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睡眠って奴です

「・・・お手上げですね」


黒龍が呟いた。

その前方で鉄の壁がまるで腐る様に崩壊する。

周囲にはそこだけくり抜いた様に地面が抉れ、10m弱の落差を生んでいる。

背後から現れた私は所々に傷を負っているものの、重傷と言える程の傷は負っていない

実質のあのドラゴンブレスを防ぐ事に成功したのだ。

私は土埃を払うように裾を叩く。


「全くもって嬉しくないのは何故でしょう?」


立ち上がり黒竜を睨みつけた。


「回避魔術を編んだ時点で決めるつもりだったのですが・・・いやはや、その姿で生前並みの力をお持ちとは」


「だから何度言えば分かるんですか、私は死んでも無いし天使でもありません!」


いや、実は一度ミンチになって死んだが。

それとこれとは別問題。


「・・・ふむ、如何致しましょうな」


口から以前蒸気を発している黒龍は、考え込むように首を曲げた。どうやら攻撃する意志は今の所ないらしい。

どうでもいいがさっさとその熱を冷まして欲しい。

背後を見れば一直線に貫いたような一本線が森の奥まで続いている。

きっと平原の辺りまで続いているんだろう、それ程のブレスを発した為か黒龍の口からは未だに高熱が発していた。

熱すぎる蒸気がこっちまで飛んできて、正直目が乾いてしょうがない。

目がシバシバする。


「うぅ・・・」


目をゴシゴシと擦っていると、黒龍がポツポツと話し始めた。


「今のドラゴンブレスで魔力の大半を使い切ってしまいました

 龍玉の蓄えも有りませんし、正直攻撃手段が原始的方法しかありません」


「では是非とも帰ってください、お願いします」


そうしよう、そうしよう。


「しかし私は貴方を二度と一人にしたくない」


むしろ一人にして」


「姫、次私が貴方を救いに来るまで待っていて下さいますか?」


「もう二度と来ないで下さい」


「いえ、ソレは約束出来ません」


「じゃあ私の前に現れないでください」


「それも約束出来ません」


私は超不機嫌になった。

大体何ですか、竜に攫われて、森の中走り回って、決死の覚悟で殺し合いして、それでこんなあっさりと

・・・いや、帰ってくれるなら其れに越した事はありませんが。


「とても不本意ですが・・・姫、それでは一つだけ忠告しておきます」


黒龍が翼を広げ、大空へと羽ばたく

私はやっと帰ってくれるか・・・と安心しながら竜を見上げる

その途中、こちらを見下ろしながら一言だけ洩らした。





「貴方は、もっと自分の存在を客観的に見たほうが良い」





それだけ言って、竜は大きく羽ばたきながら空を登っていく

そしてあっという間に遠くの星になった。


「私の・・・存在」


口に出してみたが、妙に現実味がわかない。胸の中を素通りする様にすり抜けていく。

私はその場に腰を下ろした。



 目がシバシバする。


あれ、別に目が乾いている訳じゃないのにな。・・・おかしいなぁ、治らない。

黒龍が去ったから周りの熱気も既に四散した筈

あ、もしかしてアレだろうか?疲労?疲れが溜まったのか?

そーいえば子供って結構どこでも寝るよね。

ていうか森の中走り回ったし、死に物狂いで体も動かしたし・・・確かに疲れたかも

それに子供は結構寝る。

昨日の夜から逃げ出したんだし、実質私は朝までフィーバーしていた事になるのか。

それは眠くもなる。

徹夜明けの疲労感みたいだ・・・


「・・・ぅ・・・せめ、て・・・街に・・ついてか・・らぁ・・」


最後の抵抗で立ち上がろうとするが、足に力が入らずそのまま横向きになる。

地面が土で硬いし、冷たかった。


『自然の強化再生すてっぺん~』


舌足らずな言葉で魔術を唱える、すると自分が寝ている場所から少しずつ芝生が生えてきた。

そして10秒もすれば立派な草のベットと化す。

魔力の無駄遣いとか言うなし、有効活用だし。

柔らかい草の感触と強烈な眠気に勝てず、私はそのまま眠りに落ちた。






--------------------------------------------------------------------------





side 魔王


「黒龍が・・・去った」


ホルンが呆けた様に黒龍の消えた空を見上げている、その感傷に私も混ざりたいがそうも行かない

私は静かに地面へと横たわる少女へと近づいていった。


「!? 魔王様ッ!?」


ホルンが慌てて私を引きとめようとする、其れに対して私は指を唇に当てた


(静かにしろ、起こしてしまうだろう)


ホルンは口を噤む。

そして忍び足で私の後に続いた、偵察兵も足音を殺し近付く。


「・・・・・寝ている、のか?」


覗き込んだ顔はピクリとも動かず、静かに寝息を立てている。

整った顔に酷く白い髪、そして病的なまでに白い肌

一言で言うなれば「可憐」であり、どこか神聖なモノを感じるが同時に「儚さ」も感じる

ホルンもそうなのだろう、偵察兵に至っては見惚れていた。


「この少女、一体・・・?」


「・・・現状から考えるに黒竜(奴)と戦っていたのだろうな」


「そんな馬・・・ッ!!」


慌てて口を抑えたホルン、よーしよし、よく耐えた。

この少女を大声で起こして機嫌を損ねれば3人して消されかねん。

私は無言で周りを見渡した、2人も其れに続く

そう、ここには「森」があった筈なのだ。それがいつの間にか荒野に為っている。

辺りには巨大な爪痕、地面が抉られた様な溝。戦闘痕がなによりも語っていた。


「・・・こんな幼い少女が、あの”ヴァン=ヘルリッジ と同等の存在と?」


「いや、下手をすればそれ以上やもしれん」


実際この少女の前で黒龍は飛び去ったのだ

それを意味するところは領地の譲歩、つまりこの少女は勝った事になる


(しかし、そんな事があり得るのか?)


まず前提からして違う気がする

そもそもドラゴンがこんな少女と領地争いをするものか?否、する筈がない。


「魔王様、この事は・・・」


「・・・ああ、取り敢えずは帝都に撤収した後考えるべきだろう」


「拘束は?」


「必要ない・・・もとい、こんな少女に拘束具を付ける事自体考えられん」


「しかし、万が一に備えて・・・」


「いらん」


「・・・分かりました」


私は地面に横たわる少女を眺める。

規則正しく上下する胸、なんとも幸せそうな表情で寝ているものだ。

そしてその顔・・・・・。

どこか見たことのある様な、無い様な・・・・。


「魔王様、取り敢えずこの少女は私が運びます

 偵察兵が先頭を歩きますので、魔王様は殿しんがりをお願いします」


「あ、ああ」


顔を上げて返事を返す。

いかんいかん、こんな所で考え事をするなど・・・・。

ホルンが少女を抱き上げ、お姫様抱っこの格好で運び出す

私は彼の後に続いた。








 魔王が少女「エルシア」と気付いたのは、もう少し後の事。






-----------------------------------------------------







黒竜との戦闘から翌日。




朝起きたばかりのエルシア。 










御早う、皆の者。



全く、なんだか眩しいと思ったらもう朝じゃないですか。

日光が差し込んでいて起きてしまった。まったく!二度寝出来ないじゃないの!

でも朝窓枠に小鳥が飛んできて「ご飯をおくれ~」と鳴いていたから、テーブルに有ったパンをちぎって上げた。

ツンツンとつっついて食べる姿が可愛いですねぇ。

そしてらもう一羽来て「僕の?僕のは?」って首を傾げるから余りの可愛さにもっとちぎってやりました

どうです!?嬉しいでしょう!?

でも残りは私もお腹が減っているのであげません!

私も小鳥と一緒に、ベットから上半身だけ出してパンをちぎって食べ始めました。

今気づいたけど、ここあのビルホテルじゃないんですね。

でもすっごい豪華なのです、お屋敷よりも豪華なんじゃないかな?どこですかココ。


って考えてたら私の寝てたベットにリスが突貫して来ました。

もぞもぞとベットに入り込んできて、頭だけ出したと思ったらどんぐりをカリカリ食べ始めるではありませんか。

やめれ!ベットに食べカスが飛ぶ!

あ、でも知らない人のベットだしイイかな別に。私困らないし。それに可愛いし。

ニコニコ見守ってたら急に食べるのやめてこっち見てきたよ、そして短い手を精一杯伸ばしてどんぐりを差し出してくるの。

「食べる?食べる?」ってあああああああああもう!かあいいなぁもう!

代わりに小さくちぎったパンをあげたらモフモフ食べてました。「うまーっ」って顔してましたよ。

美味しいですか?じゃあもっとあげちゃいます!

そしたら小鳥さんが頭に飛んできました、乗っかります。でも痛くないです。

欠伸みたいに羽を伸ばして頭の上で丸くなります。あ、寝ちゃいます?寝ちゃいますか?

あ~、寝ちゃいましたね、どうしましょう?これじゃ私が動けません。

って、周りを見ればもう一羽の小鳥ちゃんも私の隣で寝てるじゃないですか。

リスちゃんもベットで普通にくるまってるし・・・。


あーもう、いいですよ。どうせ二度寝する予定でしたし。このまま寝ちゃいます。

起きたら骨とかパキパキなるんだろうな~。 まぁ、別にいいか。 お腹一杯で幸せ~

それじゃぁおやすみなさーい・・・。







--------------------------------------------------------------------






「・・・・・・。」


「? おい、お前どうしたんだよ?」


「あ、いや・・・」


「魔王様から例の少女を呼んで来る様言われたんじゃないのか?」


「・・・・それが」


「ん?」


「・・・・それがな」


「・・・?」


「・・・・・・・・ほれ」


「・・・なんだよ、ドアの隙間なんて指差して?」


「いいから、見てみろって」


「ん~? なんだってんだよ・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・おい」


「はっ!?」


「大丈夫かよ」


「・・・・一瞬、時間が飛んだ」


「だよな・・・」


「あ、あれは起こせん、絶対に」


「ああ、少なくともあと一時間は見ていたい」


「いや、俺は二時間は見てられるな」


「・・・流石に二時間も遅れると不味くないか?」


「どうせ一時間遅れても怒られるさ」


「・・・それもそうか」


「俺も今から隊長の命令で訓練用具の手入れだったんだ」


「うわぁ・・・雑用お疲れ様」


「一緒にサボタージュして天使の寝顔鑑賞会でも開くか?」


「おぉ!ソレは良い提案だな」


「・・・ん? 何してんだよ2人して」


「おお、いいところに来たな」


「お前は運が良い」


「・・・・はぁ?」






のちに計30名近い兵がサボタージュの罰として城内の雑巾掛けを命じられた。

その中には部隊の部隊長や重鎮の姿も有ったと言う。

彼らに何故サボタージュしたのかと問うても、誰一人として口を開く者は居なかったと言う。

ただ、皆が一様に口を揃えて言うのは「一言」


「天使が動物と戯れていたんです」  と。



今回は本編がおまけみたいな扱いになってます(´・ω・`)

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