星色の珈琲
「いつの時代も悲恋というのは美しい」
寂れた喫茶店の店主が呟いた。
老いた女店主で光の加減で色の変わる珍しい瞳をしていた。
「お若いの、けれども死に色どられる美しさよりも生の方が何倍もいいもんさ」
彼女はそう言ってわたしを見て目を細めた。
「…あなたにわたしの何が分かるの」
わたしは店主を睨んだ。
たまたま入った喫茶店で何故わたしはこんなにも見透かされたようなことを言われてるのだろうか?
店主が声を上げて笑った。
「気の強い、しっかりした娘さん。
悲恋は美しい、されど役者不足じゃちんけな三文芝居 さ。」
そう言って店主はわたしの瞳を見つめた。
「その男はやめておきなさい。きっとあなたに相応しく ない。」
「あなたが命をかけるほど大した男じゃないさ」
不思議と、先ほどのような怒りは湧き上がってこなかった。彼女が正しいことを言っているとわかっていたからかもしれない。
「あなたは知っているの?」
わたしは彼女に尋ねた。
彼女は微笑んだ。
「迷っている娘さん、あなたはもう道が分かってるよ。」
わたしは彼女の前に代金を置いた。
店主は歌うように言った。
「悲恋は美しい、されどこれ以上にバカバカしいものもない。お若いの迷うな、惑うな、」
その声を聞きながらわたしは扉を開けた。
外はびっくりするほど明るい夜空が地上を照らしていた。