまたもやミリエアに抱きつかれた。
「可愛いわ~!ファニー可愛い!もう連れて帰りたい!」
「だから!今!言ったろうが! やらん!離せ!」
「マルス!ライザーは嫁にメロメロなだけって父さん達に伝えてちょうだい。私とシードはしばらくこっちに残るからよろしくねって」
「そうですか? 分かりました~」
「じゃ、今すぐ行って」
「はあ!? 何言ってやがるんですか!? もう寝ますよ今日は!」
「うるさいわね、ぐずぐずしてたら父さん達が来ちゃうから」
「断固!反対!横暴!反対‼」
「お義姉さん、マルスさんもお疲れでしょうから、出発は明日でいいんじゃないですか? 途中で怪我したら大変です」
「えぇえ?」
「あら、マルスにそういう気遣いは無用よ?」
「いえ。疲れはとった方が効率がいいです。お義姉さん方もゆっくり休みましょう」
「しょうがないな~。ファニーがそう言うなら。マルス、明日ね。」
「!!! ファニーさん!貴女は女神か!?」
「おおー。ライザーにミリエアにマルスまで手なづけるとは。薬師より猛獣使いになったらどうだ?」
「ファニーの傍は俺だけでいい!お前らさっさと離れろ!」
「女同士で一緒に寝よう!今から女子会よ!」
「俺のだ!離れろこの酔っぱらいが!シード!とっとと連れてけ!」
「ダーナット家の人からのまさかの労りの言葉!俺!ファニーさんについていきます!」
「要らん! 寄るなぁ!!」
「ぶぁははははは!あっはははは!」
「お義姉さん!どうしよう!」
「うん?どうしたの?」
「ライザーさんが、今日はいっぱい私の事を、俺のだ!って言った!嬉しい~!」
抱きつかれていたファニーは、負けじとミリエアを抱きしめる。
「お義姉さんもお義兄さんもマルスさんも優しい人で、心から嬉しい! 来てくれてありがとうございます!」
ミリエアの肩に埋めていた顔を、今度はライザーに向ける。
「ライザーさん!ライザーさんと一緒にいると、どんどん幸せになるみたい。フフ。あ!……その分、ライザーさんの幸せは減ってませんか?」
ミリエアに抱きつかれたままのファニーはライザーを見上げる。
それを優しく見下ろし、
「今、正に、姉ちゃんにファニーを持ってかれて俺の幸せは減ってる最中だ。寂しいからこっちにおいで」
と言う。ファニーはミリエアの方を見て、
「ごめんなさい、お義姉さん。ライザーさんが寂しがってるから帰りますね?」
「うふふ。……ちぇ。しょうがないな」
そうしてやっとファニーは解放された。ライザーにぴとりとくっつく。それをふわりと抱きしめる。
「お帰り。何だ、やっぱり酔ってるな」
「フフ。ただいまです。あ~幸せ~」
皆んなが、ファニーを微笑ましくみてる。
「今日は組長さんも優しかったし」
「ん?……組長?」
「はい。あの人、婆様の葬儀が終わって直ぐに私に愛人になれって言ってきたんです。組で薬を作れって。下剤を飲ませて追い出してからはちょこちょこ嫌がらせをされたけど。今日はお義姉さんたちをおもてなししてくれて助かりました。お礼をした方がいいですよね?」
四人の目付きが変わったことに、ほろ酔いでライザーにくっついているファニーには見えない。
「ほう……そうだな、俺が礼をしておこう。妻が世話になったならお礼はしておかないと」
「そぉねぇ、そんな事があったのなら、義理の姉として私も行こうかしら」
「それなら可愛い義理の妹の為だ、俺もついて行こう」
「任せてください、女神!徹底的にお礼してきますよ!」
「ファニーは明日も早くから仕事だろ? もう寝よう」
「はい、そうします。皆さんお休みなさい。また明日お会いしましょう!」
何度も振り返って懸命に手を振るファニーたちを見送り、三人は自分の荷物入れをゴソゴソと探り、準備をし、現地でライザーを待つ。
四人揃って並ばれ、組長は蒼白になりながら命乞いをした。
「い、いいい一度は見逃すと、おっしゃられたのでは?」
「ライザーの件は見逃すわよ」
「ミリエアは嘘は言ってない」
「今からのは~、」
「五年前のファニーの分の、お礼参りだよ」
悪魔降誕。
夜明けの光を見た組長と組員はその後、更地になった屋敷を後に、王都でダーナット商会の人足として、一生、懸命に、働きましたとさ。
この出来事に、裏社会及び騎士団上層部は阿鼻叫喚となったが、騒ぎの中心人物たちは何食わぬ顔で日々を過ごすのであった。
気分的に第二章です。元の副題は、「騎士、姉に怯える。」でした。内容が解りやすい副題はイマイチかと変えましたが、あんまり怯えてないので、結果オーライでしょうか。