守る為に って奴です
あけましておめでとうございまーす!
今年一年、いい年になりますように(>人<;)
転生して6年と5ヶ月 ー 現在
「うぐっ・・・・えぅ・・・」
涙が頬を伝って、風に流れ夜の闇に溶けて消える
バタバタと靡く裾を率いて私は深い黒色の空を飛んでいた。
風は優しく全身を包むように流れるが、今の私には彼処へ押し戻そうとして来る様にすら感じられた。
空気が重い、風が重い、まるで水を纏って飛んでいる様。
「・・・なんでかなぁ・・っ・・・」
流れる涙を拭いもせず、私の心は後悔の念に埋め尽くされいていた。
6年間、生まれて6年間。 多少の騒動はあったにしろ平穏な毎日だったと思う。
父様と母様は忙しい身でありながら、私をとても可愛がってくれた。
少し愛が大きすぎた気もしないでも無いが、私にとっては瑣末な問題。
それに使用人さん達も、凄く良くしてくれた。特にミラさん、彼女にはどれだけ感謝しても足りない。
書斎に篭って本を読んだ時も、中庭で日向ぼっこした時も、屋敷の屋根に登って空を眺めた時も、裏庭で下級魔術の特訓した時だって・・・・。
終わった後には必ず皆の笑顔があった。
父様と母様とミさんと使用人の皆。 こっちに来て6年、この人達の御蔭で生きてこれたと言ってもおかしくない。
それくらい好きになっていた。
父様の痛い位の抱擁。 もう一度抱きしめられたい。
母様の優しい抱擁。 エル成分は足りているだろうか、少し心配。
ミラさんと使用人さん達の笑顔。 みんなに「ありがとう」って言いたい。
思えば思うほど
涙が溢れて、どうしようもなく心が荒れた
風に流される涙を手の甲で何度拭っても溢れ出て来る。
『処分』
その言葉がまるで重石の様に私を押し潰そうとしてくる。
ー 私は、力を示すタイミングを致命的に間違えた。
黒龍に運ばれた場所が存外、帝都に近かったとか
黒龍以外の第三者の存在に気付くべきだったとか。後悔すればキリが無いのはわかっている。
唯、正解を一つ言うのであれば・・・あの場で戦闘行為に及んだのは間違いだったのだろう。
魔王様にはもう私の力について伝わっているのだろう、だからこその処分なのだ。
自分の力については認識を持っていた。 唯『この世界の強さの基準』を知る事を怠った。
それが招いた結果。
私は、自分の立ち位置を知らなかった。
魔術を複数発動させる事が出来る事?
『魔の異世界』を使った状態での私の魔力?
黒龍と対峙した事?
どれが間違いだったか何てのは既に分からない。
私はあの黒龍が「最悪の厄災」と呼ばれている事すら知らなかったのだ。
恐らくあの魔族が口にしていなければ、私は其処らの魔族と一緒と考えていたかもしれない。
ドラゴンと言う位なら、私と同じ位の強さだろうか・・・?
それは有る意味当たっていて、有る意味外れていた。
魔術第2級クラス、そのレベルの戦いを繰り広げていたと思ったら実は国を相手にする怪物と戦っていました。
冗談にもならない。
「馬鹿ぁッ!馬鹿っ・・大馬鹿ッ!!」
髪の毛を鷲掴みにする、そのまま力任せに掻き毟りたい衝動に駆られるが耐える。
今はそんな時じゃない。私のすべきことは後悔じゃない。
涙は枯れない、延々と流れ続けるが最早拭うこともしない。今は考えるべきなのだ、これからを。
時間は戻らない。
まずは考えろ、考えられなくなる程考えろ。
私は加速する。
雲が両脇を過ぎ去り、冷たい空気が体から体温を奪う。
そしてポツリと水滴が降りかかった、涙? いいや、違う・・・雨だ。
徐々に強くなっていく雨の勢い、正真正銘、水を纏って飛ぶことになった。
「視点を相手に、もし自分が相手だったら・・・」
主観を捨てて敵の立場になって考える、「最悪の厄災」を破った一個人・・・普通に考えても放置はできない。
ならこう考えるべきだろう、私、「エルシア」は既に放って置ける存在では無いと。
そんなのは当たり前だ。それが前提。
相手が動いてからでは遅い、もし私が無視できない存在であり尚且つ行動を規制したいのならば・・・。
「私のせいで・・・父様と母様、ミラさん・・・ラーグ家が危険になる・・・」
自分でも驚く程、なんの高揚も、感情も抜け落ちた声がした。
目が見開かれるのが分かる、風が瞳を乾かして痛い。
帝都の連中は、きっと私の行動を押さえる為家族に手を掛ける。
考えろ。
私は頭をフル回転させる。
今回は黒龍の件よりも条件が厳しい。
相手の強さがハッキリしている、そして守るべき対象も。
もし自分が逃亡した場合は? あらゆるケースを想定して秤に掛ける。
安全、確実性、危険、結果........
家族を連れて逃げる、国に単独で立ち向かう、単独で逃亡する。
家族を連れて・・・可能なのか?
そもそも何年逃げ回る事になる、私と言う『爆弾』を抱えた状態を自ら作るのか?
そんなの私が許せない。
国に単独で立ち向かう・・・これは愚策だろう
ヘタすれば私は命を落とし、そして国からは敵対者とされるだろう。そうなった場合のラーグ家は?
少なくとも好意的には受け入れられないだろう。
最悪『死罪』、もしくは拘束・・・私に対する交渉材料。ロクな未来が浮かばない。
単独での逃亡・・・家族を置いての離脱。
有る意味ラーグ家にとっても、私にとっても、この選択肢が一番良いと思える。
魔王様はラーグ家に恩を感じていた、少なくとも死刑は免れるだろう
拘束されて私をおびき出す餌にされるだろうか?・・・・全ては魔王様の指示一つだろう、少しばかり賭けになる。
魔王様の人格がお人好しで、ラーグ家と言う肩書きに賭けるしかないだろう。
「今から動くなら・・・」
まず帰って来そうな”家”を押さえるだろう。
つまり今からラーグ家に戻る事は出来ない。一人で戦争するにしろ、逃亡するにしろ、事後承諾となる。
「黒龍に頼めば、手伝ってくれるかな・・・・」
そう思ってすぐその考えを振り払った。
あの竜と関わってはいけない、それは今後のラーグ家を揺るがす事にもなるし、私の直感も関わりを持たない方が言いと叫んでいる。
ぎりっ、と歯が音を鳴らした。
先程まではこんな力を持った自分を後悔したが、今はもっと力が欲しいと望んだ。
家族を守れる力、国を相手に交渉出来る程の力を持っていればこんな家族を危険に晒す様な事はしなくて済んだのだ。
どうしようもできない展開に胸が燻る。
結局は道など残されていないのか、逃げると言う道しかないのか。
私の魔法を使えば国と戦争出来る自信はある、しかしそれと家族を守る事は同義では無い。
国に戦争を仕掛けた後の生活は? そもそも一人でなら戦争も可能でも守る存在がある場合は?
確実に勝てるとは言えないだろう。
ならば少しでも生き残る可能性がある方を選んだほうが良い。
戦争 か 逃亡か。
ぐるぐると思考が頭を廻る。気持ち悪い。吐き気すらする。
辿り着かない答えは何度も同じ場所を廻り、何度目かわからない問答を繰り返す。
絶対の自信を持てない回答は実に脆かった。
策が欲しい、この状況を打開出来る策が。
「ラーグ家・・・」
ふと頭の片隅にラーグ家の歴史書が浮かんだ。
魔術師の家系で、その血統は古くから伝わる。その最後の文が私を焚きつけた。
『廃れた小さな世界より生まれた命、月の加護を受ける血の一族』
私は目を細める。瞳に光が戻った気がした。
静かに翼を羽ばたかせ、進路を変える。
魔術で構成した翼だから水を吸ったりしない、だが僅かに重さが増した気がした。
「何時か読んだ本、ラーグ家の歴史・・・・・・」
魔術の家系、その原初。
丁度1000年程前に生まれたラーグ家、その全てがあるといわれる場所
『廃棄庭園』
私は大きく翼を羽ばたかせた。
✖✖✖
side 鎧
剣を地に突き立て、この膝を着いて幾年の時間が過ぎたのだろうか。
この身に焼き付いた魔力がまるで生き物の様に蠢き、それを必死に押さえ込んで早幾年
主の地を守る為剣を振るい早幾年
数万の軍勢を切り伏せはや数年
世界の危機と呼ばれる異常気象を乗り越えて早幾年
身に纏う鎧の漆黒の黒が色褪せて早幾年
周囲の景色が街から廃墟へと変わって早幾年
私と言う存在を思い出して早幾年
周囲に生物と呼べるモノが無くなり早幾年
時を忘れ、生きて幾億の夜を超え。
既に役目を終えたとばかりに閉じる瞳は固く。
突き刺さった剣は未だ輝きを失わず、その柄を握る手には力が篭っている。
これは幾年も前の誓い、契約、制約、約束、戒め。
既に誰も近寄らない場所として放置されている廃都の一角、かつての王座。
其処にまるで石の様に固まった”鎧”
王座へ向かって膝を着き、ボロボロに朽ちたレッドカーペットに剣を突き刺し、佇む騎士
既に王座に王は無く、その王座は上半分が抉れた様に欠けている。
嘗ては栄光に満たされ、輝いていた王の間も朽ちた。
天井は崩れ落ち、何処から生えたのか木の根が柱に絡みつき、全てが風化している。
崩れた天井から差し込む月の光。
色褪せた鎧、王から賜ったボロボロの赤色マント、未だに輝きを失わないひと振りの剣
最早人とかけ離れた”ソレ”は静かに魔力を感じ取った。
「・・・・・・来るか”愚者” よ」
実に、実に数百年ぶり。
音もなく地面から剣を抜き取り、ひと振り。
漆黒の闇と光と纏うその剣は静かに鞘へと収められた。
そのまま王座へと一礼する。その時間、僅か数秒。 その間に色褪せた鎧の眼には紅い光が灯った。
「我が主の”世界”を”希望”を・・・・守る為に」
そして頭を上げると、そのままマントを靡かせ最早出口とも呼べない扉へと向かう。
王の間には静寂が満ちた。




