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役目 って奴です


side エルシア





「エルシア様、”魔装具”とはなんだと思いますか?」


重い鎧の音を響かせて歩くイグリスさんが唐突に訪ねてきた。

蘭々と輝く魔術炎に照らされ、最初はただ平坦に続くだけだった廊下を歩き終える。

長い廊下はだんだんと傾斜を深くし、ちょっとした階段気分だった。

私は手入れされていない足場に足を取られぬよう、注意しながら口を開く。


「私の読んだ本には、魔術を補助する道具・・・魔力の増幅や、属性変化などの恩恵が得られると書いてありました」


苔の生え、ジメジメした廊下には声がよく響く。


「一般には”杖”や”指輪”、身に付けられるアクセサリーなどの形を取る事が多いとも書いてありました 唯・・・」


「唯?」


イグリスさんは止まらず、背を向けたまま私の言葉を返す。

私は一拍置くと、大きく息を吸ってから言葉を続けた。




「大人数の魔術師、それも莫大な魔力を必要とする”大型魔装具”が存在すると」




私が言い終えると、イグリスさんは一度止まり、半身で顔だけこちらに向けた

その眼は相変わらず妖しく輝いている。

そして不意に廊下の奥を指差した。私は暗く深い闇に包まれた廊下とイグリスさんの兜に包まれた顔を見比べる。


「この先に、何が有ると思いますか?」


私は首を傾げた。質問の意味が分からないからだ、普通に考えれば答えは一つしかない。


「魔装具じゃ・・・ないんですか?」


質問に質問で返す。

イグリスさんは一度頷くと再び歩き始めた。私はそれに続く


「確かにこの先に”在る のは魔装具で間違いないです、では質問を変えましょう

 果たしてどの様な魔装具だと思いますか?」


「どの様な魔装具・・・」


私は少し視線を下げた。確かに書物には”どんな魔装具が置いてある”とは書いていなかった。

其処に存在すると言うだけの情報、形も効果も分からない。

それこそ大型なのか小型なのか、果たして私でも扱えるのかさえ分からない

有る意味『ラーグ家』という名前が付いていたからこそ、何も知らずに求めてきたのだ。

私の心理はひとつだけ。




「きっとラーグ家の魔装具なのだから・・・」




私はその声にはっと顔を上げた。


「エルシア様はきっとこう思って『廃棄庭園』を訪れたのでしょう

 そしてその考えは間違いではありません、扱えるのは『月の加護を受ける血の一族』、そして・・・」


イグリスが立ち止まった、目線を前へとやる

其処にあったのは扉。何十、何百と鎖に絡まった朽ちた扉だった。

錆びて尚扉を塞ぐ鎖に、イグリスはそっと手を当てた。



「それは”エルシア様”以外存在しません」



瞬間、鎖が弾け、対を失った鎖は暴れ狂い、やがて砂のように消えた。


まるで主を迎え入れる様に。


イグリスがそっと道を譲り、私へと一礼する。


同時に鉄の扉が、ゆっくりと開いていった。


年季を感じさせる鉄の扉、その中身は暗く閉ざされている。


言うなれば「一寸先は闇の世界」


私は部屋の入口で呆然とする


まるで世界を拒むような闇、本能が危険だと言っていた


知らぬうちに冷や汗が流れる。目の前の闇に釘付けだったのだ。




だから気付かなかった。






「 お帰りなさいませ エルシア様 」







「えっ」







とん、と押された背中。


やけにじんわりと温もりを与え、姿勢はゆっくりと倒れる


足が地を離した、止まれない


そして倒れながら振り向く


見えたのは鎧、その兜は取られ、素顔が見える





















「 ミラさっ      」





















私の体は、言葉を全て発する前に闇へと呑まれた。














              ✖✖✖









side ラーグ=ファント・イグリス






「ミラさん・・・・か」



押した手を引っ込めると、古びた鉄の扉はゆっくりと閉まり出す

やがて一際大きな音を立てて、完全にこの世と隔離された。

私は俯く顔を上げる。


「・・・・確かに、最初に会ったとき・・・貴方は私を”ミラさん”と呼んだ」


ふっと、口元が緩んだ。

そのまま扉に背を向け、出口へと進む。

手は静かに剣の柄を握り、恐らく王の間に蔓延っているだろう「魔王軍」へと突き進んだ。

暗い廊下は、いつの間にか明るく照らされている。




「彼女」自身が”燃えていた”




音もなく剣を抜き、軈て炎は全身に及ぶ

剣を握る手はブレない。

一層力を込め、大きく、歪んだ笑みを見せる私は







「 王・・・”希望”は、今発ちました 」







暗闇を飛び出し、魔王軍へと斬りかかった。




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