これが私の生き様 って奴です
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燃えたぎる烈火の炎
赤を更に深く表した業火は、人に人にと飛び移る。
呑まれた人間は炎を消そうと暴れ、藻掻き、そして最後に炭となった。
「おい、まだまだこんなモンじゃねぇだろ」
響いたのは低い男の声。
永遠とも思える程の広さを誇る森で、ソレは起こっていた。
木々は赤く染まる。日の沈んだ森は静寂で満たされ、臓物と肉片が其処ら中に転がっていた。
その背後で人の何倍も高い火柱が起こる。
一人、また一人と人間が宙を舞い、炭へと変わっていった。
『第一唱 炎獄』
男が腕を十字に組み、ぐっと拳に力を込める
その隙を見逃さんと数人の兵士が踊りかかった。そしてソレを待っていたとばかりに男は目を見開く。
「”炎よ 燃やせ”ッ!」
十字の腕を薙ぐ様に解き放つと、男の足元から灼熱の炎が生まれた。
波の様に押し寄せ、数など関係無いとばかりに飲み込んだ。
藻掻き、苦しみ、炎に抱かれて灰となる。
生半可に焼け焦げた者など居ない。それこそこの男の魔力の高さを表していた。
炎は決して森を燃やさない。
夜の闇には未だ燃え続ける兵士だけが光として機能していた。
「殺す勢いで戦えッ! でなければ死ぬぞッ!」
銀の鎧を着込み、見栄の良い剣を掲げた兵士が叫ぶ
それと同時に周囲から「オオォォォ!!」と叫び声が上がった
兵士は恐れを知らんと言わんばかりに走りだし、男へと群がる。
対して男は酷く落胆した顔をした。
「おいおい、私相手に手加減か・・・これは随分と」
ゆっくりと”極小さな火”を手に灯し、振り下ろす。
「舐められたモノだな」
瞬間、20人近くの兵士の首が爆散した。
頭を無くした体は、そのまま走り続け・・・やがて地に伏した。
燃え尽きた頭は灰となって風に舞う。
呆然と立ち尽くす兵は、最早10人と残っていなかった。足元には嘗て人間だった肉片と灰。
一様に剣を握る手は震え、歯を食いしばって立ち塞がる兵達
それは一方的な虐殺を、此処に来るまでに幾度となく見せられているからだ。
最早勝てないとは分かっている。
「・・・撤退は出来ない、是が非でも此処で」
だが退けない理由もある。
隊長と思わしき人物が駆け出し、先陣を切った。
「止めるッ!!」
そして隊長を皮切りに、次々と兵が雄叫びを上げて斬りかかってきた。
彼らに”技術”や”策”と言う概念は既に頭に無く。
あるのは”恐怖と如何に戦うか”と言う目の前の事だけ。
男は剣を目の前にして、不気味な笑みを浮かべた。
「・・・・これだけか」
静かに周りを見回す。
死体の焼ける音以外は何ら音を発しない森は不気味とも言え、男は念入りに魔力探知を行う
だが生命体の反応は一つとして残っていなかった。
辺りあるのは地面に散らばる灰、剣の残骸、鎧の欠片。
森は相変わらずその形を何ら変えてはいないが、内部は死臭に包まれていた。
「ふぅ・・・」
大きく息を吸って木に背を預ける男、徐に胸ポケットへと手を入れ”葉巻”を取り出した。
ピッと指を擦り合わせ、魔術で火を付ける。
特に何もしなくてもこの程度の魔術は発動出来るのだが、男は”味気ない”と理由で嫌っていた。
深く吸い込み、吐く。
白い煙は上へ、上へと立ち上り、軈て消える。
そしてもう一度口に咥えた所で・・・ふとその男は視線を僅かに上げた。
生命反応が、ひとつだけ残っている。
男がじっと、ある木へと視線を注ぐと、突然突風が巻き起こった。
男の咥えていた葉巻の火が消える。
「1000の兵は1000の灰と為った・・・か」
何の前触れなく現れた黒いコートの男
風に裾をはためかせ、木々の影から現れた男は静かに佇んだ。
その目は細く引き絞られ、鋭い眼光で佇む男を睨む。そして整った顔を歪ませ、口にした。
ー 「久しいな”ケイズ” 何年ぶりだ?」
「6年振りだろ、ヴェル・・・・いや」
『魔王』
魔王は苦々しい顔を、ケイズは今にも笑い出すのを堪える様に口元を歪ませた。
ケイズは木から体を離し、火の消えたタバコを燃え散らした。
同時に全身から灼熱の炎が舞い上がる。
まるで威嚇する様に、挑発する様に、怒りを見せるように。
森の一角に灼熱の風を吹き荒らし、まるで一個の”太陽”
ケイズはゆっくりと口を開いた。
「 娘はどうした? 」
その言葉に魔王は更に苦い顔をした。
「あの糞龍が来たのは知ってる、娘が撃退したのも・・・」
そこで一旦言葉を切り、ケイズは緩んだ顔をする
だがその炎は寧ろ熱を増し、激しく燃え上がった。
「いやはや、流石私とテルエの子だ。エルシアは実に素晴らしい
私達の可愛い、そして自慢の娘だ」
そして灼熱の炎と、氷の様に冷たい瞳は”魔王”へと注がれた。
「で」
表情と吹き荒れる灼熱の温度差に、魔王は冷や汗を流した。
「今一度問おう」
「 娘はどうした? 」




