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過去の日々③ って奴です

更新遅れてスミマセン



side エルシア





転生して5年と4ヶ月 屋敷内にて











最近気付いたことがある。



それは、この家の敷地が尋常じゃない程大きいと言う事だ。

然程使用人が多いとも思わないこの家だが、軽く東京ドーム数個分並みの敷地はあると思う

隠れんぼをすれば隠れる所に困ることは無く、鬼ごっこをすれば迷子になる。

私の生活は私室、食堂、書斎、浴場の4つで全てまかなえていたし、魔術の秘密特訓以外で森に入る事は無い。

つまり何が言いたいかと言うと・・・・。






「迷った」







この家に生まれて5年が過ぎ、私こと「エルシア」は。



自分の家の敷地で迷子になった。











             ✖✖✖







「そういえば聞いたことがある、雪山で遭難した時はその場を動かない方が良いと」


別に雪山じゃないんだけどね。


さてさて、私が何故こんな迷子状態にあるのか・・・・そう、全ては偶然の重なりである。


簡単に経緯を回想しよう。



そう、まず初めに私は・・・・・。









「あ、猫さん」


何時も通り書斎で1日を過ごし、そろそろ夕食の時間かな~と思って廊下を歩いていたら。

ふと目を向けた先に真っ黒な猫を見つけた。

中庭のベンチに座って、じっとこちらを見ている猫。

動物大好きな私はそろ~りそろ~り近づいて行った。


「・・・おいで~」


猫近くで腰を下ろし、手を広げて待つ。

するとベンチを飛び降りて、トテトテと近づいてきたではありませんか

私は胸に飛び込んできた猫を力の限り抱きしめた。


「ぉ~可愛いなぁ、可愛いなぁ」


えへへ~とだらしなく頬を緩ませる私、わかってるけどやめられない

頬ずりしてみたり、一緒に芝生の上をゴロゴロしたり。

お洋服汚してごめんなさい、あとでミラさんに怒られるかな・・・ガクガクブルブル。


「ん・・?」


黒猫を頭に乗せて飛行機ごっこをしようと思っていた矢先、視界の隅になんというか桃源郷を見た。

駆け寄ってその姿を確かめる。


「ぉぉ・・・」


そこには様々な動物が居た。

見たことのない鳥や、熊っぽいの、虎とか馬とか犬とか凄く一杯のモフモフ戦士達

それらが一箇所に集まって、なにやら会議みたいなものを開いているではありませんか。

今日は父様も母様も居ない・・・という事は動物も結構近くまでやって来れる日!

すぐに駆け出したかった・・・しかし


「ぬぅ、この柵めぇ・・・」


中庭と森を隔てるこの黒い柵。

高さで言えば5mを超えるとても高い柵であり、とてもじゃないが越えられない。


「身体強化・・・は、少し怖いなぁ・・・空飛ぶ魔法・・・は無かったんだ」


最近知ったのだが、この世界には空飛ぶ魔法が無いらしい。

数十人の魔術師が魔法陣を編んで”移動魔法テレポート”を行うことは有るらしいが、空はそもそも飛竜種等の縄張りらしい。

下手に空を飛んで怒らせたら大変なんだって。ちょっと期待してたから結構がっかりした。


「む~・・・・どうしよう」


キョロキョロと辺りを見渡す。

中庭の半分をぐるんと囲む黒い柵、抜け道なんか無いかな~と思っていたら頭に乗っていた黒猫が地面へと降りた、


「猫さん?」


ぷいっとこちらを一瞥して、走り出す。私も慌ててついて行った。


「ちょ、ま、待って猫さん」


猫は足が速い、けど決してこっちが離される様な事は無く丁度追いつける位のペース。

私を案内してくれているのだろうか?

そして柵の端っこに来ると、石造りの壁に辿りついた。

丁度、柵と屋敷の壁の部分だ。

するとおもむろに猫さんが、壁をカリカリ掻き始めた。


「・・・・猫さん?」


カリカリ、チラッ


カリカリカリ、チラッ


カリカリカリカリ、チラッ



良く分からないが、何かを私に伝えたいのは何となく理解した。

猫さんを抱き上げて壁に手を当てる。

コンコンと叩いてみたり、ちょっと痛かっただけだった。


「ん~・・・?」


ふと隣を見れば少し大きめの木の棒。

上を見上げると森の木の先っちょが庭の方に入っていた。枝が折れちゃったのかな?

猫さんは相変わらず短い手を伸ばして、壁を引っ掻こうとしていた。

私は木の棒を手に取る。


「とりゃ」


そしてそこそこ力を入れて壁に叩きつけた。

木の棒が真ん中辺りからぽっきりと折れて、ぽとりと落ちる。手が赤くなった。

まぁ木で石が砕ける筈が無いですよね~。

瞬間、石の壁に皸が入った。


「えっ」


硝子の割れる様な音が響き、石の壁が光の粒になって消えていく

この現象は”魔術”・・・。

ふと見ると壁には私が屈めば通れる位の穴が出来上がっていた。


「・・・もしかして、魔物が壊したのかな・・・この壁」


所々角ばった石が飛び出た穴、何ていうか猪辺りが突進して空けたような穴だ。

猫は私の腕からするりと抜け出すと、その穴を通って外に向かった。


(この穴、もしかして修理の人が来るまで隠してたんじゃ・・・)


内心そんな事もふと考えたが、やってしまった事はしょうがない。

私も這う様にして穴を通過した。






「ふはぁ」


穴から這い出て、立ち上がる

見ると少しばかり服が汚れてしまった。

裾をパンパンと払っていると、猫が下からこっちを見上げてきた。

ふと視線を上げると、見えたのは先ほど集まっていた沢山の動物達。


私は瞬時に走り出した。


「っ! 虎さぁぁぁんッ!」


一瞬で距離を詰めて飛びつく、最初は「敵襲か?!」と言わんばかりに背中に居る私を振り落とそうとしたが、いつの間にか後ろに来ていた熊さんに引き剥がされて抱っこされたのを見た虎さんは「何だおどかすなよぅ」と頬を舐めてくれた。

え、なにこのフレンドリーな空気!


周りを見ると、小鳥一匹として逃げ出していなかった。


私はてっきり、抱きついたら皆逃げ出してしまうものかと思っていた。

だから逃がすまいと思いっきり抱きついたのだが・・・。

なんか皆良い奴!


つい嬉しくなって熊さんの腕をするりと抜けて、虎さんの体に飛び乗った。

特に抵抗する事なく、体を揺すって私を丁度良い位置に調整する。

あっは、何だろうこのモフモフな毛並み!サラサラでモフモフなんて何という至高の一品!

そのまま動物たちと森の奥で遊びまくった。





そこまでは良かったんだ。    




ー そこまで、は












「で、結果はこんな状況」



虎さんに乗って森の中を走り回り、熊さんに高い高ーい(木にぶつかりそうで怖い)をしてもらい、小鳥に連れられ木登りしたり。

そしてお馬さんと鬼ごっこしている途中・・・・。


あれ、ここ何処?


・・・・となった訳です。


辺りを見回しても、木、木、木、木、木、動物達の姿は見当たらない。

そして徐々に落ちる太陽、暗い影が徐々に森へと降りてくる。

とどめに空腹、きゅ~とお腹が鳴って力が抜けた。

正直、お腹が減って力が出ない。


「・・・・お屋敷って、どっち・・?」


周りはどこも似た様な景色、自分の居場所どころか屋敷の方向すら分からない。

正に絶対絶命となった。


「お馬さーん、虎さーん、熊さーん」


ふらふらと歩き出し、動物の名前を呼ぶ。



取り敢えずはまっすぐ進み始める私だった。










             ✖✖✖









「ん・・・・・・ぁ」




歩き始めて早30分程、そろそろ周りも真っ暗になるかもしれないと言う時

ふと目の前に光を見た気がした。


「・・・猫さん?」


ほんの5m程前に鎮座する猫さん

ただ、私を動物さん達の所に連れて行ってくれた黒猫さんではない。

真っ白な毛並みを持つ白猫さんだ。

申し訳程度に入り込んでくる光が反射して、少しだけ光って見える。


ー くぃっ


首を使って前を指す。次の瞬間には走り始めていた。


「ちょ」


私も慌てて走り出す。ただしお腹が減って力が出ない。


「猫さん!ま、待って!」


とにかく後を追う、何度か木の根に足を取られそうになったが転ぶことはなかった。

猫さんに離されない様必死に走り続ける。

付いていけば動物さん達と合流出来るかもしれない

そして辺りが殆ど見えなくなった時、ふっと猫さんの姿が消えた。


「えっ!?」


突然目標を見失って足を止める

左右を見渡し、猫さんを探したが闇も相成って探し出すことは出来なかった。


「・・・・・えぇ~」


思わずその場にしゃがみ込む。

もうダメ、動けない、お腹が減った。

徐々に森の静寂が破られ、無意味に恐怖心を煽る動物の鳴き声とか、木々のザワめきとか。

そんなのにイチイチ体を震わせた。

「もうやだぁ」と言いかける口を一文字に結んで、涙目の自分を鼓舞した。

きゅ~っとなるお腹を抱え込む様にしゃがみ込んだまま、視線を上げる。




目の前に階段。




「・・・・え」


突然の出現? いいや、この階段は元からあったのだろう。随分古い。

地面に無造作に掘られたような場所、遠目に見れば地面が口を空けている様に見える

地下に続くのだろう石の階段が下に向かって伸びていた

深い暗闇に覆われた森の中では見つけるのは困難な入口、そして周囲もまるでこの入口を隠すように土が盛り上がり、木がそそり立っていた。


「・・・猫さん?」


そしてその中で微弱な光を発する存在

白い猫さんが居た様な気がした。


「・・・・」


周囲を見渡す。別に誰に追われている訳では無いが、何故かこの場所を知られてはいけない気がした。

前世のアニメ、漫画の影響だろうか?

兎に角今は一段目に足を掛ける。


「ね、猫さん・・・待って」


恐る恐ると一段、一段を降りていく

枯れ木が石段に積もっているから、という理由も有るが何より暗くて何も見えない

白猫さんがいる恐らく一番深い場所を目指して降りていく。

四方を塞ぐ石造りの壁が迫ってくる感覚が、どうしようもなく精神を磨り減らした。


「・・・・寒い」


はぁ~と息を吐く、地上も暖かくは無いがこの地下に入って一気に数十度気温が下がった気がする

視認は出来ないが恐らく息も白くなっているのだろう。

随分降りた所で、階段が無くなった。

ここが最深部?と思って猫さんに目を向けると、まるで闇に飛び込むようにして姿を消した。


「あっ」


慌てて追いかけると、下から強い風が私の体を押し返す

顔だけ出して確かめると更に下があった。石造りの階段がまるで永遠の様に続いている

そして月明かりが届くのもここまでだった。

ここから先は完全な闇。

数百mも先に思える場所に、白い点があった。白猫さんだ。

まるで篝火の様に目印となる。




「・・・・っよし」




一歩。踏み出す。


私は一歩、一歩、闇へと降りて行った。








あの暗闇に身を浸して、どの位の時間が経っただろう。

その暗闇は唐突に終わりを迎えた。



「・・・ん」



階段を降りようとした足が、何かに拒まれる。

それが意味する所・・・石造りの階段の終焉、地面だ。


目線を上げて前を見据える。

そこに白猫さんの姿は無く、あるのは”白猫さんの光だと思っていた”1つの光、カンテラ。

そして無造作に投げ捨てられる様に置いてある一冊の本


恐る恐る近付いて、カンテラを手に取る。

それで周囲を照らしたが、石造りの壁が有る以外扉一つなかった。


「・・・何、これ」


本を手に取ってみる。

題名は無い、書いていない。

裏表紙・・・唯の白い紙。

そして表紙には白と黒の二色だけで画が描かれていた。







「大きな翼を生やした天使が、黒い槍に貫かれている画・・・」








心臓が、一際大きな音を立てた。





不気味、この言葉が一番しっくりと当てはまる。

私はそのまま表紙に手を掛けた。

ゆっくりと捲る。

随分と古い紙が使われている、そしてその1ページ目に書かれていたのは文字。

この本の題名。

その題名は。












  『 多重魔術 ~画炉古故之真手~ 』















右側の漢字、もしかしたらもうわかっちゃう人居るかも・・・。

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