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騎士の再会 って奴です





   鈍い痛みが喉元に走った。





だが意識は有る、耐えられない程の痛みでも無い。

ゆっくりと流れるような血が喉元を伝って、石の床を紅く染める

私は深い呼吸を幾度か繰り返し、自分が生きている事を実感した。

鉄の匂いが鼻を突く


(私・・・生きてる?)


自分の胸が大きく上下するのが分かる。呼吸はしてる、意識もはっきりしてる。

確かめるように自分の拳に力を入れ、静かに瞼を開けた。


目の前には不気味に輝く刃、その先端が私の喉を少しだけ切り裂いていた。


そして眩しさに目を細めた。頭上には月、やけに明るい光が私へと降り注いでいる。

その影に身を潜ませる鎧。

鎧は私に跨ったまま、まるで石の様に動きを止めていた。

振り下ろされる筈だった腕、この腕があと数cmでも下ろされていたのなら私の喉に刃が食い込んでいただろう。

想像して思わず血の気が引いた。


「ん・・ふっ・・・はぁ・・ん」


死の恐怖の為か、若干乱れた呼吸が鎧の手に塞がれた口元から漏れる。

私は鎧に視線を向けた。

月を背にした鎧は、まるで影のように黒に塗りつぶされている。

やがて固まった鎧はゆっくりと剣を私から遠ざけ、石床へと置いた。


「・・・貴様、いやっ・・・・・・・貴方あなたは」


口を閉ざしていた腕は力を無くし、打ち捨てられるようにぶら下がった。

窮屈で無くなった呼吸を噛み締め、肺を新鮮な空気で満たす。

鎧は僅かに腰を浮かせて、覗き込むように私の方へと倒れてきた。


「え・・・きゃぁッ!?」


ガシャンと音を立てる鎧。両手を石床に着き、すんでの所で急停止する。

私と鎧の距離はほんの30cm程度のものだ。

床を背にして倒れ込んでいる私は逃げ場もなく、鎧は覆い被さるように私を見つめている

兜の奥に有るであろう瞳が、紅く光った気がした。


「貴方の名前を・・・名前をっ、教えて頂きたい!」


焦るように顔を近づけ、圧倒される私。

その重量感ある鎧を目の前にして、私はどもりながら口を開いた。








「エ、エルシア・・・・・・・”ラーグ=エルシア”です」












              ✖✖✖







side 鎧








振り下ろした刃の先を月光が照らし、その腕は条件反射で止まった。

そして驚愕に叫びそうになる衝動を寸で堪える。

ここで耐えたのは自分で褒めてやりたい、そのまま剣の柄を全力で握り締め。目の前の光景に絶句した。


月光が照らす目の前の光景。


白い髪、白い肌。


月の光を反射して、淡い光を纏ったその姿は・・・嘗ての我が主。


『月の加護を受ける血の一族』


ゆっくり開かれた瞳は涙に濡れ、紅く妖しい光を放っていた。


僅かに皮膚を切り裂いた為、首筋に1滴の血が流れる。

静かに剣を引き、石床へと放置した。


「・・・貴様、いやっ・・・・・・・貴方あなたは」


口を押さえていた手を退け、そのお顔を更に拝見しようとして前のめりに為った時

力の抜けていた体は一気に倒れ込んだ。


「え・・・きゃぁッ!?」


両手を石床に着き、その顔を覗き込む。

白髪の少女は可愛い悲鳴を上げ、怯えるような視線を送ってきた。

良く見れば魔術師にしてはまだ若い。いや、若すぎる程だ。

暗闇で顔は見えず、身長程度しか見えなかったのだ。随分と背の低い魔術師だな、としか思っていなかった。

そこには寸分違わぬ想い人の姿が。

燃え上がるような激情を押さえ込み、それでもはやる気持ちを抑えられずに私は口を開く。


「貴方の名前を・・・名前をっ、教えて頂きたい!」


私の前で小動物の様に瞳を潤ませる少女は、小さな口で言葉を紡いだ。







「エ、エルシア・・・・・・・”ラーグ=エルシア”です」








この時、私の心は歓喜に染まった。













              ✖✖✖










side エルシア




私が名を告げた後、鎧はゆっくりと立ち上がった。

私はそれを目で追いながら上体を起こす。多少痛んだが、動けない程でも無かった。

剣を拾い2、3歩後ろへと下がって影に埋もれた鎧は、石床に剣を突き立て私に跪いた。


「私の名は”ラーグ=ファント・イグリス” この城を守護して来た者ですッ!!」


「え・・・」


突然の事に目を白黒させた。鎧は深々と頭を垂れて私と対峙する。

思考停止に陥りそうに為った所で頭を振って思考を再開させた。

ラーグ家の初まりの場所・・・ダンジョン的な罠やらギミックやらは覚悟していたが、この鎧は守護者だったらしい。

私は慌てて姿勢を正すと、鎧の前で正座した。


「あ、えっと、その、どうも」


取り敢えず頭を下げた。

違うだろ!と思ったが、どう接すれば分からなかったのだ。仕方あるまい。

恐る恐る視線を上げると、鎧はじっとこちらを見ていた。


「ぇ・・・ぁ・・」


「やはり、”今”はラーグ家のご息女なのですね」


その視線は何処か懐かしい者を見る目だ。

兜の奥に光る紅い双眼は、包み込むような安心感を私に与える。

鎧の周りに柔らかい空気が流れていると思ったら、唐突に視線を下げて謝罪を口にした。


「先程は失礼致しました

 ラーグ家のご息女とはいざ知らず、傷つける様な真似を・・・」


私は一瞬呆けたが、即座に首を横に振った。


「いえ! 言葉の足りなかった私が悪いんです、よろ・・・イグリス様は悪くありません!」


慌てて言葉を飲み込んだ。

そうだ、もうこの鎧は”イグリス様”と言う呼称がある。

危うくそのまま”鎧様”と言ってしまう所だった。本人相手にそんな呼び名を使える筈がない。

俯いていたイグリス様は「寛大なご処置、痛み入ります」と呟くと顔を上げた。


「エルシア様・・私に”様”はお辞めください、私はラーグ家に仕える存在です」


「え、でも”ラーグ”って・・・」


『ラーグ=ファント・イグリス』...確か”ラーグ家”の名が入っていた筈だ。そうなると私は先祖か何かだと思っていた。

年齢を変更したり、ちょっと禁術チックなチート魔術でも使ったのでは無いかと考えていたが・・・

漫画やアニメによくある”使い魔”とか”召喚獣”的な存在なのだろうか?


「私はラーグ家に仕えていた”近衛騎士”です

 ラーグ家は魔術師の家系ですから、私の様な剣士はラーグ家には存在しません」


言われてみればそうだ。私は肯定の返事を返した。

イグリスさんは満足そうに頷き、私の首へと手を伸ばす。

私はびくりと体を硬直させたが、その手から優しい光が溢れ首の傷を瞬く間に癒した。

僅かに目を見開く。


「魔術・・・使えるんですか?」


「魔術は騎士団に入団する為には最低初級、5級程度の魔術は身につけなければなりません

 ”ラーグ家”は魔術の頂点に立つ家柄ですから・・・尚更です」


「成程・・・」


光が収まると、元通りになった首が顕になる

ぺたぺたと傷の癒えた首元を触りながら、イグリスさんの言葉に頷いた。

そう言えば私はまだ学校にも行っていない、世間の一般常識とやらが抜け落ちているのだろう

今回もソレが原因で此処に来たのだ。

そして私は唐突に顔を上げた。


「そうです!”魔装具”!!」


私が此処に居る理由。両親を、ラーグ家の人達を守りたい。

勢い良く立ち上がると、私はイグリスさんの肩を掴んだ。


「イグリスさん、魔装具を・・・私に魔装具を貸して下さいッ!」


切羽詰った声で迫る私。自然と手に力が篭る。

イグリスさんは大きく頷くと、立ち上がった。

石床へと突き立てた剣を容易く抜き、そのまま鞘に収める。


「此処に来る理由は一つです、こちらへ」


王座の方へと歩き出すイグリスさん。一歩進むごとに鎧が音を立て、私はその後に続いた。

大きく抉れた王座の脇をすり抜け、壁へと掛かった国旗を捲る

すると暗闇が延々と続く、長い廊下が現れた。


「これより先が”ラーグ家の初まり”と呼ばれる場所・・・覚悟はよろしいですか?」


私は何度も頷く。

イグリスさんは私の反応を一別すると、壁を3度叩いた。

同時に幾つもの魔術炎が現れ、青白い光で廊下を奥まで照らす。

その中を悠然と歩き出すイグリスさん、私も慌てて続いた。












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