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追放と盟友 って奴です

side テルエ





森の奥深く、ラーグ家にて


腕があった。


千切た腕、体は何処に?


其処ら中に。


屋敷の中庭、破損し、欠損した肉体がゴミのように散乱する。


細切れにされた脚、すり潰された腕、弾けた頭、食い散らかした様な惨状


鎧が砕け、剣は鉄屑に。


骨が見える、噛み砕かれた肉体。散りばめられた肉塊にくかい


血溜りには抉り取られた眼球が。


枯れた様な瞳は驚愕に開き、されど何処か安堵の感情すら伺える。


口元は笑う、笑う、歪に歪む、笑う


カーペットは血に染まり”それは黒”


赤を塗り合わせたはてに染まった色だ。


その上に居座る彼らは殺された。


無慈悲に、残酷に、無情に、無作為に、そして無意味に。


血に浮かび、揺蕩たゆたう瞳は”私”を映し出した。








  



 「 あら嫌だ、この紅茶冷めてるわ 」









口元に運んだ紅茶を一口、私は顔を顰める


手に持ったティーカップを逆さにし、中身を床下の臓物どもにぶちまけた。


血と紅茶が混ざり合い、鉄の臭いに混じって甘い香りが鼻を突く


そのままカップを放り投げると、べちゃりと不快な音が響いた。




「ぅ・・・・ぁっ・・・・」




 一人。 一人だけ地面を這う虫けらが居た


指先から肩まで、大きく抉れた痕。大型の獣にでも齧られたような傷。


片方の瞳は血を流し、片腕で血を掴み足掻く。


恐らくもう目が見えていないのだろう。


腹を地面に擦りつけながら、少しずつ足元へと這い寄ってくる。


その目の色は灰色一色


臓物を足蹴にし、そのまま這い寄る虫へと目の焦点を合わせた。



「まだ生きているの? 運が良いのね、貴方」



静かに指差す。 狙いは頭部。 イメージは回転。




『 第一唱 風雷ふうらい 』




虫は目を瞑る、瞬き、その一瞬


小さな光は認識を超え、気付けば虫の背後の花々には血の絵画が出来上がる。


花園というキャンパスに描かれた紅い晩餐。


絵の具は”虫の血”


顔面をごっそり抉られた虫は、自分が死んだことも気付かずに血溜りに沈んだ。


肉片が一つ増えた。


血の海を歩き、水たまりで遊ぶような子供の様に血を跳ねる


顔は歪に歪み、歪む、歪んだ。


ふと、大きな魔力を感じて振り返る。


私が大きく振り返ると、足下で大きな風が舞った。


血の湖を巻き上げ、文字通り”血の雨”が降り注ぐ。





「あら、ケイズ お帰りなさい」




炎を纏い、紅い絨毯を蒸発させながら現れた男


片手を上げながら灼熱の門より出て(いで)る。


実に温厚で、優しげな笑みを浮かべながら・・・男は口を開いた。








「 ただいま、テルエ ちょっと”魔王”を半殺しにして来たよ 」






























              ✖✖✖




















「ぐ・・・ぉ・・・っ」


「魔王様!」


魔王城の一角、治療室は騒然となっていた

多くの衛生兵が交代で魔王に治療魔術を唱え続ける

それも10人近い人数が同時に術式を展開、治癒魔法を唱えていた。

しかし傷は中々治らない。

故に多くの魔族は混乱し、治療室の前へと集まっていた。


「魔王様が重傷っていうのは本当なのか!?」


「誰がこの様な事を・・・」


「ラーグ家に向かった鳥族の長が率いた騎士団の救出に向かったそうだ」


「救出? ラーグ家に何の用があったって言うんだ?」


「其処までは知らされてない、知ってるのは上層部の連中だけだ」


「くそ!俺たちには何も知らせねェってか!」


「そう騒ぐな、魔王様の体に障るだろう」


「でも一体何故・・・・」





「はいはい! 皆さん!治療の邪魔です!魔王様は大丈夫ですから持ち場に戻りなさいッ!!」




一際大きな声が響き、皆がびくりと肩を上げる

其処に居たのは大きな角を2本持った重鎮の女性、”イザリス”だった。

イザリスを見た途端、皆渋々と一人、また一人とこの場を去って行く。

そして全員が持ち場へと戻ったのを確認したイザリスは、静かに扉を開け、治療室へと足を進めた。



「魔王様・・・」



多くの治療魔術師に囲まれた魔王を見下ろすイザリス。

魔王は静かに目を開けると、痛みに歪んだぎこちない笑みを浮かべた。


「イ・・・イザリスか・・・・経過報告、ご苦労・・・」


「いえ、これも役目なれば

 鳥族長”メイゴン=ランジャン”の騎士団ですが、一部を除きほぼ全滅です」


イザリスの口から放たれる冷酷な一言

だが其れが現状である以上、魔王は受け入れるしかなかった。

治療魔術師の術を手で制し、上体だけを起こす。

丁寧に巻かれた白い包帯に紅い血が染み込んだ。慌てて魔術師が身を止めようとするが、魔王は無理矢理に起きる。


「ぐっ・・・ラーグ家以外の、4家・・・『最上級魔族』の反応はどうだ・・・」


荒い息を吐き、額に冷や汗を滲ませる魔王

その態度が報告を急かしている様で、イザリスは一気に報告を終わらせた。


「ラーグ家以外の四家ですが、いずれも”魔王軍に協力は出来ない”との返答です

 そのうちの一家”ファン=ドレイグ家”は条件次第では協力するとの事

 それ以外の三家は『場合によっては敵対する』と通達がありました」


「・・・まぁ、だろうな」


そう言って苦笑いを浮かべる魔王。

イザリスと魔王の間に、少しの間沈黙が降りる

先に口を開いたのはイザリスだった。


「・・・あの・・・魔王様」


「ん?何だ・・・?」


言いづらそうに口を開けては閉じるイザリス

そして意を決して言葉を紡いだ。







「 ”最上級魔族”とは、一体何なのですか? 」







魔王はじっとイザリスを見つめる。

そしてイザリスも又、魔王をじっと見つめていた。

溜息を一つ。

吐いたの魔王、ゆっくりと顔を上げると魔王の顔は何処か悲壮感漂っていた。


「・・・これは、代々魔王だけに伝わる極秘事項だ

 もし”最上級貴族の本当の意味”を知ったのなら、君はこの帝都の実情を知る事になる」


言葉を区切る

そうして覗いた瞳には、酷く穏やかで、しかしおぞましいほどの悲しさが垣間見えた。


「それでも、聞くか?」


それは魔王にとって優しさだったのだろう

重鎮となれば、それなりの愛国主義者と言っても過言でも無い。

国の未来を見据え、共に良くしようと歩んだ者に”真実”を語るには余りにも躊躇われた。

それでもイザリスはそんな魔王の思いを断ち、首を縦に振る。


魔王は目を細めると魔術師を部屋から追い出し、ぽつりぽつりと話し始めた。



「魔族の階級・・・私を除けば”使い魔”が最下級であり、”最上級魔族”が最も高い位となる・・・だが、そこからして違うのだよ」


「え?」


イザリスは思わず声を上げた。

魔王が今発言したことは、子供でも分かる様な常識・・・それを”違う”と言ったのだ。


「お前は不思議に思ったことはないか?

 何故お前達”上級魔族”が魔王の家臣となり、”最上級魔族”に家臣の”椅子”が無いのか・・・」


「何故”最上級魔族”が国の方針を決める会議に姿を現さないのか、それどころか滅多に姿を現さないのか」


ふと、考える

確かに言われればおかしい事は沢山あった

今まではそれが”あたりまえ”だったが、言われてみれば違和感を感じる

何故自分より高い位の魔族が役職を持たないのか・・・・。

イザリスは答えを求め、魔王を見つめる。

そして魔王から出た言葉は、彼女に大きな衝撃を与えた。















「 それはな、そんな事をする必要が無いからだよ


   五家全員で・・・やろうと思えば”帝都なんて”簡単に壊滅出来るのだから 」














「・・・・は?」


イザリスは呆然と、唯棒立ちになった。

言われ事が上手く理解できず、言葉が右から左へと流れる。


「最上級魔族の屋敷が何処も帝都より離れた場所にあるのもそれが理由だ

 ラーグ家は森の奥深く、ファン家は瀧山のいただきに・・・と言った感じにな」


魔王は呟く様に話す


「簡単な話だ、我々の作り上げる国が”気に入らなければ潰す”それが可能なのだ。その気になれば圧倒的な力をもっての恐慌政治だって可能だろう・・・それこそ五家が手を組めば我々にはどうしようもない」


「ま、待って下さい!ならば何故黒龍が現れた時、五家は手を貸さないのですか!?

 魔王様が言ってる事が本当なら、少なくとも五家は帝都と敵対していないのでしょう!?」


捲し立てる様に言葉を放つ

魔王はふっと笑みを浮かべ、静かに歴史を語った。


「・・・丁度1000年、1000年前だ

 魔族国家間戦争で争っていた”5つの国”は”天使の死”によって和解した」


イザリスは黙って魔王の言葉に耳を傾けた

心なしか、その声は少し震えているようにも聞こえる。


「それによって出来たのがこの”帝都”だ。 戦争を起こす王では無く、国を導く王へ、これによって旧王族は追放され”五家”となった。五国の民が混ざり合い、より希望ある未来を求めた結果生まれた国家だ・・・『故に決して五家は帝都に関与してはならない』」


「追放・・・それに帝都に関与出来ないって・・・」


「政治然り、この国の未来を決める事柄には参加出来ない

 ましてや奴らは追放された身・・・自分達を追放した連中を助けたいと思うか?」


イザリスは俯き、口を閉ざした


「民より選ばれた”初代魔王”はこれ以上五家の力を強めないよう、それぞれの屋敷を遠く離し、飾りだけの位を与えた

 子孫は代々力の弱まる様術を施し・・・今までの1000年、五家と帝都は平穏だった」


魔王は顔を上げる


「だが、事実はそうじゃない・・・五家の力は未だ絶大だ

 言うなれば奴らは”影の王”我々は連中の思った通りに動いているに過ぎない」


「そんな・・・」


イザリスは絶句した

今まで自分たちが良き方向へと導いていた筈の国は、別の意思で動いていた。

その事実はイザリスにとって余りにも重い。

再び思考停止に陥りそうになるイザリス、それを擦り切れそうな精神で踏みとどまった。


「しかし五家の中にも協力的な魔族は存在する

 この”帝都”をより良くしようと、嘗ての栄光に縋る”旧王族”では無い

 本当の意味で”最上級貴族”と呼べる家が・・・」


魔王は口を開く

だが一度開いた口は、もう一度閉じキツく結ばれた

その表情は苦悶に満ちている。

悔しい、悲しい、虚しい、あらゆる負の感情を詰め込んだような思い詰めた表情

イザリスはじっと次の言葉を辛抱強く待つ。

やがてその歪んだ表情から一言、言葉が漏れた。








「・・・・それが・・・ラーグ家だ」








大きく揺れるイザリスの瞳をまっすぐと見つめ、思いを伝える

イザリスも分かってしまった。

自分たちがしようとしていることの意味を。












「我々は裏切ったのだよ、ラーグ家を」



















すみません、今回は少し風邪でダウンしてしまい・・・


頭働かない状態で書いたので多少のミスはお許しを

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