前編
異世界モノの小説に、勇者を召喚して、お姫様がハーレムの仲間入りになるっていうのがあるじゃないですかぁ。勇者様ぁってあまーく媚び売る声を出して、公主としての役目を尻目に色恋に溺れるお姫様のそれ。
やだぁ信じらんない。自分ならハーレム要員になんかなりたくないね。
私は摩訶不思議現象をこの身で体験した、まあ所謂転生王女だ。おら、王族だそ。もっと敬え。うそうそうそ。ほんとにしなくていいから。
記憶があるだけとか前世の名前から死に際までくっきりと覚えているとか、どんな転生かというそんな些細なことは放っておこう。とにかく私は転生者だ。そういう設定だ。
死んで生まれ変わった次の私は王女だった。やったね勝ち組コース。
舌がとろけるほどの料理に、流行最先端のドレス、星のように輝く数多の宝石。全てが私のものだった。
与えられたに過ぎないのだからもっと謙虚になりなさいって? いやね、二度目の人生よ。私は欲望に忠実に生きることにしたの。
そんな贅沢という贅沢を、分厚い猫を飼いながら堪能していた私は、ある日思い出してしまった。
あれは王城を歩く、ある美形として有名な貴族を見かけた時だった。いや、正しくは美形を見たのではなく、その周りを見たのだ。
ただ美形を見ただけなら、私だって眼福眼福ーと下心満載の心情を隠して観察に没頭していただろう。だが私は見てしまったのだ。──美形に群がる女達を!
勘違いしないで欲しい。私は別に、実は美形に恋しているとか、彼女達に嫉妬したとか、そんなことは一切ない。ただハーレムの一員に成り下がった彼女達が醜く見えて仕方なかったのだ。
愛を幾人で分け合う? なんてバカらしい。愛は一人占めしてこそなのに。
前世が影響してる? ええそうかもね。美形を堪能することは賛成だけれど、所詮は観賞用。見ているだけで十分。
私は絶対にああはならない。ハーレムの一員だなんて。たとえ勇者であろうとも。
だいたい召喚してもすぐに魔王討伐に出る勇者に惚れて、どうしろと言うんです? しかもいつ惚れるの?
そりゃあ旅の途中で、普段はがさつだけど女らしいところもあると褒められる女剣士とか。純情だと見せかけて実はビッチな僧侶とか。凌辱の危機を救ってもらうのがお決まりのエルフだとか。私がどんな偏見を持っているのかはこの際置いておいて、彼女達がハーレムの一員に加わることは、まあわからないでもない。
でもお姫様って? あなた(と言うか私)はいつ惚れたんです? やっぱり一目惚れか? 顔なのか?
いやいやもっと懸念すべき点があるでしょう。性格とか社会的ステータスとか。勇者ならきっと性格はいいし、地位も確立されているとかいう結果論は今はどうでもいい。とにかく、私は勇者のハーレムの一員にはなるまいと決めている。そんな尻軽になってたまるかというものだ。
ところでなぜ私がハーレムという名の城の主を勇者に限定するのかと言うと。勇者が来るからだ。現在進行形で。
「光の加護を受けた勇者様! どうか、どうか我らの求めに応じください!」
勇者召喚の儀式なう。
そう、そうなのだ。なんともお決まりのパターンであるが、魔王の脅威に恐れをなした私達は、異世界の勇者に助けを求めた。
自分の世界の問題くらい自分達で何とかしろ? 今日か、明日かの命なのだ。背に腹はかえられない。異世界の人間一人、私達の平和のために犠牲になってもらう。世界は残酷なのだ。
召喚の儀式を行っていた神官が最後の祝詞を唱え終えた時、一層激しい光が召喚の間を照らした。思わず目を閉じる。しかし、閉じる瞬間に人影が目に入った。儀式は成功したのだ。
これで私達の世界に希望が舞い降りた。だがその希望は、私に限りたちまち絶望として牙を剥く可能性もある。
ゆるゆると、礼儀を尽くして現れた勇者に敬意を示して頭を下げる。
私は決してハーレムの一員になぞならない。王女としての矜持と、私の自尊心に懸けて。私は固い決心をした。
「ようこそ、いらっしゃいました勇者様。どうか我が国を、世界をお救いくださいませ」
王(つまり私の父)の言葉と共に、伏せていた顔をゆっくりと上げた。そして招かれた勇者の顔をまじまじと見つめる。
「(勇者ハーレムの一員? あ、わかるぅ)」
お姫様は面食いだった。




