そして目覚め って奴です
side 勇者王 カルロス=ヴァン
天井のガラスを突き破り、落下してきたモノ・・いや、人だ
幸いな事に落下地点には王座があった。
十分な大きさもあり、クッション代わりにはなっただろう。
派手な落下音と砂煙を巻き起こし、先程まで殺し合っていた紅の王は落下してきた人物を凝視している。
そう言う僕も剣を振り下ろす手を止めていた。
もうもうと立ち上る砂煙。
まるで隠されるように影を映すその人物を目視する前に、紅の王と示し合わせたように距離を取った。
一足で斬りかかれない程度の距離だ。
やがて砂煙が晴れたとき、僕は息が止まった。
ー 美しい。
壊れた赤い玉座の残骸の上に、まるで眠るように横たわるのは”白い少女”
白い純白の衣服、白く艶やかな髪、汚れを知らない白き肌
その一つ一つに目を奪われ、戦場の中の一つでしかない音と認識している兵達を哀れに思った。
幼いながらも神秘性を持つその矮躯
小さく弾力のありそうな唇、此処が戦場などと生臭い場所でなければ”芸術”と言っても過言ではない程だった。
思わず視線を釘付けにされる。
「・・・・天使」
勝手にそう呟いていた。
意識はしていない、だがそう呟いた後で我に返り思わず赤面する
「どうした勇者王」
はっとなって視線を戻す
其処にはやけに真剣な表情をする紅の王が居た、手には炎の聖剣が。
だがその矛先はこちらに向いていない。
「・・・お前こそ、打ち込んでこないのか?」
吐き捨てる様にそう言うと、紅の王は小さく口元を緩ませて顎先で白い少女を指した。
規則正しい呼吸を繰り返す・・・小さな天使
「少し・・・毒素を抜かれてしまった」
そう言って肩を竦める
その顔は困った様な、嬉しそうな、そんな顔だった。
僕も同じく腕の力を抜いた、不本意だが同じ状況なのである。
だが決着はつけねばならない。
自分は勇者王なのだから、そう言い聞かせてほんの少しだけ戦場の雰囲気に酔い痴れる。
紅の王も目を瞑り、何やら集中しているようだった。
「さぁ、やろうか」
「・・・あぁ」
再び、剣を握る
突然の乱入者の御蔭で、少しばかり戦闘を中断したが...ここまでだ。
互いに敵同士、この戦闘でどちらかが死ぬのは明白
とすればあの少女は死んだ方を迎えに来た、本当の天使かもしれない。
ふとそんな事を考えた。
「危険と判断された強大な力は・・・・消すッ」
「私は、私の平和の為に戦う」
互いに剣を突き出し、そして一歩踏み込んだ。
その時。
「んぁ・・・・ぁ・・・・・っ・・・」
すぐ隣から声が聞こえた。
思わずそちらの方に顔を向けてしまう。
しまったと思い、慌てて紅の王へと視線を向けるが...紅の王も又、視線を外していた。
「ふぁ・・・・?」
まるで寝起きの様に目を擦りながら上体を起こす少女
衣服の肩掛けの部分がズレ、かなり危なっかしい服装となってしまっている。
その姿は無垢そのもので、半分瞼に隠れた瞳は血のように”紅かった”
「ッ・・・レッドアイ・・・?」
声はすぐ近く、紅の王から
当の本人はぼーっと眺めるように僕と紅の王を交互に視認し、徐々にその頭を覚醒させていった
そして白い顔が更に白くなるような狼狽を見せる。
泣き出しそうに、瞳へと涙を溜めて少女は言った。
「ここ、どこですか・・・?」
血に濡れた赤い戦場に、白い少女の声だけが残る。




