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その4。騎士と魔女は。

あけましておめでとうございます。

また、少し長い気がします。


 七日下剤(なのかげざい)

 この街では有名な下剤。この街の騎士団では、罪人、捕虜やスパイ用の自白剤として使われたりする。あらゆる痛みに耐性があってもトイレから動けないのは堪えるらしい。この街に来るようなスパイは新人ばかりでよく効く。水分まで出し切って、やっとトイレから離れられても、一口水を飲んでしまえばたちまちの腹痛が起き、もう出すものが無いのに出そうな気配にまた一日トイレに逆戻りになる。毒に耐えるより精神をゴリゴリと削られるらしい。いまのところ、七日間を耐えきった人間はいない。

 あの薬を使われるならと犯罪は激減。山姥がものすごく貢献しているのが、騎士団的には複雑だが。


 しかし騎士団員は皆思う。浮気だけはすまいと。



 ファニーは近くの貸家屋には部屋が空いていないと断られたので、一旦ライザーの家に泊まることになった。

 ライザーの部屋とは台所を挟んだ反対側の部屋。二階の部屋でもよかったがベッドがあるのがそこだけだった。荷車はギリギリ玄関に入ったが動かせないので勝手口から出入りする。

 薬の納品が遅れる事を取引先の店に伝えに行ったり、荷車を借りるのを一日延長しに行ったついでに休日をもう一日もらいに詰所に行ったり、薬棚を探しに家具屋を覗いたりしている内にいい時間になったので、少し早めの夕飯をライザー行きつけの酒場で済ませることにした。

 酒場料理なので塩分多めのメニューに驚いたり感心したり忙しく反応しながらファニーが少しずつ食べる。ライザーはそれを微笑ましく見ていた。


 その日、ヤクザ騎士が黒魔女を従えたとか、黒魔女がヤクザ騎士を操っているとか、瞬く間に噂が流れた。


「隊長は、黒魔女に操られているんですか?」

 ファニーがライザーの家に住むようになって一週間。先程ジャンケントーナメントで負けた部下が、書類仕事をしているライザーに聞きに来た。平和で何よりである。

「……俺はどこかおかしいか?」

 心持ち低い声を出して聞くと途端に青ざめ、いつも通りであります!と直立する。

「そうか」

「た、たたただだ、街中そんな噂がととと飛び交っていいいいます!」

「……そうか。……家が壊れた彼女に、うちの空いている部屋を貸しているだけだ。まあ、大家と店子の仲だな」

 ジャンケンに負けた勇者に免じて、少し突っ込んで話す。嫁入り前の娘さんに悪い噂が立つのは良くない。ファニーの場合はもう遅いかもしれないが。

「貸部屋は今の稼ぎでは借りられないらしい。蓄えが貯まるように今頑張っているぞ。俺ん家は部屋だけならまだ四つ空きがある。家の掃除をやってもらえて俺は助かっている」

「へぇ~」

 黒魔女のボロ小屋を思い出し納得したように頷いた勇者は、仲間たちに「隊長はシロだ!」と叫んだ。

 何がシロいんだ。ライザーは気付かれない程度にため息を吐いた。


 正確には、ファニーを泊めた次の日に改めて探しに行った街中の貸家屋すべてに黒魔女に部屋を貸したくないと断られた。

 薬は助かっているが胡散臭い住人が出入りするのは大家として困ると行く先々で断られた。面倒なので脅しをかけようかと思ったが、自分がいるのにそれでも断るとは、そこまで嫌かとライザーは逆に感心してしまった。

 まあ、分かっていました……と落ち込むファニーの頭をローブ越しに撫でて、二人でライザーの家に帰った。


 荷車を返さなければならないので、とりあえずライザーの家にそのまま荷物を運び込む。荷物の量と使い勝手により、泊まった部屋とその隣部屋と二部屋に決定。勿体ないので一部屋で!と言い張るファニーに、仕事部屋と寝る所は分けないと荷物が入らんし、俺がこの部屋を使う予定も無いと説き伏せる。実際、荷物を入れるとベッドを置く隙間が無かったのでファニーは納得してくれた。


 黙々と片付けをし、仕事部屋らしく落ち着いたところで休憩にしようとファニーに声をかける。昨日は元気に返事をしたのに大人しい。

 湯が沸き、お茶の準備ができても椅子のわきに立っているファニーは、ライザーが茶器を手元において席についてもまだモジモジしていた。

「あ、あの、またあの森に家を建てる為の資金ができるまで、こちらに置いてもらえないでしょうか?」

 ああ、それを考えていたのか。

「ああ構わない。ファニーの気がすむまでいればいいよ」

「うえっ?!そんな簡単に言っちゃうんですか?」

 座りなと促せば、ファニーもやっと腰かけた。ファニーの気持ちに負担を掛けないようにと、ライザーは軽く聞こえるようにした。

「自分で言うのも何ですけど、私、見た目から胡散臭いですよね?」

「そうだな。いまだに素顔も知らんしな」

 ファニーの言葉に吹き出しそうになるのを誤魔化して返事をする。

「うぅ、それは、もう、なんか、恥ずかしくて……いや、そうじゃなくて! あれ?そうなのかな? そうですね、素顔も見せない女ですよ! 生い立ちは話しましたけど、現在の私を信用させるものではないと思います。ライザーさんは真面目な人ですが、わりとお人好しです!私が悪女だったらどうするんですか!もはや騙されてますよ!」

 ライザーは怒られた。悪女だったら、ねぇ……ぶふ。

「わ、笑ってる場合じゃないですよぉ。うぅ、なんか、何をどうしたいかわからなくなっちゃった……整理するのでちょっと待って下さい」


 頭を抱えるファニーが落ち着くように、ライザーがお茶を淹れて渡す。


 そのカップは荷車を返しに行った後に買ったものだ。家の食器はライザーの分しかない。客用に必要な物を準備するとでっち上げ、雑貨屋に入った。安いのをと探すファニーを横目に、丈夫な物をさっさと購入。ベッドは備え付けがあるので替え用のシーツ等の寝具類と寝間着。鍋に調味料に布巾、家に必要でライザーの家に無かった物を思い付くだけ購入。色々と買ったが無駄使いではないのに、何故かファニーは落ち込んだ。

 ファニーの好みより武骨な物ばかりなのだろう。自分の欲しいものを買うという目標があれば、仕事もよりやる気が出るだろうと内心で言い訳をし、女の買い物がどんなものか思い知ってるライザーはファニーが大人しくついてくることにホッとした。


 ライザーは二杯めのお茶を淹れながら言ってみた。

「まあ、仕事をするにはここは不便だろうな。森までそれなりに距離があるから、採取してすぐ作業できないし」

 テーブルの上で手を組み親指をぐりぐりと回しながらブツブツと考えていたファニーが顔を上げる。

「更に俺と二人きりだ。身の危険を感じるのは正しい」

「それは無いです!ライザーさんからは全くそんな気配を感じません!」

 今まで特にそんな気分にはならなかったが、ここまで無防備に信頼されるのも男としてどうなのか?とチラリと落ち込むライザー。

「婆様が亡くなってから、私に優しくしてくれるようになった人には皆裏がありました。薬の配合を教えろとか、世話をするから売上を寄越せとか、何回か手籠めにされかけたのを下剤を飲ませて追い出したこともあります。だから、そういうのは見抜く自信はあります!」

 聞き逃せない事があったが、今それはいい。

「俺だって隠すくらいのことはする」

「それなら……ライザーさんなら良いです」

 ライザーは目を丸くした。

「誰かと一緒にいて、こんなに楽しいのは婆様以来です」

 ますます、ファニーは何を言っているのか分かっているのかと不安になる。

「まさかの年寄扱いか? 俺は25歳だ。まだ当分枯れないぞ」

「わかっていますそんなこと。ライザーさんは素敵な人です。私の危機管理のために婆様がその手の事を教えてくれたので、男女が何をするのかは知ってます。ただ、そうなったとしても、私の体では何も楽しくない事に申し訳ないですってことです。家賃もまともに払えない、文無しの私をこうやってお世話してくれて、それくらいでしかお礼ができないのに……なので!経験がなくて満足させられないでしょうが、その時は遠慮なくどうぞ」

 

 え? これはもしや据え膳か?

 静かに動揺するライザーとは逆にファニーは落ち着いたのか、少し俯いた。

「私にはずっと婆様だけでした。家が壊れて、どうしようもなくて、あの時に婆様助けてって泣いてたんです。……フフ、婆様がもういないことはわかってるのに。頼れる人なんて誰もいないって涙が止まりませんでした。そしたらライザーさんが来たんです。夢を見てるのかと思いました。実は家の下敷きになって死んでいて、人生最期に見る夢だと。……抱っこされて、家に入れてくれて、お風呂を沸かしてくれて、着替えを貸してくれて……あったかい部屋で、ライザーさんに助けられたことにまた泣いたんです」

 俯いていたファニーが顔を上げる。それでもフードで見えないが。

「ライザーさんに心から感謝してるんです!だから、迷惑になるのがわかっていても頼らざるを得ないのが申し訳なくて……」

 そんなに感謝されてたのか、とライザーのうなじがむずむずする。実は迷子猫を拾ったつもりだと言ったら怒られるだろうか。

「まあなんだ、ここで暮らすのは嫌ではないってことで良いのか?」

「う……そうです、だから困ってるんです。ライザーさんの傍は居心地が良くて。私がいることでライザーさんの評判が悪くなるのは嫌なんですけど、離れがたくて……」

 突然、ライザーは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

「ライザーさん?!どうしました!!」

 ファニーは慌てて立ち上がり傍に寄る。


 駄目だ!恥ずかしい!

 他人からここまで素直に好意を寄せられたことがないライザーは困惑した。何が困惑って、ファニーに告白してるつもりが全く無いことだ。

 ライザーはファニーに対して無いはずの下心が沸き上がりそうである。天然コワイ!これで押し倒した日には立派な犯罪者だ。この顔に見合う犯罪者となり、あの下剤を飲まされ、トイレから出られなくなる。散々だ!


 ライザーでさえ半年のボッチ生活は実家がほんのり恋しくなった。婆様が亡くなってからも、まともな同年代の友人がいなかったらしいファニーの寂しさは想像できない。手を掛けすぎたろうか。だが放っては置けなかった。家族以外で普通の会話ができる女性なのだ。


 老後の為の貯蓄を始める程、ライザーは女性に縁が無かった。

 青ざめた色仕掛けや、上司の薦める見合いでは気絶され、娼館ではせめて目隠しをしてくれと言われる。

 顔も見えない魔女な見た目でえげつない下剤を使いこなすだろうファニーが可愛いと思える程に、女性にだけ縁がなかった。


 しかし天然ボッチの破壊力は抜群だ。取扱書はどこだ!

 ライザーは顔を上げて、すぐ傍で心配しているファニーに自分でびっくりの言葉を吐いた。

「結婚でもするか?」

 ファニーが息を飲んだ。その音を聞いてライザーは自分が混乱しているのに気付いた。今何言った!?

 しかしもう口に出してしまったものは取り消せない。成るように成れと瞬時に理由をでっち上げる。

「知っての通り、俺は女性に縁がない。ファニーが初めての普通に会話できる家族以外の女性だ。だから俺だってファニーの傍は心地いいし、会えた時は毎回楽しかった」

 これっぽっちの動揺も見せないで淡々と話すライザーだが、内心は荒れ狂っていた。今口から出たのは恥ずかしすぎる本音である。どうにか羞恥の中の理性という小船が転覆しないでいるが動揺の荒波は更に激しくなった。

「だが、それが恋愛感情かはわからない。例えるなら友愛だろう。ファニーもそうじゃないか? まともな恋愛なんかお互いしたことがなかったから距離感が掴めていない。だから簡単に体を預けると言えるんだ。男なんて簡単にその気になるんだぞ」

 その気が無くても出来るんだぞ。後で泣いたってどうにもならないんだぞ。

 一番伝えたい事だけは言えた。


 ファニーが小さく頷く。それを確認し彼女を椅子にまた座らせ、ライザーは冷めたお茶を熱いものに入れ直す。その動作で少し落ち着くと、ライザーは深呼吸をした。

「で、結婚の話だが。契約結婚しないか?」

「契約?」

「利害の一致による結婚」

「え? そんなのあるんですか?」

 この街では無いのか、ファニーが知らないだけか。その事にまた少し落ち着いた。

「貴族ではよくある。平民でもないことはない。恋愛じゃなくても上手く続くことも多い。まあ、結局別れることもあるが」

 「へ~、世の中色んな事があるんですね」

 ライザーの言うことを素直に聞く様子が可愛い。なんだコレ、俺まだオカシイ。

「で、だ。一人で住むにはこの家はでかい。ときどき虚しくなる。それから、上司からの見合い話を楽に断れる。同僚からの同性愛疑惑を晴らせる。俺としては実はそういう訳で嫁さん募集中なんだ。契約は家事をいくつかしてくれれば家賃はタダでいい。なんなら二階の部屋も使って構わない。食費も俺が持つ。ファニーの稼ぎはファニーのものでいい。贅沢は無理だが二人で生活するのには困らないだけの稼ぎはあると思う。えー、後はなんだ」

 こんな理由で結婚してくれるか不安だが、自分が契約として出せるのはこんなところだ。

「……あの、子どもはどうします? 私、生理不順ですし、妊娠出来ない可能性が高いです……」

 子供。そういう行為は無しのつもりだったのでライザーは非常に焦った。

「ああ、俺自身継がせる物は何もないんだ。実家の商会は兄が継いでるし、後継ぎも生まれてる。時期が来たらファニーは弟子を取ればいいんじゃないか? 俺に何かあった時にはこの家がファニーの物になるように手続きしておく。それに、お互いの気持ちが合うまで、同じベッドに寝ることはしない」

 お互いと言っておけば、ファニーも焦る事はないだろう。

「……なんか、私への条件が良すぎじゃないですか?」

「そりゃあ必死にもなるさ。俺にとっちゃファニーは奇跡の女だが、俺より付き合いやすい男なんて国中にごまんといるからな」

「奇跡って……でも、恋愛じゃないんですね……」

「この好意がどの程度なのか自分でも何とも言えない。今すぐじゃなくて一ヶ月後に返事を聞かせてくれ。その間によく考えてくれよ。俺もよく考える」

「結婚しないときは?」

「友達であり、大家と店子の関係だな」

「……わかりました。一ヶ月、考えてみます」



 そんなやり取りをしての五日目の今。ライザーはもはや有頂天であった。毎日、おはようと言い合い、一緒に朝食をとり、行ってらっしゃいと見送られ、巡回中にバッタリあってみたり、すっきりとした家にお帰りなさいと迎えられ、夕飯を食べ、少しお茶を飲み、お休みなさいと言い合って寝る。その日にあったことをお互いに話す。ファニーはもう少しで早朝取りの時期が始まる為、その時はメモを残すとか。夜勤の時は戸締まりしっかりとか。


 ライザーの表情には全くまっっったく出ないのだが、楽しくてしょうがない。勇者が現れたのも、浮かれた気配が伝わったのだろう。いかん。気を引き締めなければ。

 しかしファニーは毎日よく動く。もっと家事の割り振りを自分に増やそう。それとも薬草を擂り潰すのを手伝った方がいいだろうか。あの細腕ではあっという間に倒れそうである。気をつけなければ。浮かれた自分が滑稽だ。きちんと冷静になってファニーをみよう。自分の一生の事だがファニーだってそうなのだ。ファニーにだけは後悔させたくない。


 そうしてライザーは今日も家に帰る。灯りがついた窓が嬉しい。玄関を叩く。パタパタと音が近づいてきて、はーいと声がする。「ただいま」そう言えば鍵が外され、扉が開く。そうして真っ黒い物体が、「お帰りなさい」と声だけ笑う。顔は見えない。


 ああ可愛い。抱きしめたい。愛しい。落ち着け俺。変態行為駄目、絶対。


 ライザーが夕飯の片付けをかって出て、ファニーは残りの調合をする為に仕事部屋へ入った。食器を仕舞い終えたところで、ガタン!と音が。

 慌てて仕事部屋を開けるとファニーが倒れていた。肩に触れると熱い。息も荒い。すぐ隣の部屋に運び込みベッドに寝かせる。 

 ライザーは井戸から桶に水を汲み、布を絞って、迷ったがローブは着せたままにし、フードを持って顔にそっと触れながらおでこを確認し布を乗せる。息苦しいと思って顎から鼻までフードから出した。 スッとした鼻。薄めの唇は呼吸が激しい。ローブの裾を持って足を見ないようにパタパタと扇ぐ。もう布がぬるい。また絞っておでこに乗せる。

 何度も水を汲み直し、ローブを着せたまま届くところまで体を拭き、夜中になった頃、少し呼吸が落ち着いた。着替えをさせたいが、躊躇してしまう。

 

 呼吸が落ち着いたのならと布団を掛ける。湯冷ましの準備をして、また布を水に浸す。

「ライザーさん?」

 微かな声に振り向けば、ファニーがこちらを向いていた。心からほっとした。顔を寄せてこちらもなるべく小さな声にする。

「熱が出たんだ。調子はどうだ? 医者を呼ぶか?」

「あ……すみません、ごめいわくを、おかけして、」

「いいよ。頑張ってたもんな。湯冷ましを持ってくるから飲むといい。汗が出たから着替えた方が良いんだが、できるか?」

 ファニーはそろそろと横に首を振る。

「そうか。じゃあ後にしよう。湯冷まし持ってくるな」

 ファニーの頭を撫でてベッドを離れる。湯冷ましを入れたポットとファニーのカップを盆に乗せて部屋に戻る。


 ドアを開けようとノブに手をかけると、部屋からすすり泣く声が聞こえた。熱があるとよく泣くよなと、ライザーは自分の子ども時代を思い出した。


 一応ノックをしてから開ける。盆を椅子に置き、ベッドに腰掛け、手で顔を覆って泣いているファニーの頭を撫でる。

「どうした?どこか痛むか?」

「めいわく、かけて、すみ、ませ、ん。も、もっと、が、がんば、るから、おねがい、ひとり、に、し、ないで、」

「……ああ。一人になんてしないよ」

「うぅ、でも、び、美人、が、いい、でしょ?どう、し、よ、もう、ひと、りは、いやあ、」

 どこからどこの美人が出てきた?

「なんだそりゃ? 俺はファニーを一人になんてしない」

「お、おとこ、は、み、んな、おっ、ぱいと、おし、りが、すき、だっ、て、かみ、きりや、の、おじ、さんが、ばーさまに、いって、たー、」

 いつの記憶だよ。しかもそれ美人関係ないし。

「わ、たし、どっちも、ない! ライザー、さんと、いっ、しょに、いたい、のに、」


 あー、甘えてんのか。

 それと同時に、一緒にいたいと言われた事が思いの外嬉しい。よく胸が熱くなると聞くが、それ以上だ。

 泣きながら喋って、えぐえぐ言ってるファニーを布団でくるんで横抱きで持ち上げ、そのまま膝に乗せる。持ち上げられて驚いたファニーはライザーの首にしがみつく。そのままライザーは緩く抱きしめた。

「ファニー。俺はどうしたらいい? もう婚姻届を役所に出してもいいか? 一緒にいるようになって一週間だけど、俺は毎日とても楽しいよ。ファニーがいつも頑張ってくれるから、ファニーが可愛くなってしょうがない」

 今までになく近い距離に緊張しながらも、驚かせないようにと囁く。


 ファニーは、ライザーの肩に少しもたれた。

「……わたし……わたし、ライザーさんの、お嫁さんに、なりたい」

 肩に乗る体温が愛おしい。

「うん。俺も、ファニーに嫁さんになって欲しい」

「うれしい…………ライザーさん……だいすき……」


 静かになったら規則正しい寝息が聞こえてきた。

 あー、恥ずかしかった。あんなこと、まさか自分が言うとは人生何があるかわからんな。熱に浮かされてたみたいだから、明日には覚えてないよな?

 ライザーは一人どぎまぎとしつつ、まあ覚えていたらいたで役所に行けばいいかと勝手にまとめて、ファニーをそっとベッドに降ろすと桶を持って部屋を出た。


 次の日。熱も下がりすっかり回復し、まんまと夕べのアレコレを覚えていたファニーを連れ、教会で神父に婚姻の証人になってもらい、その届けを役所に出して、ファニーの婆様の墓へ報告に行った。

 予定が少々狂ったが、ファニーが喜んでいる様子にまあいいかと、二人で選んだ焼き菓子を買って帰った。



 街では、ヤクザ騎士と黒魔女の婚姻に大混乱が起きたとさ。

 めでたしめでたし。









お読みいただき、ありがとうございます。

めでたしめでたしで締めましたが、まだ少し続きます。

更新遅いので、一区切りの目安にしました。

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