過去の日々① って奴です
side エルシア
転生して4年と3ヶ月 書斎にて
「う~ん・・・っ」
目の前に忌々しい本棚、幾つかの分厚い本を台代わりにして背伸び。指先が微かに本の角に触れるが、微妙に届かない。
悪いのは身長の伸びない僕・・・あ、いや、私のカラダとこの本棚です。
「うぅぅ~~~んッ」
スカッ!と良い感じの効果音と共に見事な空振りを見せる指先。何度も繰り返す。
状況? 見れば分かるでしょ、本が取れないんですよ!あの本がっ!
「とぅッ!」
痺れを切らして飛んだ。
ぐらりと積み重なった本が崩れる感覚を感じたが気にしない。小さな手は確実に本を掴んだ。
やった!
そして重力に従った落下。
「あぅっ!」
散らばった本の上に落下し、角ばった本が痛い。
バサバサと本が何冊か落下して床を打った、幸いにして体に直撃することはなかった。
あぶない、あぶない。
「あいたた・・・・」
上体を起こして手を見る。
うん、ちゃんと本は掴んでいました。偉い。私の手は偉い。褒めてつかわす。
一応落下した本と私の下敷きになった本が破けてたりしないかを確認したが、全部無事でした。
よしッ! と意気込んで本を片手に起き上がる。
え、本の片付けはどうするって?
そんなのは後回しですよ、後回し、今やるべき事はこの本を読む事です!
決してめんどくさいとか、本が重いからやりたくないとか、そーいう事ではないのです。
「いざ・・・」
窓枠に腰掛けて本を膝の上に乗せる。日光が丁度本を照らし、その表紙を捲った。
題名
『 私のご主人様!✖✖✖を○○て”ドキューーーン!”してッ! 』
私は無言で本を外にぶん投げた。
それっぽいモノをエロ本の表紙に取り替えるのは全世界共通らしい。
どうでも良い知識が増えた。
ちなみに私の細い腕じゃあんまり飛ばなかったので、屋敷の敷地内にエロ本は無造作に置いてある状態。
これもどーでも良いけどね。
「はぁ・・・・」
再び本を手に窓辺へとやってくる。
幸いにして次に読む本は直ぐに見つかった、無造作に散らばっていた本の一つだ。
種類別に本は分けられているので同じ魔術関係の本、というかこの家はやけに魔術関係の本が多い。
「もしかして魔術師の家系なのかな?」
足をブランコの様に漕ぎながら、本を捲った。
題名
『 魔術基礎 下級~中級魔術大全 』
日光を背にして、私は静かに読み進める。
書斎には紙の擦れる音だけが響いていた。
✖✖✖
夕暮れ。
書斎に伸びる長い私の影で気付いた。
リズム良く刻まれていた本を捲る音が途切れる。
「ぁ・・・もうこんな時間」
くきゅ~ とお腹が鳴った。そう、もうすぐ夕食の時間だ。
読んでいた『 魔術応用 上級~特級魔術大全 』を勢い良く閉じた。
ぱんっ!と言う音が書斎に響く、この音が実は好きだったりする。あんまり良くないとは思うけど。
窓枠から飛び降りて、本を両手に背伸びをした。
「んくぅ~~~~」
ぱきっと音がするかなっと思ったけど、全然鳴らなかった。
「ふはぁ」
だらーんと力を抜く、さっさと本を戻して夕食を食べたい。
夕日が書斎を紅く染める中、せっせと本を本棚に戻していった。
「あ、お嬢様。 丁度良かった、今呼びに行こうと思っていた所なんです」
本を片付け終わった後。
夕日に照らされて紅く染まった廊下を「綺麗だな~」なんて思いながら歩いていたら
向こう側の角から現れたミラさんが私を見つけて駆け寄ってきた。
「もしかして夕食の時間ですか?」
そうですよね?そうですよね?
「はいそうです」
私は心の中でガッツポーズを取った。
「今日は、部屋に運んでください」
母様と父様が帰ってきている時は食堂で一緒に食事をするのだが、一人の時は大体部屋で食べる
というのも単にズラッと並んだ使用人さんの前で、一人寂しく食事するのが恥ずかしいからだ。
だって、なんか見られてると思うと・・・・・・ねぇ?
「わかりました」
一礼して去っていくミラさん。
こう言う時素直に意見を聞いてくれる人って嬉しいなぁって思う。
取り敢えず長い廊下を渡り終え、自分の部屋へと戻ってきました。
扉を開けたら助走をつけてベットにダーイブ! ばふんと反動が伝わる。
「えへへへ~」
にぱ~っと笑顔の私、何故かって?
その答えはコレ!じゃじゃーん!
『 魔術の歴史 禁術と秘術 』
心躍るタイトル!良いですね、この宝を見つけ出した様な高揚感!
書斎でお片付け中、埋まっていた本の中にやけに古い本が有るな~と思って手に取ってみたら・・・このタイトル!
『禁術』と『秘術』!この世界にそんなものがあったとは!
いや、あったら良いな~とかは思っていましたよ?でも実際に見てみたらこれほど心打たれるとは!
では・・・・いざ!
「・・・・と行きたいけど」
私は先程とうって変わって少し後悔気味
実を言うと書斎からの本持ち出しは禁止されていたのだ、それを勝手に持ってきてしまった。
・・・・・・非常に申し訳無い気持ちだ。
この知識欲と言うか、男の浪曼!とでも叫びそうな性格
4年前の「僕」と何ら変わっていなかった。
精神的には前世に15歳の男+4歳ちょっとの幼女だ。年齢的には19歳だけど今の自分はむしろ幼児化している気さえする。
前世ではキチンとした高校生としての生活、変わってこの世界では4歳相応の外見。
特にやることも無くて、むしろやったらやったで問題になるんだろう。
4歳児が書斎で専門書みたいなのを読み漁ってるって、なにそのホラー
多少のお茶目はお転婆娘でなんとかなるだろう。それが常軌を逸する事が問題なのだ。
今の所、皆の前では魔術に興味のある4歳児
下級魔法の一つでも使えれば皆手放しに褒め称えてくれるだろう。
でも中身は19歳、下級どころか今の知識量なら上級魔術でも編む事が出来る。
まぁ使った事は無いので、今の所前者ではあるのだが・・・・。
「6歳くらいになったら、天才位で済むかな・・・?」
重要なのはタイミング
私がどの程度の実力を持っていて、それを周りに認識させるタイミングだ
外せば私の周りからは誰も居なくなるだろう。
母様も、父様も、ミラさんも・・・・・・・・・・。
「嫌だなぁ・・・・・」
本をぎゅっと抱え込む。
その日私はミラさんが食事を持ってくるまで、ずっとベットの上で丸くなっていた。
✖✖✖
小鳥の囀りで目が覚めた。
寝ぼけた頭で天井を見る。
「・・・知らない天井」
そんな筈は無く、軽く背伸びしてベットから下りた。
朝の冷たい空気が全身を冷まし、思わず身震いする。
再びベットに潜ってあの暖かい天国に身を置きたい衝動に駆られるが、ミラさんのお仕置きを想像してその衝動に打ち勝った。
「うぅ・・・・さぶい」
ペタペタと絨毯の上を裸足で歩き、部屋に備え付けてあるシャワー室へと向かった。
ネグリジェをスルスルと脱いで、全裸になる
そのままシャワー室へと入ると青白く光っている魔法陣に触れた。
控えめに点滅すると、頭上から暖かい温水が降ってくる。
「あ~・・・・暖か~い・・・」
この世界にもお風呂やシャワーと言った概念はあり、勿論毎日入浴している。
父様にその事について聞いてみれば、お風呂は貴族や金持ちの使うものらしい。
ま、そうですよね~。
原理としては魔術で綺麗にした水を、炎系統の魔術で温水にしたモノらしい
ちゃんと殺菌とかされてるのかなー?と思った事もあったが、そこは魔術パワーを信じる事にした。
屋敷の裏手にはかなり大きい貯水タンクみたいなモノが設置されており、そこからココまで運ばれてきている。
物体の進行方向を指定する魔術で配管の中を移動させてるんだって。
魔術って便利ー。
「ふぅ」
シャワー室から上がったら、タオルで水気を拭き取って普段着に着替える。
ちょっとしたドレスみたいな形だが、まだマシな方だ。
下着を付けるとき、ふと姿見に写った自分を見る。
「ああ、もう僕は”私”なんだ」と、再認識した。
だって体がもう女なんですもの、幼女だけど。
慣れるのに時間は掛かったが、2歳になる頃には違和感なく「僕」は『私』に変わった。
今ではもう特に気にしていない。
髪の毛は水気を拭き取ったら魔術で一気に乾かした。これぞツヤツヤ髪の毛の秘訣。
・・・・一回強すぎて、ハリネズミ見たいになった時はミラさんと母様に悲鳴を上げられた。
これは黒歴史なのであまり触れられたくない。
部屋に戻ってくる。
部屋の窓を開けて、日光に目を細めた
窓辺に備え付けられた机に座って、昨日書斎から拝借した本を開く。
持ってきてしまったものはしょうがない、バレたらバレたで父に謝ろう。
見られたら最悪背伸びしたがるお年頃って事を強調して今の自分を隠す。
なんて事を考えながらページを捲った。
体のいい開き直りだが、顔には微笑が浮かんでいる。
何故かは自分でも分からない。
頬杖を付きながらそっと窓の外に視線を向けた。
日光が部屋に差し込み、小鳥が窓辺にやって来る。
今日は天気が良い。
中庭で日向ぼっこをするのも良いかもしれない。
なんて事を思い描き、部屋に紙の擦れる音が響いた。
幼女成分、及び作者が書きたくなったので書きますた。
(>Д<)ゝ




