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変革者@ショートストーリー

作者: 雨の日

バレンタインショートストーリー!

~ドキドキ・ソワソワ・ウキウキ・ガビーン~


『はーい、起床時間でーす・・・みんな、体操すっぞー・・・』


朝の六時

あいも変わらず眠そうで気だるそうな声でアナウンスがはいる。その声の主はここ、天候荘のトップスリーの一人、天パ皇子ならぬ雨の日だ。なぜアナウンスがはいるのかというと

ここでの朝の日課はラジオ体操だからだ

健康第一と掲げての事だが、トップがこんなにもダルそうな態度でいいのだろうかと晴れの日は常々思う


「・・・さて・・・行くか」


銃の引き金を引けば熱が生み出され、自在に操ることができる変革者、晴れの日はうめくようにして寝床からはい出る

そう。かくいう晴れの日も朝が強いいわけではないのだ

夜更かししているわけではないのだが、どうにも朝は起きられない

重たいからだを引きずるようにゆったりとした足でクローゼットからジャージを取り出しモゾモゾと着替え、集合場所へと向かう


「あら、朝から辛気臭い顔ね」


「くっ・・・朝は苦手なんだよ・・・」


集合場所ではすでに何人かの変革者が集まっており、その中の一人、開口一番に毒を吐くこの少女は雷火の日

自らの対組織にかかる重力をコントロールできる変革者だ

性格はお察しの通り刺々しい

だが、悔しいことに晴れの日のパートナーでもあるのだ

毎度毎度雷火の日のいうことには一理あるのがまた憎い

今の言葉も晴れの日自身でもそう思っていたということもあり実に憎たらしい


「雨さん・・・寝ぐせぐらい直したらどうだ?」


雷火の日に罵倒の言葉をかけられ、眠気を吹き飛ばそうと頬に一発びんたで気合を入れる晴れの日がふと目にしたのは、前に立ってはいるもののまだ寝巻きのまま大きな欠伸をしている雨の日と、その寝ぐせを注意する天候荘トップスリーの一人、曇りの日だった


「いーんだよー・・・ふわぁぁ・・・」


「ほらほらー!元気出せよ、天パ!!」


と、そこに超元気な青年が一人、雨の日の背中をバシッと一発叩きながら背後に現れた

ここ、天候荘のボスにして、全国帝にもトップの座に就くこの男

雷の日だ

彼は朝にとても強く、同じジャージ姿だというのに周りとの存在感がまるで違う


「天パはかんけーねーって・・・しゃーない、体操始めるか・・・」


嫌々ではあるが雨の日が眠たそうにまぶたが落ちるのを食い止めラジオ体操に取り掛かる


「ほら兄ちゃん!起きなきゃ体操始、まる・・・デス、よー・・・!!」


「低血圧なんだっての・・・寝かせてくれ・・・」


ようやく体操が始まるというときに、朝日に照らされて輝く銀の髪をなびかせた二人が、否。正確には一人が一人を引きずって現れた

氷の変革者、雪の日と突風の能力者、嵐の日だ


「あーあー・・・雪、嵐の服汚れちゃってるぞ・・・」


ほとんど毎日見ている光景に、晴れの日も半ばあきれ顔でやんわりと止めに入る

だが、ここまで含めて朝の恒例行事だ

嵐の日は低血圧。言わずもがな朝がとてつもなく弱いのだ。だが対照的に雪の日は元気いっぱい、まさに健康そのもの。毎朝の体操を欠かしたことはない


「まったく・・・ほれ嵐の日!少しはシャキッとする!!」


「師匠!?は、はい!」


突然そこに、一人の女性の凛とした声が響く。その声が嵐の日の耳に飛び込むとともに背筋が伸びる

声の主はここ天候荘の教官であり嵐の日の師匠にして、鎌鼬の変革者、風の日だ

そしてその背後にももう一つ影が見える


「やほっ雪!今日は日が日にだけにみーんなで天候荘に戻ってきたよ!」


「霙じゃないデスか!」


再会を喜び合う二人はヒシっと抱き合う

雪の日と嵐の日は生まれが海外であり、目の色や神の色、それに身長も低く外見的見た目に強いギャップがある

だが、その低身長と抱き合う霙の日の身長も低く、ちょうどお互いにぴったりと背丈があすのだ

・・・霙の日は日本生まれの日本育ちなのはきっと気にしてはいけない事だろう


「霙、みんなって??」


会話の一部始終を聞いていた晴れの日はその言葉に引っかかる。みんなというのはどの範囲を示すことなのだろう

それに、日が日とはどういう意味なのか?

今日はなにかの祝日だったかと脳内検索をするが何も引っかからない


「みんなっていうのはみーんな!私たちみたいな偵察部隊も、遠征に出ている変革者達も、みーんな!」


霙の日の説明があってもなお晴れの日には理解ができない

一体どうして戻ってきたのか、が

それを悟ったのか風の日がクスリと口に手を当て晴れの日の耳元でささやく


「今日が何月何日か忘れた・・・?」


今日・・・

2月14日


「あぁ・・・なるほど・・・今日って」


なぜ検索に引っかからないのかがわかった

晴れの日は生涯の内でこの日、甘い思い出など一つもなく、子供にはまだ早いビターな思い出しかないからだ

そう、今日は


「バレンタインデーじゃん・・・」











雷火の日の場合


「・・・なんであんたがわたしの前に座って朝食を待っているのかしら?」


時は経ち、場所は変わり食堂

ジャージ姿から着替え、ラフな格好の晴れの日。だが、バレンタインデーを意識してか、しっかりとジーパンを履き、おしゃれな緑色の上着を羽織っている

服を選ぶので少し朝食に出遅れた晴れの日は座れる席を探したのだが、あいにく満席。しらない人と相席というのも気が引けるので仕方なく雷火の日の向かいの席に荷物を置き、パートナーのよしみ、というものを使おうとしている


「正確にはちょーっと違う!まだ朝食を頼んでいない!ってか席開いてないんだ!頼む座らせてくれ!」


ぐるりと回りを一望する雷火の日

確かに満員。他にあいている席はないだろう

重たい空気を吐き出すかのようにため息をつき、渋々と首を縦に振った


「ありがと!!んじゃ俺、朝食買って来る!」


「はいはい勝手に行きなさい・・・ってもういないし」


よほどおなかがすいていたのか、晴れの日の姿はもう見えなかった




「フレディ!おはよう!」


「Oh!ハロー、ハレ!朝ごはん、和食が良い?養殖がいい?」


英語訛りのある日本語を話すのは、この食堂の最高責任者でありながらも医者としての心得も持ち、マッサージの資格もあり、薬剤師でもありその他諸々謎多き男。フレディだ


「養殖、じゃなくて洋食だよ!んー・・・和食にしようかな!」


「sory!日本語って難しいー!OK、和食ね!」


確かに日本語の発音は外国人であるフレディには難しいだろう

だが、ここまでしっかりと話せるのはやはりすごいことだと思う。晴れの日も学校に普通に通っていたころに英語の授業を受けていた記憶がうっすらとあるが、話せと言われたら絶対に話せないだろう


「おう!それじゃ、出来たころにまた取りに来るね!」


晴れの日の言葉にグッと親指を立ててウインクをかますフレディ

見た目は肌も黒く筋肉も引き締まっているので怖いイメージを持たれがちだが内面はすごく優しくフレンドリィ。実に素晴らしい人なのだ


「さて、雷火の席はどこだったかな・・・?」


人ごみの多さに見慣れた食堂であっても迷ってしまいそうなほどだ

なんとか背伸びを繰り返し、見慣れたハーフアップの少女を見つける


「・・・もう少しゆっくり買っていればわたしは食べ終わったのに・・・」


「ま、まぁまぁ・・・そういわずにさ・・・」


見ると雷火の日の皿の上にはあと二口ほどのスープとひとかけらのパンだけだった

どうやら朝はパン派のようだ


「あ、そーいえば雷火」


「なによ」


こちらを見ることなく答える

パンを食べやすいようにちぎり、口に運ぶ


「その、今日ってバレンタイン・・・じゃん・・・?」


「そうね」


次にスープをすくい音を立てずに丁寧に飲む

湯気こそないが暖かそうなそのスープに晴れの日の食欲は刺激されていく


「誰かに・・・あげたり・・・?」


「雷様」


一気にスープを飲み干した

そしてパンも食べ終えた

ナプキンで口の周りを丁寧にふき取り、これまで以上にない簡潔な一言の返答をする

雷火の日は雷の日に溺愛と言っても過言でないくらいに惚れているのだ

それが恋愛対象なのかあこがれなのかは分からないが、確かに惚れているのだ


「デスヨネー・・・はい、分かってました・・・」


「何?欲しいの?残念。わたし本命しかあげないのよ。あぁ、恋愛としての本命以外もあるけれどね」


つまりは雷の日は恋愛の対象ではないのだろうか?

だがそんなことを考える前に晴れの日は一発KO。すでに望みの一つを絶たれたのである

心のどこかで義理でも友チョコでも・・・と思っていたのはおろかな間違いだったのだろう


「そ、そうか・・・手作り?」


「・・・わたしの人生で最も手ごわい相手だった、とだけ言っておきましょう」


どうやら手作りのようだ

雷火の日は、イメージ通りというかなんというか、料理全般が苦手なのだ

不器用ともいえよう

そんな雷火の日が手作りでチョコレートを作ったとは中々にチャレンジャーだ


「き、きっとおいしいだろうね・・・」


雷の日の身が不安だがそれを口にはできない

せめてもの言葉を晴れの日は絞り出す


「・・・だといいんだけど」


雷火の日も、自信満々ではないようだ

いつもと違って覇気が薄れている。それだけ不器用なのだ、彼女は


「さて、わたしの朝食は済んだことだし、行くわ。あんたも精々チョコがもらえることを祈ってなさい」


「んなっ!?貰えるっての!!心配なんかないしー!」


自分で言っていて悲しくなるのを晴れの日は分かっている

だが男なら誰しもこんな経験あるだろう

―――親から貰えるからゼロ個は免れる!

といった負け惜しみもいいところのこの思いを・・・













撫子の場合




「あ、晴れの日君!雨様見なかった!」


フレディの健康に最大限配慮しつつスタミナを補給できるスペシャルな朝ごはんを食べたのち晴れの日は自身の鍛錬の為に訓練しようとおもっていたのだが、そこに白衣を着て、枝毛一つない艶のある真っ黒な髪を肩したまで伸ばした女性が肩で息をしながら現れた


「雨さん・・・?朝の体操以来見てませんよ?」


「んもうっ!逃げるな!私のチョコもらえってのー!!」


頬をぷくっと膨らませて怒りをあらわにする撫子

撫子は雨の日に溺愛しており、こちらは完全に恋愛対象として観ているのだろう

専門は治療。細胞を活性化させ、傷の手当を担当する変革者だ


「逃げられたんですか?」


「そーなの!まだ何も言ってないのに目が合うなり突然・・・失礼しちゃうよねー・・・」


寂しそうな顔で俯く撫子

晴れの日が知る限りでは、雨の日はそこまで非人道なことはしないはずだ

だが現にしている。この場合、撫子の味方になるのが一般的だ

晴れの日もその例外ではない


「分かりました!俺も探すの手伝います!!」


「いいの!?ありがとう!!あ、そうだこれ、雨様のチョコの欠片みたいなものだけど義理チョコ!」


思いもよらない収穫だ

まさか本当にチョコを貰えるとは・・・

それに撫子は可愛い、と言っても申し分ないだろう

もちろん年の差もあるので晴れの日が恋愛対象として観ることはないだろうが、世間一般論でも可愛いの部類だ

例え雨の日のおこぼれであっても十二分にうれしい


「え、いいんですか!?」


「もちろんっ!あ、生チョコだから溶ける前にね!それじゃ雨様見つけたらよろしくっ私はまた探しに行くね!」


晴れの日に簡素なラッピングのチョコを手渡し元気に手を振りながら雨の日を探しに駆け出して行く撫子の背をまるで女神を見るかのような目で追いかける


「それにしてもなーんで雨さんは逃げたのかなぁ・・・」


手に握られたチョコを見つめながらつぶやく

溶ける前に、と言われたことを思い出しこの場で食べるか迷う

食べたところで罰が当たるわけではないのだが、始めてもらう異性からのチョコにどう食せばいいのか決まらない

とりあえず、立ち食いはチョコ云々以前に行儀が悪いのでとりあえずベンチを探した


「・・・さて、深夜の紅茶でも買おうかな?生チョコって言ってたし、なんとなく紅茶かな」


自動販売機のそばには基本ベンチがある

そこで晴れの日は深夜の紅茶ミルクティーを購入し、席に着く


「さて、と・・・さっそくいただきます!撫子さん!」


袋からまるく、甘い香りのするチョコを取り出し、指先でつまむ

それを一気に口に放り込もうと大口を開けたその時―――・・・


「晴れ!それ撫子のか!?」


たまたま通りすがった嵐の日に声をかけられる

危うく落としかけるが何とか持ちこたえた


「な、なに!?そうだよ!?」


「悪いことは言わない・・・それをこっちによこせ・・・」


「・・・は?」


何を言い出すかと思えば、嵐の日は震える手で必死にチョコを奪おうとしてきたのだ

無論折角もらったチョコをそうやすやすと渡す程晴れの日はお人よしではない


「いやいや・・・俺が貰ったもんだから俺が食う、よっ!」


きっと嵐の日もチョコが欲しいのだろう

仕方ないことだ。男子ならば必ずしもそう思う

特に当てもないのに下駄箱を気にしたり、チョコを入れるときに邪魔になるとロッカーや机の中をきれいに片づけたり、と行動してしまうのは男性の性なのだから

だが人様のチョコを横取りしようとするのは遺憾である

晴れの日はそんな嵐の日の目の前で、一気に大口を開けその中に撫子特性生チョコを放り込む

お味は・・・


「・・・っ!?」


「あーあ・・・だから言ったのに」


あちゃーとこめかみを抑える嵐の日


「ぐ・・・あぁっ・・・うぅううぅ!?」


お味は・・・

お察しの通りだ

およそチョコとは言い難い甘味と砂糖のジャリジャリ感

そう、滅茶苦茶甘いのだ


「み、ず・・・!?」


なるほど

雨の日が逃げるわけだ―――










霙の日の場合



「っつあぁ・・・ひどい目にあった・・・まさか料理できないだなんて・・・」


「お?その声は新人くんじゃないかっ!」


後ろから声をかけられた

振り返ってみるが誰の姿も見えない

恐らく、先のチョコのせいで幻覚を見ているのだろう

晴れの日は再び反転し、前にむかって重い体を引きずり歩き出す


「ちょ!?無視!?」


また声がする

今度もまた振り返るが誰もいない


「あ!!下向けこのやろっ!!」


「あぶしっ!?」


突然腹に激痛が走る

晴れの日は痛みのひどい部分を抱え込むようにして膝から崩れ落ちる

その時、一人の少女が視界に入る

なるほど、身長の影響で視界に入らなかったのか


「身長ゆーな!!」


あぶしっ!?


「み、霙か・・・」


あいたた・・・っと

そこにいたのは腰に両手をあて、自分を大きく見せようとのけぞる霙の日であった

今日の服装はショートパンツに少し厚手の上着で任務の時には見えない女性らしさが出ていた


「霙か・・・じゃないよ新人くん!わざとでしょ!わざとなんでしょ!?」


「違うぜ・・・さっき撫子さんのチョコ食べて、視界が不安定なんだ・・・」


撫子のチョコ

その単語だけで霙の日の表情から怒りが完全に消え去り、心配のまなざしに変わる


「え、大丈夫・・・?治療室行くか部屋で休んだ方がいいんじゃない・・・?」


「そ、そんなに危険なの!?」


晴れの日は確かに死に物狂いの味でもがき苦しんだが、霙の日が言うほどではない

単に運が良かったのか霙の日の過大表現なのか・・・


「うん・・・毎年雨は二、三日部屋から出てこないよ・・・」


―――ごめん撫子さん。逃げて雨さん!

晴れの日の心の声は届くのだろうか・・・


「っと、まぁ新人君が無事なようだしはいこれ!チョコ!!」


「え!?」


唐突なプレゼントに晴れの日に衝撃と緊張が走る

やはり撫子のチョコが原因だ

警戒心が先走ってしまう


「だーいじょうぶ!こんなこと言うもんじゃないけど、レシピ通りのチョコだから!」


言わずとも警戒心は伝わったらしい

だがこれだけ自信のある霙の日のチョコなら安心だろう

なにせ彼女は偵察や潜入がメインだ。きっと手先が器用だろう

好意に甘え、素直に受けとる事にする


「あ、ありがと霙!!」


「いやいや~お返しは豪勢にお願いねー!新・人・く・んっ」


どうやらそれが狙いのようだ・・・

だがチョコの喜びに比べればお安い御用

晴れの日は高速で首を縦に振る


「あ、これ今食べていい?」


「ん?いーよいーよ!感想も聞きたいし!」


「それじゃ、いただきます!」


丁寧にラッピングを外し、袋から一枚の霙の形をしたチョコを取り出し、一思いにかじりつく

お味は・・・


「おぉ・・・上手い・・・」


「り、リアルな感想だね、でもうれしいな!お口にあったようで何より!」


口いっぱいにミルクチョコの甘味が広がり、まろやかな口どけで心が落ち着く

晴れの日、ご満悦―――












風の日の場合



「あ、風さん」


「晴れの日じゃない、なに?チョコおねだり?」


たまたま廊下ですれ違っただけで心を読まれてしまった

これ以上ないくらいの読心術だ

と、いうよりも今日その台詞を一体何人に対してはいたのだろうか・・・

風の日の事だから出会う人全員に言っているに違いない


「ぐ・・・否定したいけれども否定しきれないこのもどかしさ・・・」


「ふふん、晴れの日のことなどお見通しにきまってるじゃない!!」


正確には男子一般の、だろう

だが言葉とは裏腹に風の日は大きな手提げ袋を抱えていて見るからにチョコを配っているのだ


「おねだりなんて俺はしません・・・!女性の方から渡したいと思われる、そんな男になりま・・・」


「はい、チョコあげるわ」


「・・・ってちょっと!?俺の決意は!?」


これはチョコを断念すべきと腹を括った晴れの日だったが、突如空を四角い箱が舞い、晴れの日の手元にすっぽりと収まる

何気に晴れの日も大事そうにキャッチしている


「決意なんてされても困るわよ・・・ほら、折角の、義理、チョコよ」


ご丁寧に義理を強調して顎でチョコを指す

まるで晴れの日がチョコを貰えない悲しい人のようだ

・・・否定はできないが


「あ、ありがとうございます・・・」


「いえいえ。あ、お返しはたんまり貰うわよ~?」


「それが狙いかっ!?」


してやったりと言わん顔で風の日は笑う

どうもホワイトデーのお返し目当ての義理チョコだったらしい。男子の心を弄ぶとは何たる罪。まぁ女性の心中などほとんどの場合そうなのかもしれないが

だが、それでも欲しい男の性。あぁ無情だ・・・


「じゃ、私は他にも配りに行くわね」


「・・・お返し狙いですカ」


「もっちろん!」





















雪の日の場合


「あ、雪」


風の日に貰ったチョコを大事にポケットにしまい、当てもなくとりあえずフラフラと歩き回る晴れの日の前に雪の日が現れた


「お、チョコ狙いですカ?」


「なんでみんなそう聞くんだよ・・・っ!」


開口一番でチョコの話をされるとは今日という日は男子にとってある意味不幸な日なのだろう

確かにチョコが欲しいが、こう何度も聞かれると流石にチョコ自体が嫌になりそうだ


「大体わかるですヨ~。でも残念ですがボクは今年はホワイトデーに回りますネ」


「回る・・・?」


意味深なセリフを吐く雪の日


「はいナ。ボクは見ての通り性別が雪なので、毎年気分でチョコをあげる日を決めるんデス」


「性別雪って聞いたことないがな・・・」


自分の性別は雪だと主張する雪の日。だが、晴れの日にその真相を探る手立てはない

もしも探れば全身氷漬けの漬物石と化すだろうと嵐の日にとめられているのだ


「ってなわけで、ボクからは慰めの言葉しかあげませんヨ?」


「慰めなんかいらんわい!!」


「ハイハイ。じゃぁボクはこのチョコを部屋に戻すので。デワデワ~」


せめてもの反撃は軽く流され、大きな段ボールにチョコを大量に詰め込んで雪の日はどこかへ去って行ってしまった

取り残された晴れの日は・・・


「あいつの出番・・・これだけかよ」


いや、晴れの日のつぶやきは聞こえなかったことにしておこう















雷火の場合デレ



日は暮れて夕暮れ。今となってはチョコをもうもらうことなどない時間帯だ

残念なことに晴れの日は昼間にもらえたチョコ以外のチョコは貰う事が出来なかった

もしかしたら廊下ですれ違った女の子が一目ぼれ・・・などありもしない妄想もしたのだが所詮妄想。現実になるはずもなかった


「はぁー・・・」


「・・・辛気臭い顔ね」


憂鬱な晴れの日が俯いて歩いていると前から女性の声が聞こえた

ゆっくりと顔を上げてみると、雷火の日が窓から差し込む一筋の夕焼けに照らされて立っていた


「なんだ雷火か・・・」


「なんだとは何よ!!」


あまりに下がったテンションのせいで晴れの日はなんの感動も覚えずに言葉を発している


「いや・・・別に・・・」


「あんた・・・もうちょっと元気出しなさいよ・・・」


流石の雷火の日もここまでテンションの下がった男子にとどめを刺すようなことはしないようだ


「おう・・・」


「・・・で。本命のチョコ、いくつもらえたの?」


前言は撤回しておこう。やはり鬼畜な女だ


「お前・・・それを聞くのか・・・あーあー!ゼロですよゼロ!永遠にゼロってやつですよ!」


つい最近話題になっていた映画、微妙にゼロという映画のタイトルをもじった言葉遊びで返答するも、雷火の日には通用しないようだ


「・・・そ」


そっけなく一言だけ答えた。どうやら微妙にゼロの映画を知らない様子

そしてなぜかもじもじと体をよじらせる


「どうした?」


「ん・・・その・・・一つよ」


「え?悪い聞こえなかった?」


俯いて話され、かろうじて途切れ途切れでは聞こえるかなんて言ったのか全ての言葉は聞き取れない

すると雷火の日は顔を夕日に負けないほど赤く染めて何かを晴れの日に投げつけた


「本命一つって言ったのよ!!でも勘違いしないで!恋愛じゃないわ!パートナーとしての本命よ!!」


「おぉぉ!?え!?マジ!?」


思わぬ展開に思わず大声をあげて驚いてしまう晴れの日

顔が真っ赤の雷火の日はそのまま逆切れしつつそっぽを向いてどこかへ猛ダッシュで行ってしまった

これが世にいうツンデレのデレというものだろうか・・・


「まじか・・・え、まじか・・・」


手に持った小さなピンクの箱を大事に抱え、気分は上々

今日一番の収穫に、思わず頬が緩んでしまった


「食べていいかな・・・いいよね、いただきます」


ゆっくりと丁寧に梱包を開け中に入っている小さな四角いチョコレートを手に取る

ずっと雷火の日が握っていたのか、じゃっかん溶けて指に溶けたチョコが付くが気にしない

撫子の悪夢を思い出し、ためらいがあったが、思い切っていっきに放り込む


「お、うまっ・・・」


ほんのりビターなチョコは、今日一番の甘さだった―――












おまけ


「雨様―!!」


「うおっ!?ここ屋根の上だぞ!?」


「逃げないでチョコ受け取れー!!」


「え、遠慮しとくっ・・・まだ死にたくねぇ!!」


ぎゃーぎゃーと騒ぎながら雨の日と撫子は暮れる夕日をバックに盛大な鬼ごっこをするのであった・・・


そしてその日を境に雨の日の姿を見たものは居なかったという・・・


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