人の傍にて我有りき
火器管制コンピュータの発する警報でガレス・ガーサイド中尉は目を覚ました。
まぶたを開けると小さな人工の明かりに照らされた戦車の低くて狭い天井が目に入る。戦闘服が寝汗で濡れて気持ち悪い。
<警告、敵航空部隊が接近中>機械的な、しかし滑らかな音声で中枢コンピュータが告げる。<数は8。方位120から270ktで接近中。1000フィートの低高度を飛びながらまっすぐこちらに向かってきます。接触まで約15分>
時計を確認する。5時25分ちょい。まだ朝ではないか、とガレスは悪態をついた。
なぜこんな朝っぱらから敵は飛行機を飛ばしているのだ。おかげで貴重な睡眠時間を削られてしまったではないか。
寝起きのはっきりしない頭でガレスは上体を起こしてコンピュータに詳細を訊く。
「サディアス、敵の詳細は?」
<さっき言ったではないですか、中尉。270ktで低高度とくれば攻撃機に決まっているでしょう。戦闘機がこんな低高度を飛ぶわけがない>サディアスと呼ばれたコンピュータは打って変わって人間臭い口調で自分の主に言った。ガレスはまるで同じ人間に馬鹿にされたような気分になる。
「・・・それもそうだな。近くに隠れられる場所はあるか?」
<ここから3kmの地点に小さな森があります。方位010。コースから外れてしまいますがそこに隠れるのが無難でしょう>
ガレスはそれを聞いて安心したようにヘッドセットを頭に取り付けると側面のスイッチを入れ、目の前のHMDに外部の景色を映した。戦車の外側にいくつも設置された複合カメラからの情報がサディアスを通してそのHMDに流れ込み、一拍遅れてガレスの視界は強い日差しに照りつけられる赤茶けた荒野に変わった。
薄暗い車内の光度に慣れていた瞳孔が急速に小さくなる。
「サディアス、念のため対空戦闘に備えろ。対空機銃の使用をお前に一任する。おれの許可を取り付ける必要はない」
<こんな豆鉄砲じゃあ役に立ちませんよ。もし敵機が最新型のヴァルシヴォルス・タイプ12だったら地平線の上に現れた瞬間に私は蜂の巣ですからね>
「ないよりマシさ。それにタイプ12は高価だからこんな戦域には出てこないよ。ヴァルシヴォルスはただでさえバカ高いんだからな」
<気休めとして受け取っておきます。では、出発しましょう>
「OK。イグニッション、ナウ」
その掛け声と共にサディアスはエンジン始動用モーター起動信号を流し、その0.5秒後には1500馬力を擁する大出力ディーゼルエンジンに火を入れていた。燃焼により生じた高温高圧の排気はサディアスが操作する戦車の後方から猛烈な勢いで吐き出されて砂煙を生み出す。
<アテンションプリーズ。おはようございます。当機はこれより方位010に向けて出発いたします。お客様はシートベルトをお締めください。発進予定時刻は今から10秒後の5時27分ちょうどとなります>
「・・・本当にどうでもいい知識ばっかり仕入れてくるな、お前は。まあいい、おはようサディアス。今日もよろしく頼む」ガレスはシートベルトを締めながら親しみを込めて戦車の壁面を叩いた。
<こちらこそ、戦車長──それでは出発!>
サディアスがそう言うや否や、彼が操縦する車体はあやうくひっくり返るほどの加速度で前進を開始した。その猛烈な加速にガレスは思わず「ぐぇっ」とカエルがつぶれるような声で呻いた。
その戦争は10年にもわたって続けられていた。
セノニムとカルダンという二ヶ国による完全な泥沼戦争。砂漠を間に挟んで存在するこの二国は国力も人口も国土面積も軍事力もほぼ同じ。間にある砂漠で石油が発見されたことをきっかけに、もともと仲の悪かった両国はその利権を争って軍事行動に出た。
互いに戦争のイニシアチブをとれないままただひたすら月日が過ぎていき、その間にも双方の軍隊に損害が拡大していく。両国政府はほぼ同時期に国家総動員令を敷き成年男子を根こそぎ兵隊に動員したが、当然の結果として両国の人口は日を追うごとに減っていった。
両国ともこれ以上の戦線継続は無理に近かった。資源はそれなりにあるが、人口が減り、経済も鈍り、国庫も厳しい。何よりも人員の消失は双方にとってあまりに大きな痛手だった。勇敢で優れた兵士から次々に死んでいく。補充されるのは民間から徴兵された訓練も不十分な素人ばかり。これでは戦線が崩壊してしまう。
そこで考案されたのが、兵士の代わりにロボットを戦わせることであった。ロボットがどれだけ死のうが人口は減らない。兵士の遺族に払う金も要らない。なにより恐れを知らず、人間よりもずっと正確に戦うことができる。
そのような概念が両国にこれまたほぼ同時期に生まれ、双方で独自判断が可能な人工知能の開発が進められた。もちろん人間型ロボットを兵士にする、というバカな計画は発生しなかった。進められたのは兵器にAIを搭載することだった。人間の代わりにAIが戦うのだ。
セノニムは高度な人工知能を搭載し、無人での運用を前提とした戦闘機や戦車を開発していち早く実戦投入した。これらの兵器は司令部から送られる人間の指示を忠実に実行することができる完全なる殺戮マシンだった。
AIは司令部の命令に忠実な反応を示し戦場でも独自の判断で臨機応変に対応した。戦時下で開発したとはとても思えないほどそのAIの完成度は高く、まさに人間以上の戦力として期待された。
一方、技術力でわずかに劣るカルダンは兵器を完全に無人化することに対して自信がなかった。代わりに戦闘機や戦車にAIユニットを搭載し、そのコンピュータに兵器の一部制御をまかせることによって必要となる人員の削減を狙った。
だがそのままではセノニムのAI搭載兵器と戦っても簡単に負けてしまうことは目に見えていた。あちらのAIは完全に独立した判断を下すことも可能なのだ。それなのにカルダンの兵器AIは人間が乗っていないと運用できない。これではAI化する旨みが減ってしまう。人員の損失はやはり避けれない。
戦闘機を無人化すれば生卵のように脆弱な人間を乗せずに大Gをかける高機動が可能になる。
戦車を無人化すれば内部の乗員の為に割いていたスペースが空くためその分だけ小型化できるし、そのスペースに弾薬や燃料を積んで長期間の戦闘が可能になる。
セノニム側の兵器ではそれができるのに、カルダン側の兵器にはそれができない。これではまるで勝ち目がないではないか。カルダン軍の上層部は技術者たちに対して怒り狂った。
しかし、それでも実戦投入するしかない。今までの兵器ではセノニムの無人兵器に対してさらに歯が立たないからだ。上層部は負けを覚悟しながら実戦投入承認の書類を作成し、提出した。
ところが予想に反し、制空権を一部奪われはしたものの、陸上に関しては戦線を守り通すことに成功していた。それどころかある戦線に関しては戦線をセノニム側に押し出すことに成功したという。
上層部と技術者達はその事実に喜ぶと同時に悩むことになった。完全無人化した方が絶対有利であるはずなのに、どうして有人兵器の方が有利になっているのだろうか。
結局、その答えを誰も出せないまま戦争は続けられた。
<見えました、あの森です>サディアスが機械的な、それでいて明るい声で報告する。
ガレスはHMD越しに車体前方を見た。先ほどまで赤茶けた大地が広がっていた地平線に、わずかな緑のラインが見え隠れする。サディアスに命じて拡大ズームするとそれが小さな森林であることが分かった。まるでオアシスのようだった。もしかしたら湧き水があるのかもしれない。
「了解。それじゃあ敵編隊が通り過ぎるまであの中で休憩といきますか」
<ラジャー>
サディアスは戦車上部装甲の上に備え付けられた対空レーダーを通じて周囲の航空機の有無を絶えず確認する。どうやら周辺にいるのはあの8機編隊だけのようだった。そのことはHMDの情報を通じてガレスにも伝わっていることだろうから、あえてサディアスは言わなかった。
ガレス・ガーサイド中尉はカルダン軍西部方面、第503装甲騎兵連隊に所属する戦車兵である。歳は29歳。兵歴は4年。
ごく普通の家庭に育ち、ごく普通の学校を卒業したどこにでもいそうな男であったが、一時期戦争が激化したことで士官学校へ行くことを国に勧められ、その流れのまま軍人になってしまった経歴を持つ。どうあがいたところで男として産まれた以上は徴兵されるのだから、せめてある程度の訓練は受けておいた方が良い、と判断したための行動だった。
結果としてそれは正しかった。かつての男同級生たちのほとんどは徴兵され、大半が損耗率の高い歩兵に回されてしまったということをガレスは戦車兵になってから知った。そして彼らの半分以上はすでにこの世にいないことも。
戦車兵、特にAI搭載型の戦車に乗れるのは士官学校を卒業した者がほとんどだった。その中にガレスはいた。士官学校をそれなりの成績で卒業したためか、軍が彼に支給した戦車は最新鋭、とまではいかないまでもそれなりの性能を持つシロモノだった。
サディアスというのがその戦車のAIに与えられたパーソナルネームだった。形式番号CT-57AI。通称57式思考戦車と呼ばれるもの、その一台だ。
全長9.5m、幅5m、高さ2mの大きさで、他の戦車と比べるとかなり平たいシルエットをしている。一見するとクローラーの幅もかなり広く見えるのだが、それはクローラーが二帯に分割され隣り合って存在しているからそう見えるのであって、一帯あたりの幅は普通の戦車より少し細い程度だ。つまりこの戦車は全部で四本のクローラーによって稼働する仕様になっているのだ。
57式戦車はもともとカルダン軍の主力戦車となるべく開発が進められた車両だったのだが、AI搭載型の兵器が次々と実戦投入されるにつれて計画が変更され、同じようにAI搭載型兵器として完成されることになった。
57式思考戦車最大の特徴はやはりAIユニットを搭載している点にある。開発段階では3人の乗員が搭乗するために設けられたスペースの内、2人分の空間を超高度AIユニットが占めている形となっている。搭乗員は砲塔の真下にある残り一人分の空間に乗るのだ。この搭乗スペースには操縦、主砲管制、砲弾管理、通信管制を行うための機材が集約されており、搭乗員はこれらを一人で行うことも可能ではある。
もちろんめまぐるしく動くそんな器用なことが毎回できるはずもない。これらの操作を主に行うのはAIユニットを統括する中枢コンピュータだ。搭乗員の主な役割はこの中枢コンピュータに対し状況に応じて指令を与え、場合によってはその仕事の一部を代替わりすることなどだ。搭乗員が戦車長となり、中枢コンピュータが操縦手、砲手、装填手の役割を受け持つのである。
搭乗員の指令を受ける以上、中枢コンピュータには高いコミュニケーション能力が求められた。そのため戦車長となる人間の言葉を素早く理解し、また己の意思を素早く人間の言葉に変換して搭乗員に伝えられるだけの高い言語能力を中枢コンピュータは与えられた。同時にその搭乗員独自の言い回しなどを学習してより正確なニュアンスを理解できるようにするための学習ユニットも備え付けられた。
こうして誕生した57式思考戦車は、高い判断能力を持つかどうかより、その高いコミュニケーション能力の方が有名になった。搭乗員と会話すれば会話するほど語彙が爆発的に増えていき、同時にその搭乗員の影響を強く受けることで、他の同型車両のAIとは全く違う個性を獲得していったのである。
やがてこの車両に乗る軍人たちの中から自らの戦車に愛着を覚える者が続々と出始め、当然の流れで自分の車両に個体名を付けることが多くなった。現在ではこの戦車にパーソナルネームを付けない戦車兵はほとんどいなくなってしまったほどだ。
他の例にもれずガレスも自分の乗る戦車に愛称をつける兵士の一人だった。彼が57式戦車に付けたパーソナルネームは『サディアス』。名前自体に深い意味は無かった。しかしなるべく人間と同じような名前にするよう心掛けたものだった。戦場を共に駆け抜ける相棒に、犬やら猫やらにつける名前は冠したくなかったからだ。
そのことも高いコミュニケーション能力を通じてサディアスは感づいているようで、自らの主たるガレスに対しかなりフランクな態度でコミュニケーションをとっていた。搭乗員を上に見る言葉づかいは製造時にプログラムされたものであってそれだけはどうしようもなかったが、傍目にはすこぶる仲の良い人間の上司と部下、といった趣だった。
彼らの戦場での活躍は基地司令官に一目置かれるほどで、かなりの敵戦車と敵車両を撃破していた。あと少しで勲章がもらえる、とうわさされたこともある。
そんな仲の良い彼らだが、ある日を境にとんでもない窮地に陥ってしまったのである。
所属していた前線基地が、壊滅したのだ。
セノニム軍重爆撃機と攻撃機が大挙して押し寄せ、よってたかっての絨毯爆撃をしかけてきたことによるものだった。駆けつけた味方の迎撃戦闘機の奮闘にもかかわらず、一日と経たずに基地は滑走路もろとも黒焦げの更地になってしまった。戦車部隊のほとんども出撃する暇さえなく基地と運命をともにした。
運よく彼らは基地の外へ脱出することに成功したものの、近くに街はなく、最寄りの基地まで行こうにも直線距離で約300km。その間は砂漠に近い荒野で、しかも最悪なことにそこは敵の制空権下だった。強固な装甲を持つ戦車とはいえ対戦車ミサイルを真上から食らってはひとたまりもない。よりによって敵の攻撃で通信アンテナも破損していて援軍を呼ぶこともできなかった。
とにかく最寄りの基地へ行くしかなかった。昼は敵の哨戒をかいくぐりつつ燃料の消費を抑えながらの前進。夜は敵に見つからぬよう闇に身をひそめてじっと待つ。その繰り返しだった。荒野とはいえオアシスに似た森と泉が点在していたことが幸いした。その森に入ってしまえば上空からでは発見できない。
時にはルートの先で戦闘機同士の空中戦がおっぱじまり丸1日進めないこともたびたびあった。下手にスピードを上げると砂煙が立ってしまい見つかってしまうし、本当にゆっくりと進まなければならなかった。57式戦車がかなりの部分を電化していたからよかったものの、普通の戦車だったらその長い道のりの間にガス欠を起こしていただろう。
そんな10日ほど続いた逃亡劇も今日で終わりとなるはずだった。味方の基地まで残り30km。エンジンをふかせばすぐの距離だ。敵の制空ラインはこの真上ギリギリまで迫っているらしく、ときどき戦闘機やら攻撃機やら偵察機やらが飛んでくる。
向かっている基地はかなり大きく防空設備がしっかりしているからあの程度の数でやられることはないだろう、とサディアスは予想していた。
<少なくとも敵が基地に向かって飛んでいる、ということは基地はまだ健在ということです。基地側から帰還する敵機の姿も見受けられません>
「片端から落とされているってことか。なんだか間抜けな話だな」ガレスは自身の愛車がそう報告するのを朝食の乾パンをかじりながら聞いた。
<あの基地はもうすぐ新型の対空機関砲を配備する、という話がありました>サディアスは己の車体に溜まった熱を涼しい木陰で放出しながら話した。<たぶん我々の基地が壊滅したのを聞いて、慌てて配備したのでしょう。データによれば新型の対空砲は今までのものよりはるかに高性能です。命中精度、連射速度、破壊力、それらすべてが高まっています。恐らく敵側は配備されている対空砲を従来のものだと想定しているため、攻撃を仕掛けるたびに落とされているのでしょう>
「純粋AI兵器の弱点だな。何か新しい要素が加わってもすぐには対処しきれない」
<私に対する当てつけですか?>
「いや、お前はあんな奴らより賢いだろう。そんなアホな行動はしないと思う」
<当たり前です。私は世界一の頭脳を持つ人工知性ですからね。人間より賢いと思っていますよ。私は戦車の中で乾パンを食べて、そのクズをぽろぽろとシートに落とす猿のごときアホなマネはしませんからね>
「・・・外で食べろっていうなら、最初からそう言えよ」
乾パンをかじるのを止め、座っていたシートを見やるガレス。確かに乾パンの食べこぼしがいくつか見えた。
<世界一の性能を持つ私が、そんな嫌味を微塵にも感じない直球な指摘をするわけがないでしょう。それに遠回しに言うのが人間社会のマナーってもんですからね>
「どこが遠回しだよ。思いっきり罵倒しているじゃないか」
<遠回しに罵倒してあげているのですよ、ガーサイド中尉>
「・・・お前は本当にいい性格してるよ、サディアス」
<ありがとうございます>
「褒めたんじゃない」
<わかってます>
「・・・OK、なるべくこぼさないように食べるよ」
<外で食べるという選択肢はあなたの中にないんですか>
「オアシスとはいえ外は砂漠だぜ。アイス食べるならともかく砂漠で乾パン食べるなんてどんな地獄だよ」
<私はまさにその地獄の中にいるのですが。あなたは冷房の効いたコクピットだからいいですが、車体は炎天下にいるんですよ?>
「お前は熱さなんて感じないだろうが。第一お前の本体だってコンピュータ冷却ファンで冷やされているじゃないか。いっそのことオアシスの泉に突っ込んでみるか、涼しいぞ?」
<謹んで辞退します。ショートさせるつもりですか>
「冗談だよ。おれだってお前の錆をいちいちとるのは面倒だからな」最後の乾パンを水筒の水で流し込んだガレスはヘッドセットを再びかぶると、いつもの軍人としての顔つきに戻った。「あの敵編隊は通り過ぎたのか?」
<あなたが乾パンほおばっている間に通り過ぎていましたよ。時間的には味方基地の上空で戦闘に入っているはずです。あの編隊は私達が元いた地点の上空を通過しましたから、我々のことは探知していないようですね>
「よし、じゃあおれたちが基地に到着するまでに例の新型対空砲でそいつらが撃墜されていることを願うか。──サディアス、エンジンイグニッション。味方基地に向かって発進するぞ」
<ラジャー。今日中には到着することを祈りましょう>
一人と一機は森から恐る恐る出ると、再び砂煙を上げながら砂漠を疾走し始めた。敵がいないように、と祈りながら。
“それ”はただ敵を殲滅するためだけに作られた。存在する目的はただその一つのみ。想定されるどんな手段を用いてでも敵を殺し、いざとなったら自爆してでも対象を破壊する。人間からしてみるとあまりに苛烈な攻撃プログラムだったが、“それ”にとっては製造時にプログラムされた本能とも言えた。
“それ”は敵基地の破壊を命令されていた。同型機と共に砂漠を越えて敵前線基地に爆撃を加え、殲滅する。ただそれだけの任務だった。この近辺では戦線が押し戻されつつあるため、司令部が新型機を含む航空部隊による攻撃を命じたのだ。
10日前にこなした同じような任務では味方爆撃機が何機か落とされたものの、己が所属する編隊の損害は皆無だった。今回の目標はその時の敵基地よりいくぶん規模が大きいが、想定される戦力でシミュレーションをしたところ被害はそれほどでもなかった。今回も問題なく成功するはずだった。
そのはずだったのに、“それ”が所属していた編隊は護衛の戦闘機を含め瞬く間に壊滅し、自機も対空砲の直撃を受けて右主翼が大きく損傷してしまった。
あまりに予想外の出来事だった。以前攻撃を加えた敵基地はいとも簡単に破壊することができたのに、この基地は今までと勝手が違う。高速機動中の機体をあっさりと落としたり、こちらの放った対地ミサイルを一発も漏らさず迎撃するなど明らかに防空能力が向上している。
“それ”は自身に内蔵された偵察用カメラを敵基地に向けた。滑走路を擁する敵基地の周囲に、己のデータバンクには記されていない六本の銃身を束ねたような機関砲が複数あるのを認識した。同時に構造体の上部に白いレーダーが備え付けられていることからその構造物が新型の対空機関砲だと理解できた。
この対空機関砲は従来のものを大きく上回る性能を保有している可能性が高いと推測する。事実、友軍機が落ちる際にその姿をカメラで捉えたところ、機体の各所に対空機関砲弾の直撃を受けたと考えられる穴がいくつも穿たれているのを確認できた。かなりの高性能だ。
詳しいことは司令部で分析しなければわからなかったがAI兵器の類である可能性も否定できない。
“それ”の内蔵プログラムのうち、敵情報偵察に関する機能が作動した。このプログラムは通常であれば自爆するまで敵に攻撃を加えるという根本的な機能を捻じ曲げ、敵の情報を友軍基地に持ち帰る機能を引き起こさせるものだった。
これは敵が新しい兵器を投入してきた際に発動するようあらかじめ設定されたもので、戦術的に重要な機能だった。ただひたすら機械的に敵を自爆するまで処理していくだけでは敵の情報が全く入ってこなくなってしまうからだ。
“それ”はその帰投プログラムに従った。もはや味方編隊は壊滅してしまい、残るは己だけ。主翼下ハードポイントに搭載された対地ミサイルは使い切ってしまっている。このまま自爆するまで敵に攻撃を与えたところで敵に充分な損害は発生しえない。戦術コンピュータもそう分析した。
戦術分析コンピュータは優秀な参謀のごとく即座に帰投コースを割り出して、そのルートを中枢コンピュータに伝えた。そのルートを元に必要となる制御プログラムを飛行制御コンピュータに伝達、中枢コンピュータの指令通りに機体は旋回して味方基地へまっすぐ飛行を始める。主翼の損傷は大きいが、飛ぶのには支障ない。
帰投コースは砂漠を横切るルートだった。今までの戦闘記録から鑑みて、そこに敵がいる可能性は皆無であると中枢コンピュータは判断していた。戦術コンピュータも同じ結論を出した。
基地に向けて巡航速度の半分ほどのスピードで砂漠を駆け抜けていたサディアスだが、出発して20分ほどで対空警戒レーダーに小さな影が映っていることに気づいた。しかもそれは味方基地の方向から近づいてくる。
<対空レーダーに感あり。方位300。高度500フィート。250ktで接近中。単機です>
「えらい低空だな。味方か? こっちに気づいて偵察機でも飛ばしてきたとか?」
<IFFアンノウン>
「・・・生き残りがいたっていうのか。──サディアス、対空警戒。他に仲間がいるかもしれないぞ」
敵味方識別装置であるIFFの応答がない、ということは敵機である可能性が高い。ガレスはヘッドセット付属のマイクアームの位置を直してからサディアスのハンドルを握り、両足をペダルに軽く乗せた。
AI搭載型戦車である57式思考戦車では搭乗者はハンドルを握る必要など本来ないが、敵の攻撃など不測の事態によって搭載しているAIが不調を起こすこともありえた。もしそうなった場合は搭乗者自らがハンドルを用いて操縦しなければならなくなる。
ガレスはそういった危機にいち早く対応するために戦闘中はサディアスのハンドルやアクセルブレーキのペダルから手足を離さなかった。またサディアスにとってはハンドルやペダルの感圧センサーから伝わる主の手足の感覚が臨戦態勢の合図となっていた。
<他に敵機は確認できません。ボギー、さらに接近してきます。接触まで10分>
「回避だ」ガレスは叫んだ。「基地攻撃に来たってことは対地攻撃機だ。飛行機に戦車じゃ勝ち目はないぜ。逃げるが勝ちだ」
<──敵機、増速。こっちに向きを変えました。見つかったようです。接触まで8分>
「とにかく逃げるんだ。転進して最大出力で逃げろ」
<相手は飛行機ですよ? 私がどれだけエンジンをふかしたところで追いつかれるのがせきの山です>
「周囲に身を隠せる場所がないか、探せ」
<ありません。先ほどまで隠れていたオアシスが一番近いですが、今から戻ろうとしてもそれまでの間にスクラップにされてしまいます>
「味方を呼べないか」
<通信アンテナが根こそぎ折れているのにどうやって呼ぶんですか>
「なんだっていい。お前のライトで基地にモールス信号を送るとか」
<それこそ無茶ですよ。地平線の下にある基地にどう光を当てれば届くっていうんです?>
「くそう」ガレスはどうにもならないくやしさから戦車の壁を強くたたき、ギリリと唇を噛んだ。「なんてこったい。攻撃機とサシの勝負やるはめになるなんて。ヴァルシヴォルスだったら瞬殺だぞ」
<私としても不本意ですよ。こんな砂漠のど真ん中で私のような優れた知性体が朽ち果てる運命だなんて>
鈍重な戦車と空を翔る飛行機では機動性の差は歴然だった。戦車砲は高い威力を持っているものの、空を自由自在に飛ぶ相手に当てるのは至難の技。もし相手が対地攻撃用のミサイルを持っていたら遠距離から一方的に破壊されてしまう。そうでなくても強力な機銃掃射を上部装甲にぶち当てられれば穴だらけだ。
まともに使えそうなのは車体後部に装備された対空機関砲一門と身を隠すために大量の煙を放出するスモーク発生装置だけ。
対空機関砲はサディアスの高い火器管制能力により人間が操るそれよりもずっと正確に目標を狙えるが、相手となる攻撃機は軍用機の中でもかなりタフな部類であり二、三発当てた程度ではびくともしない。
スモークも使えなくはないが高速移動中では車体が煙幕を突き抜けてしまう。高機動を要する対空戦ではほとんど使用する機会がないだろう。
絶望的な状況だった。
“それ”は自機の進行方向上に大型の移動物体が存在していることを気圧変動センサーで知った。しかもそれは大型戦車クラスの大きさらしかった。それが時速30kmほどの速度で先の基地へ移動している。IFFの反応はない。
“それ”は対象を敵として認識した。中枢コンピュータは対象の概要を戦術コンピュータに伝え、交戦すべきか否かの判断をジャッジさせた。それと同時に中枢コンピュータも交戦した場合のリスクとメリットを分析し、交戦の是非を判断した。
中枢コンピュータが下した答えはNOだった。自機は右主翼を損傷しており、対地攻撃の要となるミサイルは一発もない。
有効と考えられる兵装は機首に備え付けられた30mmガトリング砲であり、敵戦車の上部装甲をたやすく貫通できる威力を持っている。これを当てることさえできれば敵を撃破することはできるだろうが、いかんせん主翼の損壊が痛い。左右への機動を行うのに必須な補助翼が根本から吹き飛ばされていて跡形もないのだ。もし敵戦車が高度な対空機関砲を有していた場合、それを回避することは困難である。確率は低いものの動きが鈍くなった瞬間に敵が主砲を直撃させてくることもありえた。
中枢コンピュータは戦術コンピュータが結論を出すのを待った。人間にしてみればその時間は一秒の1000分の1程度の時間でしかなかったが、この中枢コンピュータにとっては著しく長い時間だった。
長い時間をかけて戦術コンピュータが出した結論はあろうことかYESだった。即座に中枢コンピュータは戦術コンピュータがなぜそのような判断を下したのかを説明させた。
戦術コンピュータ曰く、戦車が単機で砂漠を移動しているというのは通常では考えられず、あの敵車両は先日破壊した基地の生き残りである可能性が高い。あれほどの猛攻撃を受けたからには何らかの損傷をこうむっているはずであり、事実通信装置が破壊されているため単機での砂漠横断を余儀なくされたものと推測される。
こちらが敵に対して行った戦術は敵にとっては貴重な情報源であり、こちらにとっては秘匿されるべき情報である。あの戦車は先日の敵基地攻撃の生き残りであるが通信装置が破損しているためその保持された情報は敵に伝達されていない。しかしあの戦車が基地に到着してしまえば戦闘記録からこちらの情報が洩れてしまうことは必至であり、基地にたどり着く前に撃破するのが有益と判断される。
中枢コンピュータは戦術コンピュータの意見を理解すると、その情報をもとに再びの演算処理に移った。このまま自己保持と情報保持のために敵を見逃しこちら側の情報が敵に漏らしてしまう機会を与えるか、それとも撃墜の危険を冒して交戦し情報漏洩を防ぐのか。はたしてどちらが有益であるのか中枢コンピュータは双方で考えられるリスクとデメリットを数値化して比較した。
その結果、後者の方が有益であると判断した。己が保持した敵新型対空機関砲の情報は確かに重要であり、それが失われることは大きな損害である。しかし敵は地面を走る戦車であり自分のような攻撃機の敵ではない。唯一の兵装である機銃も戦車を破壊するには充分な威力を持っている。
敵の強力なジャミングのため期待はできないが、いざとなったら保持した情報を通信波にして送信すれば味方に受信されることも考えられる。重要なのは情報であり自己保存ではない。
そう結論づけた中枢コンピュータはそれまで自身を縛っていた偵察用プログラムを強制的に排除。通常の攻撃モードに移行する。エンジン出力上昇。増速。目標は前方の不明車両。
兵装スイッチ切り替え。使用兵器、機首機関砲。
“それ”は自機に搭載されたシステムの全てを戦闘時に必要とされる状態へ変化させた。主翼の損傷で機能しない補助翼の代替としてフラップを使い姿勢を完璧に制御。いつでも現在可能な限りの戦闘能力を発揮できるようにした。
<Engage>
“それ”は誰にも聞かれない宣言を高らかにあげ、一目散に目標へと向かった。
「サディアス、対空戦闘用意だ。急げ!」
<落ち着いてください。まだ時間はあります>
「敵はもうミサイルを発射しているかもしれないだろう。こっちの射程に入る前にケリを付けるつもりさ」
<相手の方位はわかっているんです。ミサイルくらいなら主砲で撃ち落としてやりますよ>
「ほんとかよ」
<そろそろ目標が地平線の上に出るころですよ。敵のアホ面を拝んでやりましょう>
「あっちにとっては俺たちの方がアホ面に見えるだろうな」
<はったおしますよ>
サディアスは砲塔を旋回させて地平線の向こうへと狙いを定める。それとともにガレスのHMDには敵が来ると思われる方向の景色が拡大ズームして投影された。照りつける太陽によって熱せられた地面が生み出す陽炎によって地面が揺れ動いて見える。サディアスはそこに光学処理を施すことで陽炎を打消し即座にくっきりとした地平線を表示してみせた。
その数秒後、岩だらけの地平線から何やら灰色の物体が静かに頭を出した。サディアスの中枢コンピュータは複数の光学カメラで捉えたデータをもとに目標との距離と相対速度を割り出し、砲管制ユニットに対して砲の角度を調節するよう要求した。それにしたがってサディアスの誇る大型の50口径120mm滑空砲はわずかに上を向き、すかさず発砲した。
この距離では命中はまず望めない、だが撃墜できるのであればそれが一番である。空から狙われては回避の余裕がほとんどないからだ。先手必勝とはこのことだ。
57式戦車の長い砲身から撃ち出された砲弾は砂漠の熱い空気を超音速衝撃波で切り裂き、中空に放物線を描きながら目標へ向かう。地平線上の敵に命中するまで約7秒。
しかし敵影はそれをあざ笑うかのような動きでバンクし、少しだけ右に旋回した。追尾機能のない砲弾を避けるにはそれで充分だった。超音速で放たれた対空砲弾は、目標とすれ違う瞬間に内蔵された発信機から放射される電磁波の波長がドップラー効果によってわずかに長くなったのを感知してすかさず信管を作動させる。砲弾は自爆した。自爆すると共に大量の破片と爆炎が周囲に飛び散るがいずれも目標には届かない。最初の攻撃は失敗だった。
目標は右旋回から再びこちらに向かうため軽く左旋回を行った。強烈な太陽光がその主翼に反射してキラリと輝く。
「ヴァルシヴォルスだ!」ガレスはわずかに見えた敵の姿を見て叫んだ。「敵機はヴァルシヴォルス攻撃機だぞ。対地ミサイルの雨が降ってくる!」
ヴァルシヴォルスは高い攻撃力と耐久力を持つセノニム空軍の主力無人攻撃機だった。前時代のプロペラ機のごとく真横にまっすぐ伸びた主翼と、胴体の外側に付けられた二機のジェットエンジンが特徴的な攻撃機で、ひたすら対地攻撃に特化された機体だった。
主翼下のハードポイントには11発もの強力なミサイルを搭載し、たとえミサイルを撃ち尽くしても機首に搭載された大口径機銃によってどんな目標でも粉砕してしまう。戦車の装甲も例外ではない。
非常に使い勝手が良いのか、セノニム側はこれの耐用年数を伸ばすためにさまざまな改修を行ってきた。今やヴァルシヴォルスの形式はタイプ1から12まで存在する。特にタイプ12は高性能で、地平線の向こうにいる敵に狙いを定め、地平線の上に現れた瞬間には敵を撃破しているという恐ろしい攻撃能力を持っていた。
遠すぎて目標がどのタイプなのかは判別できないが、もしタイプ12だったら一刻の猶予も残されてはいない。いつ敵の放った対地ミサイルが超音速でこちらに向かってきてもおかしくないのだ。
戦車の鈍足ではミサイルを避けることなど不可能。主砲で迎撃するにも限度がある。対空機銃では射程距離が短すぎる。
「撃て、とにかく撃て! 弾幕であいつを近づけさせるな!」
<了解。撃ちまくります>
サディアスはガレスの命令通り主砲の過熱限界と給弾速度の限界ギリギリで主砲を連射し続けた。それと同時に車体を後方に向けて全速で動かし始める。止まっていたらただの的だ、今はとにかく敵との相対距離を少しでも開けることが先決だった。砲身から何発もの対空弾が発射され、その衝撃波で砂煙が舞い上がる。
「まっすぐ動くな。スラローム射撃だ!」
<また難しい要求を>
ぶつぶつと愚痴りながら車体を左右に振り始めるサディアス。岩地に刻まれたクローラーの跡が右へ左へ波打ち始める。
通常の戦車では見られない57式戦車特有の二重クローラーは旋回を行う際にその効果を発揮した。旋回の時は外側に配置されたクローラーが速く回転し、内側に配置されたクローラーは遅く回転することでより効率良く車体を回転させるのだ。このシステムにより57式戦車はその巨体に似合わぬ旋回性能を獲得していた。
また57式は砲管制ユニットの制御と砲に内蔵されたジャイロシステムにより、主砲を敵に向けたまま高速旋回することが可能であった。地形の起伏も全く問題にならない。
サディアスの主砲から撃ち出された砲弾は敵機の未来位置を予測して退路を断つような弾道を描いていた。対空弾は直撃する必要などない。敵がその爆発に巻き込まれてくれればいいのだ。
いくつかの砲弾は敵機の機動のせいで見当違いの方向へ飛んでいくこともあったが、そういう場合は火器管制コンピュータがその砲弾に起爆信号を送って強制自爆させた。その結果敵機の周囲にはいくつもの爆炎が現れては消えを繰り返していくようになっていた。左右にスラロームしているために砲弾の飛んでくる方向は常に変動しておりどこでいつ爆発が起きるのか予想しづらい。
さすがのヴァルシヴォルスもこの爆発の嵐には音を上げたのか速度を落とし高度を下げ、地面の起伏に隠れるような機動を取り始めていた。
敵が積極的に攻撃してこないことをガレスはいぶかしんだ。
「あいつ、いつまでたってもミサイル撃ってこないぞ。タイプ12じゃないのか」
<どうやら、弾切れのようです>サディアスは射撃中に捉えた敵影を彼のHMDに拡大表示した。その画像は敵が大きくバンクをとった瞬間の静止画であり、見ると敵は翼下に何もぶら下げていないことが分かった。
<記録にあるヴァルシヴォルスよりも右主翼がわずかに短いようです。敵が一機だけで飛んでいることを考えると、友軍基地を攻撃した際に例の機関砲で損傷を受けたと推測されます>
「敵も手負いか」ガレスは肉食動物が獲物を狙う時の目つきのまま、ニヤリとした笑みを浮かべた。「それならひと思いに落としてやらないとな。──サディアス」
<はい、なんでしょう>
「運転を代われ。主砲管制はお前に任せる」
<こんな忙しいときに・・・。いったい何をやろうっていうんですか>
「忙しいんならよけいに代わってやらないとな」
サディアスは主の自信満点な笑みに対し、AIらしからぬ戸惑いを覚えた。いったいこの人は何を考えているのだろう、と。
57式思考戦車は搭乗員たる人間とのコミュニケーションを前提に設計されている。ゆえに人類言語を使用した流暢な会話はお手のもので軽快なジョークを飛ばすことだってできるし、搭乗員に合わせて感情があるかのような声色を使うことも可能だった。しかし57式戦車に取り入れられているのは言語コミュニケーション能力だけではない。
人間というのは言語だけでコミュニケーションするものではない。表情、身振り、手振り、顔の向き、瞳の向き、顔色、触覚、それら全てを総動員して他人との意思疎通を行っているのである。
57式の開発者は、真にコミュニケーションを行うのであればそれらの要素もまた必要になるのだと気づいていた。そしてそれを可能にした。
57式には外界の情報を得るためのカメラの他に、コクピット内部にも高精度カメラを搭載していた。そのカメラは搭乗員の様子をリアルタイムで中枢コンピュータに送るために備え付けられたものである。これにより中枢コンピュータは搭乗員とのより高度なコミュニケーションを行うことができ、そしてより円滑にすることもできた。
搭乗員の視線の方向を感じ取りその方向へ砲塔を向けるとか、そちらへ進行方向を変えるとか、使い道はいくらでも考えられたが、それをどう使うかは中枢コンピュータの学習しだいだった。中には搭乗員が被弾の衝撃で失神したのを認識して搭乗員の指示無しに自律行動し始める個体もいる。
サディアスは、もはやガレスとの意思疎通において言語など必要のないレベルまでその機能を使いこなしていた。ガレスが何を見て、何を感じていて、何を言わんとしているのか、彼の様子を見ていればおおよそ予想できたし、実際できていた。だからサディアスは自分自身を最高の人工知性体と呼んでいた。人の心の分かる人工知性。
自信のありそうな笑顔、ということはすなわち何かしらの策が彼の頭にはある、というわけだ。
その結論が出るまでにそれほど時間はかからなかった。現状よりも優れた策を己は構築できていない、しかし搭乗員は構築済み。ならばこれは搭乗員に従った方が事態の好転が計れる可能性がある。
しかしそれはかなりの賭けであるということもサディアスは認識していた。人間というのはときどき理屈に合わないことをしでかす。それが良い方向に転がるか悪い方向に転がるのかは本当にやってみなくてはわからないのだ。
そんな賭けという行為をAIの性質上サディアスは嫌っていた。確実な手段を選ばない、というのは明らかに知性体として非論理的だ。そんなことをするのは知性体と呼べるのかすら怪しい。なぜ人間は不確かな手段をあえて選ぶのか。それがサディアスにはわからなかったし、わかりたくもなかった。人間は野蛮で、自分達機械は理性的なのだ。
なればこそ、自分には理解できない人間の“勘”というやつが必要なのではないか。サディアスはそう結論づけた。自分でも非論理的な結論を導いたのだという自覚はあったが、それでも構わないとサディアスは考えた。どうせ機械である自分がどれだけ考えても、人間のことなんかわかりはしないのだ。もともと異質なモノ同士、理解できる方がおかしいのであり、共に戦う上でお互いのことを完全に理解していては共に戦うその意味がなくなってしまう。
機械にはわからないこと、それこそが機械にとって一番重要なことなのだ。そしてその逆もしかり、だ。
<了解しました>少しの時間を置いてサディアスは高らかに宣言した。<ガレス、あなたに私の足を預けます。You have.安全運転をよろしく>
サディアスは信じてみることにした。ガレスを、人間の野蛮さを。その非論理的な思考回路が導く結果を。
しかし、そのすぐ後に猛烈な後悔をするはめになるとは、一切予想していなかった。
「I have.・・・戦場で安全運転なんてとんだ冗談だろ」
<は?>
「おれがやろうとしているのは、こういうことさ!」
ガレスがそう言った瞬間、後ろ向きに回転していた4本のクローラーが急停止。さらに一拍おいてすさまじい速度で逆回転を始めた。逆回転を始めたクローラーにより大量の砂が背後に向かって吹き飛ばされていく
大きな慣性力を持ったサディアスの車体は急激なブレーキをかけられて前部が完全に地面を離れ、大きくかぶりを振ったような状態になった。水平を保っていた砲身が上を向いた胴体にぶち当たって鈍い音を立てる。
やがて重力によりその車体が水平になったと同時に、57式戦車の巨体は猛烈な砂煙を巻き上げながら狂った猛牛のごとき急加速を開始したのだった。
<何をするつもりですか!>
「弾幕は中止だ。このまま接近して仕留めるぞ」
<無茶です! 戦車では攻撃機に歯が立たないと言ったのはあなたじゃないですか!>
「相手は手負いの弾無しなんだろう? どうにかしてやるさ」
<しかし相手の機関砲は健在です! 接近するのは自殺行為ですよ!>
「うるさいな。どうせ後退したところで時間稼ぎにしかならないんだ。あのままやっていたらお前の方が弾切れ起こすだろう。こっちから攻め込んだ方が生き残る確率はある。攻撃は最大の防御だ!」
<なんて無茶苦茶な理論なんですか! ああもう、これだから人間は! ガレスの玉無し!>
「誰が玉無しだ。わめく暇があったら敵の動きに注意しろ。敵が起伏から出そうになったらすかさず撃て。頭を上げさせるな!」
サディアス中枢コンピュータの論理回路は悲鳴を上げた。
確かにガレスの言う通りこのまま弾幕を張っていても、弾切れを起こすのがオチだった。
57式戦車は搭乗員が一人しかいないためその車体には多くのスペースが存在する。AIユニットがその半分を占拠し、残りの半分は燃料と主砲の弾薬が詰まっていた。120mm砲の弾薬は大きいからそのスペースは非常にありがたかった。そのおかげで57式戦車はかなりの戦闘継続力を有することになったのだ。
だからと言って無限に撃てるわけではない。120mm弾はどんなに詰め込んでも60発が限界だった。そのうち対空弾は15発程度。サディアスはその15発しかない対空弾を撃ちつくし、すでに対人榴弾を使い始めていたのだ。これが撃ち終わったらもう対装甲用の徹甲弾しかない。徹甲弾では空の敵に対して有効とは言えない。
弾切れを防ぐ、という点に関してはガレスの判断は正しいと言えた。その点もサディアスの中枢コンピュータは納得している。
しかし戦術コンピュータはその判断を断固として受け付けず、中枢コンピュータに対して行動中止のシグナルを送りつけたのだった。そんな判断は無謀すぎる。今すぐに中止すべきだ、と。
対する中枢コンピュータはその拒否信号の返信としてガレスの判断を突きつけるのだが、戦術コンピュータはその判断を即座に棄却し再び拒否信号を叩きつけた。サディアスのAIユニット内ではこのようなやり取りが1秒間に数千回ものスピードで繰り返され、サディアスのメインユニットはにっちもさっちもいかないデッドロック状態に陥ろうとしていた。
それだけは絶対に阻止しなくてはならない。サディアスは戦闘中に中枢コンピュータを含む自らのメインコンピュータがデッドロック状態になることというのが恐ろしいほどの危機であることを理解していた。自らの自己とは完全に独立して存在している戦術コンピュータを従わせるには、説き伏せるしかない。ところが説き伏せようにも戦術コンピュータは断固として聞き入れようとしなかった。
サディアスは最後の手段として、戦術コンピュータと自らの意識をつかさどる中枢コンピュータとの接続を完全にシャットアウトすることにした。本来戦術コンピュータは中枢コンピュータとは完全に独立して存在しているシステムであり、中枢コンピュータに対して軍隊の参謀のように客観的な意見を与えその働きをサポートする役割を負っていた。つまりこのサポートを遮断するということは、中枢コンピュータは参謀の存在なしに自らの判断だけで機体を制御しなくてはならなくなるということを意味していた。 57式戦車のシステムはそのような事態を想定して作られてはいないし、サディアス自身もそのような状態に陥った経験など一度もない。それはこの戦場という過酷な環境でにおいて、人間で言うなら目隠しをして全力疾走するようなものであった。もはや自殺行為に等しい。
それでもサディアスは、構わない、と思った。
戦術コンピュータがガレスの意見を受け付けないのは、すなわち彼のことを信じられないからだ。彼の言うことを信じようとしない存在など、なおさら信じられるものではない。戦場を共に駆けた相棒を裏切ってまで生き残ることに、いったいなんの価値があるというのだ。
サディアスは戦術コンピュータよりも、ガレスを信じることの方を優先した。戦術コンピュータが無くても、彼がいる。彼ならどうにかしてくれるはずだ、と。
なぜそこまで彼を信じるのかと訊かれても、たぶん自分には答えられないであろうことはサディアスも自覚していた。データ不足だとかそんな理由ではなく、単純にその問いに対しての答えは出せないのだ、と。
そんな答え方をするのはコンピュータではない。恐ろしく非論理的な行動だ。サディアス自身は、自分がどうしてこんな思考に至ったのかすら、理解できなかった。
その思考を支配している力が人間にとっての『勘』に近いものであったということは、この時のサディアスには知る由もなかった。
“それ”は思わぬ敵戦車の猛攻に戸惑っていた。よもやあの敵がここまで食い下がるとは、“それ”の戦闘経験からでは予測できていなかったのである。
あの敵は対空弾を微妙に角度を変えながら連射することで、こちらが高度を上げられないように仕向けていた。こちらが保有する唯一の武器である機関砲は確かに高い威力を持っていたが、戦車の分厚い前面装甲を破るほどではない。撃破するには上空からあの戦車の薄い上部装甲を狙うか、回り込んで側部か後部から射撃するしかなかった。どうやらあの戦車に搭載されたAIもそういった攻撃を想定していたのだろう。
しかし、あちらにも限界はある。恐らく敵の装弾数は100もないはずだ。空を飛ぶ敵に対して使用する対空炸裂弾は全体の3割にも満たない。敵がその数を撃ち尽くすまで待ってから攻撃に転じればよい。
“それ”は最初の敵砲撃から今に至るまで、己の周囲で起きた爆発の回数を正確に記録していた。そして最初の砲撃から15回ほどで敵の攻撃が止まったことを確認して攻撃に転じようと試みた。15発というのは対空弾の搭載量としても妥当な数だ。敵はもうこちらに対して有効な攻撃を行えない。
尾翼の昇降舵を操作し機首を微妙に上げ、エンジンを吹かす。機体を支える揚力が増加し、ふわりと高度が上昇した。このまま敵の頭上から機銃掃射をして撃破する。それで終わりだ。
ところが次の瞬間、中枢コンピュータにとって予想外の出来事が起きる。
岩肌の向こうに敵影を確認しようとしたところで対空レーダーと大気圧センサーが高速で移動してくる物体を補足。警告を発したのだ。超音速でまっすぐ突っ込んでくる。中枢コンピュータはその警告に従って再び高度を下げた。エンジンパワーを減らして機首をわずかに下げる。
数秒後、その高速移動物体は機体の10m上空を通過。その瞬間に爆発して大量の破片を撒き散らした。撒き散らされた破片のうちのいくつかが機体に突き刺さる。大した損傷ではない。対空弾ではないことはすぐに分かった。この距離で対空弾が炸裂していたらもっとひどい損傷を被っているはずだからだ。戦術コンピュータの分析システムがすかさずその爆発を分析し、炸裂した物体が戦車の使用する対人榴弾であることを導き出した。
どうやら対空弾を切らした敵は、同じく空中で爆裂できる榴弾を使用することにしたようだ。そう結論した中枢コンピュータは、次に、どうしてこちらが機首を上げようとするまで敵は砲撃を中止したのかについて戦術コンピュータに質問した。対空用ではない榴弾を使うにしろ、こちらに命中するまで弾幕を張り続けた方が効率的だし安全であるはずだ。
しかも大気圧受動センサーが伝えた情報によれば、砲撃してきた敵は先ほどよりもこちらに接近しているではないか。いったい敵はなにを考えているのだ。それもまとめて戦術コンピュータに問いただした。
戦術コンピュータの出した答えは不明、だった。敵が砲撃を中止することはありえない。同時に、敵が進んでこちら側に接近することはありえない、と。
しかし今まさに起きているのだ、と中枢コンピュータは戦術コンピュータに再び質問を叩きつけ再計算するように命令を下したが、やはり戦術コンピュータはNOとしか言わなかった。逆にこちらが観測した現象が何らかのエラーである可能性を指摘し始めた。
中枢コンピュータは混乱した。戦術コンピュータが言うには敵がそんな行動をとるのはありえないはずなのだ。しかし現に敵は砲撃を中止したし、こちらに猛スピードで接近している。この二つがどうしても噛み合わない。どうしても理解できない。
その間にも戦術コンピュータからのエラーチェック要求が突きつけられていた。各種センサーと、中枢コンピュータ内に発生している可能性があるエラーを直ちに探し出せ、というのだ。だが戦闘中にそんなことをしている暇はない。中枢コンピュータはその要求を却下すると同時に、戦術コンピュータからの要求が二度と来ないようにフィルタリング機能を発動させた。これで戦術コンピュータから先ほどと同じ要求が来ることはなくなった。遮断したわけではないので別の要求が来ればこちらは受け取ることができるし、戦術コンピュータも外部からの情報を得ることは可能だ。
これで戦闘に集中できる、と中枢コンピュータは高度をさらに下げて敵の砲撃が来ないよう、周囲の起伏を利用して身を隠す機動を行った。戦術コンピュータはあいかわらずエラーチェック要求を出し続けているようで、フィルタリングによってその要求が除去された回線からは何も送られては来なかった。中枢コンピュータはそれを無視することにした。今は目の前の戦闘に集中するべきだ。
頭を上げれば、すぐに砲撃がくる。ならばギリギリまで接近して叩くのが効果的だ。できる限り接近した後に急加速して高度を上げれば敵の砲身はその動きに追随できない。そのあと死角となる真上から機銃で装甲に穴を開けてやればこの戦闘は終結する。
“それ”は低空を這うように飛びながら、じっと耐えた。
<敵機、なおも接近中。接触まで1分を切りました>
「地形にうまく隠れていやがる」ガレスはHMDの映像を見ながら舌打ちをした。この砂漠は俗にいう岩砂漠と呼ばれる形式の砂漠だが、砂漠の割にかなり起伏が多い。敵はその起伏に隠れながら接近してきているのだ。こちらが敵の攻撃から身を守るのにはうってつけだが、逆にこちらから敵に攻撃を当てることは困難だ。
「やつは機関砲の射程に入ったらすぐに顔を出してくるぞ。そこを叩け。弾はいくらでも使ってかまわない」
<ラジャー>
クローラーに押しつぶされる岩々によって戦車の向きが微妙に変動するのを握ったハンドルで抑えながら、ガレスは次にどんな手を使うのか考えていた。
本当に、敵が頭を出したその瞬間にやつを撃破できなければ機関砲の餌食になってしまう。戦車の主砲は自分の上空を飛ぶ敵に対して向けることができないのだ。そのために対空機銃が付いているのだが、高い耐久力を持つヴァルシヴォルスに対しては焼け石に水。役に立たない。
だが攻撃機の機関砲とはいえども、戦車の分厚い前面装甲を破ることはできない。攻撃機が戦車を撃破するには強力な対戦車ミサイルを使うか、機関砲の射撃を比較的薄い側面・後部・上部の装甲に叩き込む必要があるのだ。恐らく敵は上部装甲を狙ってくるはずだ。
だからこの戦いでは、こちらから見て敵が主砲で狙えないほどの高角度へ到達した瞬間に負けてしまう。絶対に敵の高度を上げさせてはいけない。主砲で狙えるうちに撃破する必要がある。例え砲身が過熱によって破壊されようとも、だ。
しかしそれが失敗した後、どうすればいいのだろう。ただ敵の機関砲が火を噴くのを待っているだけだろうか。
そんなのは嫌だ、とガレスは思った。どうせなら、最後の最後まであがきたい。華々しく散るのではなく、泥臭くても生き残りたい。死ぬのはゴメンだ。
<敵機再上昇。仕掛けてくるつもりのようです>
サディアスの報告により思考を中断するガレス。今はとにかく目の前の敵に対応しなくてはならない。ハンドルを握る手に力がこもった。
「サディアス、絶対に当てろ。これで撃破しなけりゃ俺たちはおしまいだ。主砲がイカれてもかまわん。連射速度最大。砲弾は対人榴弾だ」
<了解>
サディアスはHMD上に、敵機がこのまま上昇を続けた場合の、起伏の影から姿を現すまでの時間を表示した。その数字が徐々に短くなっていく。7、6、5、4、とガレスはそのカウントを呟いた。数字が一つ減るごとに自分の心臓が心拍数を上げていくのを感じた。そのせいか、数字が0になるまでの時間が異様に長く感じることになった。
3、2、1・・・0
0と表示されるのと全く同時にサディアスの主砲は火を噴いていた。オレンジ色の炎が砲口から吹き出す様子がガレスの眼に焼きつく。車体が反動でわずかに揺れ、発射音がコクピット内に響いた。続けて2発目と3発目が発射され、さらに5、6と1.5秒程度の間隔で連射されていく。
それは57式戦車の設計限界を超える連射速度だった。自動装填システムが本来想定されていた稼働スピードを超える猛烈な速さで砲塔内を動き、次々と弾を補給し、空になった薬莢を排出していく。このような速度での給弾は砲閉鎖機構のロックにミスが生じる確率が跳ね上がってしまうため、カルダン軍では禁止されていた。もし砲の閉鎖機構がうまく閉まっていないのに装薬に点火してしまえば砲自体が破壊されてしまうからだ。
だがそのリミッターとなるプログラムは中枢コンピュータではなく戦術コンピュータが保有している。今のサディアスは戦術コンピュータを切り離していた。本来そういった運用は想定されていないが、そのおかげでサディアスはシステムの限界を超えた給弾速度を成し遂げていた。
主砲から撃ち出された砲弾は超音速で敵機の未来位置に突き進む。サディアスは、敵がどういった回避行動をとるのかという本来戦術コンピュータがやるべきシミュレーションまでこなしながら敵に狙いを定め、その通りに砲身を動かして砲弾を撃ち出していた。
砲弾が己の進行方向上に突撃してくることをレーダーで探知した敵機はくるりと横転し、わずかに進行方向をずらした。それだけでも誘導能力を持たない砲弾は敵機から外れてしまう。敵機はその後も右へ左へ主翼をダンスするかのように振ることで砲弾の雨をかいくぐっていく。高速で飛来した砲弾は敵機の周囲で自爆し、爆炎の嵐を巻き起こした。
撃っては避けられ、撃っては避けられ、避けては撃たれ、避けては撃たれ、それでもサディアスは砲撃を止めなかったし、敵機も避けるのを止めなかった。人間に作られた精緻なコンピュータ同士の、生存をかけた戦いだった。
“それ”の中枢コンピュータは、敵の恐ろしく正確な砲撃能力を驚異に思っていた。こちらの未来位置を予測するだけではなく、どう回避行動するのかまで予測して砲撃を行っている。それもかなり的確に。おかげで砲弾が放たれるたびにその弾道を予測して回避行動を考えなくてはならなくなっていた。
敵はかなりの戦闘経験を積んでいるものと推測された。そうでなくてはここまで驚異的な砲撃は不可能だろう。敵が単機でなく複数機存在していたらあっさり撃墜されていたかもしてない。しかも敵の連射速度はこれまで戦ってきたカルダン軍戦車のどれよりも上を行っていた。通常ではこんな連射を行えば砲身が破壊されてしまう。連射速度に優れた新式の大砲を搭載しているのだろうか。
中枢コンピュータは敵が新型の戦車であることを推測し、その是非を問おうと戦術コンピュータに信号を送るが、やはり戦術コンピュータからは何も送られてこなかった。まだデットロック状態に陥ったまま抜け出せないようだ。
敵はなおも砲撃を続けてくる。中枢コンピュータはレーダーシステムから送られてくる弾道データを元に適切な回避ルートを選び出す。目指すは敵の真上。そこに到達してしまえば敵は主砲による攻撃が不可能になる。
敵の砲撃は驚異的ではあるが、専用の対空砲が行う高速砲撃に比べれば避けるのはたやすい。それに装弾数もそれほどないはずだ。
中枢コンピュータは飛行制御ユニットに指示を出し、エンジン出力を最大にさせた。少し遅れてジェットエンジン内のタービン回転速度が跳ね上がり、機速が徐々に付き始める。このジェットエンジンには推進力を大きく向上させるアフターバーナーなどの機構が付いていない。そのため加速するのに時間がかかってしまう。
この高度で出せる最大速力に到達したところで中枢コンピュータは機体を大きく上昇させた。まるで地面を蹴りあげるかのように機体は空に向けて急上昇。その動きに追随できなかったのか、敵の砲撃が止んだ。一拍置いて砲弾が上昇する“それ”めがけて突っ込んでくる。これを軽い横転で躱したあと再び水平飛行へ移る。
水平飛行に移ってから敵の砲撃はさらに苛烈なものとなった。これ以上進まれると戦車の主砲では狙えなくなってしまうからだ。射程外ながら対空機銃による弾幕も織り交ざり、機体の各所に損傷が発生する。この機体は『空飛ぶ戦車』と称されるほど頑丈に設計されている。エンジンがひどく損傷しないかぎり機銃程度で撃墜されることはまずなかった。
敵戦車との距離がさらに近まり、こちらに搭載された機関砲の射程に入る。砲撃を避けつつ機首を下げて目標と機関砲の射角を合わせる。
FIRE。2秒ほどの射撃。この位置からでも敵上部装甲を打ち抜くことは可能だった。機関砲から撃ち出された砲弾が敵戦車めがけて殺到。
ところが敵戦車は滑るような動きで左に移動し、機関砲弾が上部の脆い部分に直撃するのをかろうじて避けていた。それでも敵のクローラーを覆い隠している左側面胴体上部装甲は砲弾の雨によってズタズタに引き裂かれている。お返しとばかりに敵の主砲が火を噴いた。
昇降舵を操作して再び上昇。砲弾を回避する。砲弾は機体から30mほどの空間で炸裂した。
敵は機動性にも優れているようだった。やはり死角から一方的に機銃掃射を行わなければ充分なダメージは与えられない。
中枢コンピュータは敵の死角となる空間が敵戦車から見てどの角度になるのかを分析。そのデータをもとに最適な射撃ポジションを導き出した。敵戦車の背面上方。そこで敵戦車めがけて撃てばよい。
<左クローラー損傷。走行に支障はありません>
「くそう。撃て撃て撃て!」
敵機の射撃を回避しそこなったガレスは着弾による衝撃でもうろうとする頭を振って戦闘を再開した。
非常にまずい状況だった。敵機にまともな攻撃を与えられず、反撃を許してしまった。このままではあと10秒程度で敵がこちらの死角に入り込む。
<敵機が主砲の死角に入ります。操縦は私に任せて、中尉は脱出の準備を>
「お前はどうするんだ」
<あなたが安全に逃げられるよう、囮になります。長い間ありがとうございました>
ばか、とガレスは怒鳴った。57式戦車のAIには緊急時において搭乗者を何としてでも保護しようとするプログラムが存在する。サディアスはそのプログラムに従い、己を犠牲にしてでも搭乗者たる自分を逃がそうとしているのだ。
だが、はいそうですかと何年も戦ってきた相棒を見捨てられるほど、ガレスは冷酷になれなかった。
「諦めるな。まだ手はあるはずだ」
<どうするっていうんですか。敵に主砲を向けることすらできないっていうのに>
歯噛みするガレスはHMDに映る景色を見渡した。どこか隠れられる場所はないか。敵機をぶつけられそうな岩山でもいい。この状況を打開できるもの。
サディアスからの警告音が、ガレスが今まで聞いたことがないほどの激しさでコクピットの中に鳴り響く。ちくしょう、とガレスは制御卓の角を叩いた。
<敵機、死角に入りました。すぐに機関砲弾が飛んできます。至急脱出を>
「まだだ」ガレスは叫んだ。「脱出は最後の手段だ。敵が射撃アプローチに入るまでに何とかできないか考えろ」
<もう時間がありません>
「お前は人間より頭の回転が速いんだろ。最後の手段がダメなら最後から二番目の手段を考えるんだ」
<そんな無茶な>
ガレスは首をひねって上空を見た。敵機が低空で真上を通り過ぎようとしているところだった。逆光のせいでよく見えないが、その十字架に似たシルエットは紛れもなくセノニム軍のヴァルシヴォルス攻撃機、それも細部の特徴から鑑みるに、最新タイプの12型だった。
敵機は時速500kmの速度でサディアスの頭上を通り過ぎると、水平飛行から旋回に移り、こちらの後部上方を取りに入った。
ヴァルシヴォルスは攻撃機ゆえそれほど旋回性能が高くない。こちらにあの機関砲が向くまでまだ時間はある。
<もう一刻の猶予もありません。ガーサイド中尉、私にコントロールを渡してください>
「いやだ」
<いいかげんにしてください>
「お前こそいいかげんにしろ。そんな簡単に負けを認めるなんて、それでも陸の王者か」
<砲が使えなければ王者も何もありません。物理的に無理だって言っているんですよ>
「主砲が向けられないなら向ければいいだろう」
<だからどうやって>
もはや堂々巡りの様相だった。ガレスは意地でもサディアスにコントロールを渡すまいと、ハンドルをがっちりと握って離さなかった。ここでもしハンドルから手を離したら操縦を放棄したものとみなされコントロールをサディアスに奪われてしまうだろう。それだけは絶対にさせたくなかった。
どうする、どうすればいい。ガレスは逡巡した。サディアスを失うのも、自分が死ぬのも、どっちも嫌だ。どうにかしてその二つを回避する方法を見つけ出さなければ。死神はもう背後に迫っているというのに。
再び何かないかと辺りを見渡していると、正面左に何か見えた。ガレスは無意識のうちに素早くHMDの画像を制御卓を通じて拡大ズームしていた。赤茶けたこの砂漠の色に紛れて見えにくいが、赤さび色の塊のようなものだった。
さらにズームして、それが破壊され朽ち果てた戦車であることがわかった。かなり前に撃破されたらしく、装甲は穴だらけでボロボロとなっており、砲塔から伸びた砲身も力なく頭を垂れてしまって、稼働していたころの威光は見る影もない。
壊れた戦車などこの砂漠では珍しくもない。10年にわたって続けられてきたこの戦争で、数多くの戦車が撃破されては砂漠のどことも知れぬ場所で朽ち果てていった。ガレスもサディアスも、短いこの逃亡劇の間に何両もの味方車両の残骸を発見してきた。そのたびに、明日自分達がこうなるのかもしれない、と想像しては目を逸らしてきたのだった。彼らにとってそれらの残骸は実体化した絶望と不安そのもののようであった。
ところが今のガレスの眼にその死の象徴は、自らと相棒の希望を繋ぐ命綱のように見えた。これだ。これしかない。ガレスの瞳に光が宿った。
「サディアス、最後から二番目の手段だ。あの戦車が見えるか?」
<見えますが──そんなことより>
「命令だ。あと少しだけ俺に従え。あいつに一泡吹かせてやる」
<・・・何をするつもりですか>
「まあ見てなって」
ニヤリ、とガレスはあの自信満点な笑みを浮かべハンドルを微妙に動かして先ほど見えた残骸に向けて旋回すると、ペダルを思いっきり踏みつけてアクセルを全開にし、制御卓の、エンジンパワーリミッターを解除するスイッチを勢いよく押しこんだ。
次の瞬間、後部に内蔵されたエンジンが設計限界を超えるパワーを絞り出し、57式戦車の巨体をさらに加速させた。車体後部に備え付けられた排気管から排気煙に紛れて炎が噴き出し始める。
この状態を長く維持することはできない。数分も続けるとエンジンが高温で焼き付きスクラップになってしまう。
<中尉、こんなスピードで逃げ切れると思っているのですか。それともあの戦車を盾にするつもりですか>
「逃げるなんて誰が言った。言っただろう、攻撃は最大の防御だって。俺が考えているのは攻撃だけだよ」
いったいそれはどういう、と訊こうとしてサディアスはとたんに理解した、ガレスがやろうとしていることを。
それはあまりにも無謀な戦法だった。サディアスも理論としては理解できるがそれを実行に移そうなどというのは考えたこともない。ガレスが正気なのかを疑うほど、ありえないやり方だった。
しかし、可能性は残されている。己が生き残るためにはそれをやるしかないというのも事実だ。確かにそのやり方でうまくいけばあの敵を一撃で葬れる。
これ以上ない賭けだった。とてもじゃないが成功するとは思えない。その攻撃が敵に命中する確率は無いに等しいし、失敗すれば今まで以上に不利になる。まともな神経をしていればこんな攻撃を思いつくなんてこともないだろう。それほどイカれた行為をガレスはしようとしているのだ。もし戦術コンピュータが彼の考えを聞いたなら、そのあまりの荒唐無稽さに発狂してしまうだろう。
それでも、やるしかない。サディアスは覚悟を決めた。
どうせ破壊されるなら、最後の最後まで戦い抜いた方が自分の性根には合っている。それにガレスは己とこの自分の両方を救うためにこんな無謀にもほどがある戦術を考えてくれたのだ。彼の心意気を無駄にしてはならない。
先ほど自分は、彼を信じようと決意したばかりではないか。ならば、その心を最後まで貫き通すのが筋というものだ。それが人間を信じるということなのだ。
<了解しました、ガレス>サディアスは彼のことをガーサイド中尉ではなく、あえてファーストネームであるガレスで呼んだ。<あなたを信じます。主砲、右120度に回頭。敵未来位置を再計算。コントロールを渡してください>
「OK。今度こそ絶対に当てろよ」そう言ってハンドルに込めていた力を抜くガレス。
<ラジャー。刺し違えてでも相手の鼻っ面にぶち込んでやります>
ガレスはサディアスの様子から、己のやろうとしていることを彼もまた理解しているのだということを悟った。
これほどサディアスと深く意思疎通できたのは初めてだ、と考えると不思議な幸福感がこみあげてきて、もはや恐怖など感じていなかった。
上空で旋回を終え、攻撃アプローチに入ろうとする死神を見据えたガレスは、再びあの獰猛な肉食獣を思わせる笑みを浮かべたのだった。
セノニム軍攻撃機は地面に対して40度の角度を保ちまっすぐに降下を開始。戦車の砲撃を受けないようにするには妥当な降下ではある。その中枢コンピュータは火器管制ユニットを通じてカルダン戦車をロックオン。最適な射撃ポジションへ機体を移動させようとしていた。
戦車はそれに対して何の対抗策をとろうともしていないように見えた。何かしようにもこの角度から接近されてしまっては戦車の特性上なにもできない。先ほどまで果敢に弾幕を張り続けていた対空機銃も弾切れを起こしたのか沈黙していた。
火器管制ユニットからのデータを受け取った攻撃機の中枢コンピュータは自らの勝利を確定的なものとして認識した。敵戦車にはもうこちらへ反撃できる手段など残されてはいない。可能なことといったら逃げ回ることぐらいだが、機動性はこちらの方が遥かに上だ。こんな開けた砂漠で逃げ切るなど不可能。敵戦車が先のような回避行動をとった場合は厄介だが、機関砲による面制圧を行えば避ける間もなく撃破可能だ。
しかし撃破する前にやるべきことがある。中枢コンピュータは偵察用カメラを作動させ、敵戦車の情報をメモリに記録し始めた。単機にも関わらず攻撃機に対してここまでの抵抗を見せた戦車など、司令部に保存された総合戦闘記録にも存在していない。もしこの戦車と同タイプのものが多数生産されているとしたら、戦局に大きな影響を与えることだろう。敵がそうする前に、対抗策を考えておく必要がある。
戦闘に勝利後、この記録を基地に持ち帰れば敗北の可能性を摘むことができる。
中枢コンピュータは敵戦車の姿をメモリへ記録すると同時に、相手がどのような型の戦車であるのか自らの戦闘記録と照らし合わせて分析することにした。
すると驚くべきことに、その戦車と全く同型のものが記録の中に存在していたのだ。カルダン陸軍主力の、57式戦車だ。
57式AI戦車を含めたカルダン軍製AI兵器には時折その設計想定を超えた戦闘能力を発揮する個体が存在することが知られていた。設計は他個体と同じであるにも関わらず高い能力を保有する理由は、セノニム軍の中でも謎として扱われていた。同じ設計ならば同じ能力を持ってしかるべきなのに、だ。セノニム軍は軍司令部に存在するセントラルコンピュータを用いて解明を試みたが、何年かけてもその謎を解き明かすことはできなかった。どうやらこの戦車もカルダン軍の謎の一つであるらしかった。
なぜ高性能を発揮するのかはわからなくても、セノニム軍ではこのような個体に出くわした場合の対処法はすでに考えられていた。いかなる手段を使ってでも、その個体を一刻も早く撃破し、殲滅すること。攻撃機の中枢コンピュータもその対処法を正しいものとして認識していた。
偵察行動はすでに終了している。もはやあの目標を生きながらえさせる理由などない。直ちに攻撃を再開し、敵を撃滅する。
偵察用カメラで撮影した最後の画像をメモリにしまいこむと、中枢コンピュータは火器管制ユニットに敵戦車攻撃の信号を放った。火器管制ユニットは機首に搭載された大口径機関砲を起動させるモーターを回転させる。モーターの回転によって動力を得た複雑な機構は滑らかな動作で給弾ベルトを引き込み始めた。砲弾を発射させるための炸薬が薬室で高速燃焼。劣化ウランを弾心とした太さ30mm長さ15cmを超える砲弾が燃焼ガスに押されて超音速まで一気に加速。
中枢コンピュータは己の勝利を疑わなかった。劣化ウランで構成された機関砲弾はあと一秒もたたないうちに敵戦車の装甲を突き抜け、中のパイロットもろともその中枢コンピュータを破壊することだろう。あの戦車に攻撃の手段が残されていないことを踏まえれば、相討ちの可能性もない。完全なる勝利を達成できる。
だが、敵戦車へと無数の砲弾が向かうさなか、攻撃機の中枢コンピュータが全く想定していなかった事態が発生し、その確信は完全に外れてしまうのだった。
敵戦車が、左に大きく翻ったのである。
57式戦車は朽ち果てた戦車の残骸を高速回転する右クローラーで叩きつけ、スピードを保ったまま車体の右側だけその残骸の上に乗り上げていた。
中まで錆びついていた砲身が突如として出現した大質量の体当たりによってバキンと音を立ててはじけ飛んだ。かつて最高の防御力を誇っていた装甲もクローラーの容赦ない回転によって粉々に砕け散っていく。
右半分だけ乗り上げた戦車は、障害物をものともしないその巨大な慣性を維持したまま前進。右側のみが残骸を踏み台にして跳ね上がった。
その際、戦車の中枢コンピュータは右クローラーに存在する全てのサスペンションを最大速度で伸長させることで、あたかも人間が飛び上がる瞬間に地面を蹴りあげるがごとく、鋼鉄でできたクローラーの帯全体を残骸に叩きつけていた。車体の右側は残骸をジャンプ台のように踏み付ける格好となり、そのまま左へと倒れ込んでいく。
浮き上がった右とは対照的に地面と接近し始めた車体左側面は固く乾燥した地面をえぐり、えぐられていた。
攻撃機の機銃攻撃で損傷した側面装甲が地面と高速で接触してバラバラにちぎれ飛ぶ。側面装甲がなくなったことで露出した外クローラーの帯も地面との摩擦によって大きな負荷がかかり、ちぎれたゴムひもか何かのように鉄板一つ一つを撒き散らしながら消失していった。
右後方に向いていた砲塔の後部も地面を削りとっていた。中枢コンピュータはその向きが絶対に変動しないように砲塔と胴体の結合部分を機械的にロック。戦車胴体からせり出した砲塔後部がストッパーとなって車体がそれ以上左へ傾くことを防いだ。
やがて57式の車体は、右側を叩きつけた反動によって地面に対し横倒しの状態になった。推進力を失ってもその大きな質量は慣性を保有し続けることで大きく減速しながらも前へ進んでいた。
戦車の中枢コンピュータは全ての処理を後回しにしてセノニム軍攻撃機の位置へと砲身の向きを調整するべく演算処理を開始する。横倒しになったことで、それまで上だったのが進行方向に対して左に、左だったのが下へと変わる。このままではどちらが上下でどちらが左右なのか混乱をきたしてしまう可能性があるので中枢コンピュータは、それまで上下方向の感覚として捉えていたZ軸の値を左右方向をつかさどるY軸の値へと変換。同じようにY軸の値をZ軸へと変換する。
しかし混乱を防ぐために行ったこの処置により、火器管制コンピュータの、弾道計算を行うシステムにエラーが発生してしまう。
最新の火器管制システムはとはいえ、車体が90度横倒しになった状態での運用は想定されていない。中枢コンピュータは火器管制ユニットの働きを強制的に奪い取ることでエラーを無視することに成功した。幸い、横倒しになって急減速したために敵機との距離がかなり近づいていたことで中枢コンピュータは複雑な弾道計算を必要とすることはないと判断できた。
砲塔の向きはロックしてあるため動かすことはできないが、砲身だけなら動かすことができる。つまりこの場合では一定距離にまで近づいたところで、敵の進行方向を予測して砲身の角度を微調整し、最適なポイントへ敵が到達した瞬間が狙い目となった。
中枢コンピュータはその最適なポイントとなる弾道を、地面との摩擦で変化していく自機の運動を含めて高速計算。同時に敵がこれから取りうる機動方向の予測も並列処理していく。その計算結果をもとに砲身を上方向──つまり現状おける進行方向に対して左方向に約3度移動させた。するとそれにより予測した弾道曲線が敵進行ラインと誤差数十㎝の値で交わった。中枢コンピュータはその計算結果を正しいものとみなし砲身位置をジャイロシステムによって固定した。
砲身の角度調節が完了してから0.5秒もたたずにその瞬間はやってきた。中枢コンピュータは乗っ取った火器管制システムの回路を経由して砲塔内の薬室へ起爆信号を流した。砲弾発射薬の雷管が作動。すさまじい膨張圧に押し出された砲弾は薬莢から飛び出し砲身内を走り抜け、強烈なマズルフラッシュと共に空へ向けて撃ち出された。
撃ち出された砲弾は大気を裂き、円錐状に尖った先端から超音速の衝撃波を発生させて突き進んだ。砲弾の後ろはほとんど真空に近い状態となり前方の圧力と相まって砲弾を減速させようとするが、砲弾の巨大な慣性力はそれをものともしない。砲弾はわずかに重力によって地面方向に引き寄せられつつも、一直線に敵へ向かって突き進んでいく。
砲弾は攻撃機の機首部分、そのど真ん中に飛び込んだ。攻撃機の重厚な鋼鉄装甲もこの衝撃を止めるには至らない。砲弾はたやすく装甲を突き抜け、内部機構を押しつぶしながら機体内を進み続けた。攻撃機の中枢コンピュータはその段階になってもまだ己に何が起きたのか理解できない。その演算速度を超えるスピードで砲弾は中枢コンピュータが内蔵された胴体中央部のコンピュータユニット部へ到達。そこで信管を作動させた。
砲弾内に隙間なく詰め込まれた高性能爆薬が信管の炎に引火。爆薬の燃焼は超音速で砲弾内に伝達され、それによって発生した高温高圧の燃焼ガスは弾殻を瞬時に破壊した。粉々になった弾殻はガスの圧力でそのまま飛び散ることで周囲に存在する精密機器を食い破り、発生した爆炎は中枢ユニットの隅々まで行きわたりその回路の一本一本に至るまでを焼き尽くした。
中枢ユニットを破壊した炎と破片はさらに攻撃機の内部構造をぶち破りながら突き進み、主翼と胴体内に貯蔵された燃料タンクへと到達。あらん限りの破壊でタンクをバラバラに引き裂き、燃料を吹き出させた。
空中へと噴き出た可燃性の燃料ガスは空気と織り交ざり最適な混合比になったところで発火。機体を炎に包みこんだ。
攻撃機は空中で爆散した。
<中尉、起きてください。中尉>
中枢コンピュータの発する警報でガレス・ガーサイド中尉は目を覚ました。ぼんやりとした視界に戦車の低くて狭い天井が映る。
<ああ、良かった。無事なようですね>
「・・・サディアス、状況は? あのヴァルシヴォルスは?」くらくらと揺れる頭を振って上体を起こすガレス。
どうやら衝撃で気絶していたらしい。戦車の残骸に乗り上げたあたりからの記憶がない。頭がぼんやりとしていてどちらが上なのか下なのかわからない。
HMDが顔の前についていないことに気づいて、ガレスは無意識のうちにヘッドセットを手探りで見つけようとしていた。
<敵は撃破しました。我々の勝利です。──ヘッドセットならあなたの足元ですよ>
「そうか、よくやった」
ガレスは足元に転がったヘッドセットを狭いコクピットで身体を折り曲げて拾い上げ、軽くホコリを叩いてからかぶり直しスイッチを入れた。再び視界には赤茶けた砂漠と青く乾燥した空が広がった。地平線が横に広がっているということは、戦車は奇跡的に水平へ戻ったらしい。57式戦車の砲塔は真横を向くと砲塔後部が胴体よりも横にはみ出す。サディアスはそれを利用して立て直したのだろう。
表示されている時刻を見るとあの戦闘から30分ほど経過していた。
あちこちに焼け焦げた機械の破片らしきものが転がっていた。撃破されて爆発したヴァルシヴォルスの破片だ。それが戦車の周囲100mくらいの範囲に飛び散っている。あちこちからまだ煙が上がっていた。外に出てみなければわからないが、たぶん猛烈に焦げ臭いだろう。
それと、背後にはあの踏み台にした戦車の残骸が見るも無残にひしゃげていた。砲身は消失し、車体全体が平べったく押し潰されている。あの中に戦死した味方の遺体が残されていないことをガレスは祈った。
「車体の状態を知らせろ」
<左外側クローラー大破、右外側クローラーは敵が最後に撃った砲弾が何発か直撃して破壊されてしまいました。かろうじて内側クローラーの一対は稼働できますがまともには車体を動かせないでしょう。主砲も砲閉鎖機構がボロボロです。砲塔もへこんでいます。再使用するには完全にレストアしなければなりませんね>
「・・・まずいな、敵を撃破しても基地に帰れなきゃ意味がない」
<その心配はありません。先ほど味方の無線通信で、砂漠で行われたと思われる詳細不明の戦闘に対して少数の調査隊が編成された、という会話が聞こえてきました。そのうちこちらを見つけてくれるでしょう>
「・・・よくまぁそんな程度のことで調査隊ができたもんだな」
<基地対空レーダーであの敵機を捉えていたようです。それが戦闘機動らしき動きをした後、突然レーダーからロストしたものだから不審に思ったのでしょう。ひょっとしたらこの前壊滅した基地の生き残りが砂漠をさまよっているのかもしれない、と基地司令官が判断した可能性もあります>
「お前の砲撃音が聞こえたって可能性もあるな。──まあ、良かったよ。救助が来るっていうんなら大丈夫だろう」ガレスは心底安心したように深く息を吐いて、シートの背もたれに身体を預けた。
聞いた限りではサディアスも大きく損傷してしまったらしい。だがあのような絶体絶命の状態から大逆転を決めたのだからこのくらいの被害は仕方ないか、とガレスは思う。
あのヴァルシヴォルス攻撃機を戦車単機で撃破するというのはもはや勲章ものの武功だが、ここまで戦車に被害が出てしまっては勲章など諦めた方がいいかもしれない。
「これじゃあ勲章は無理だな。せっかく死ぬような思いをして戦ったっていうのに」
<生き残れただけでも幸運ですよ>
「本当だぜ。まだ生きている実感がない。夢みたいだ」
<夢か現実か、試しに殴ってあげましょうか? 砲身で>
「バカ、そんなことしたら頭の骨が砕けるぞ。無茶な作戦を立ててお前を傷だらけにしたことへの当てつけか?」
<いいえ、戦車というのは傷だらけになるのが当たり前ですから。気にしてなんていませんよ>明らかに根に持っているような声色をわざと作り出して喋るサディアス。<それにしても人間とは脆い生き物ですね。それしきの衝撃で重症を負うなんて。・・・そんな脆い存在を載せながら強敵に打ち勝った私はやはり世界最高の知性体なのですよ>
「車体だけじゃなくて中枢ユニットもレストアしてもらったほうが良いな」
<ええ、誰かさんがハンドルを握ったおかげで戦術コンピュータまで狂ってしまいましたよ。基地に到着したらマシン・トランキライザで直さなくては>
「・・・戦術コンピュータが吹っ飛んでいたのか。いつから?」2、3回ほど瞬きをしてから訊くガレス。
<だから、あなたが私のコントロールを奪った時からですよ>
それがどうした、という趣で報告するサディアス。それとは対照的にガレスは何とも言えない寒気が全身に広がっていくのを感じ取り、表情を凍らせた。
「・・・よく俺たちは助かったもんだな。戦術コンが機能しない状態なんて、レッドアラートものだぞ」
サディアスのような半AI兵器も、ヴァルシヴォルスのような純粋AI兵器も、戦術コンピュータ無しでの運用は想定されていない。単一のAIシステムではまるまる一つの兵器をコントロールするのに負担が大きすぎるためだ。戦術コンピュータがその場において最もベストな動きや攻撃方法を提案し、中枢コンピュータがその指示に従うことで処理を分散させているのだ。人の手を借りることなく戦闘を行う純粋AI兵器において戦術コンピュータは極めて重要なシステムとなっている。人の手を借りることのできる半AI兵器ではその重要さは薄まっているが、それでも戦闘ではなくてはならないサブシステムとして機能している。
もし戦術コンピュータが機能しなくなるという事態に陥れば、それは第一級の非常事態を意味していた。人間で言えば小脳が機能しなくなり、全ての身体機能を大脳だけで行わなければならなくなったのと同じようなものだった。
<私が戦術コンピュータを強制停止させたのです。狂った機械ほど厄介なものはありませんからね。下手に暴走されても困りますから。それが、なにか>
「・・・てことは、全部お前が処理していたのか」
<それほど難しいことではありませんでした。戦術コンピュータの代わりに中尉がどう動くのかを命令してくれましたからね。かなりの高負荷がかかったことは事実ですが>
「すまん。気づかなかった」
<いいえ。あなたのその狂った脳髄が生み出した狂気の戦術のおかげで我々は今こうして生き残っているわけですから、感謝していますよ。世の中何が吉と出るか凶と出るかわからないものですね>
「遠回しに罵倒しているように思えるんだが」
<まさか。今回は純粋にあなたを称賛しただけですよ>
「嘘こけ。俺の脳みそが狂っている、だって? それのどこが称賛なんだよ」
<さあ>
こいつ、とぼけやがった。ガレスはコクピット内に搭載された高性能集音マイクに音を拾われないように小さく舌打ちをした。まったく余計なことばかっかり学習しやがって。いったい誰に似たんだか──俺か。
57式戦車のAIは搭乗者の性格に合わせてその性質を変貌させる。だから上品な人間と会話し続けたAIは上品な物腰になるし、自分のような人間と会話し続ければ変に嫌味な性格になる。気晴らしにブラックジョークなどを口にすればAIはそのジョークを学習して解析し、搭乗者に対して怒った時などに自ら編み出したキツいジョークを披露することにつながる。だからサディアスに対して嫌味を言うということはすなわち自分にもその嫌味が返ってくるということなのだ。しかもサディアスは嫌味には嫌味で返すから実質2倍の攻撃が返ってくる。自分に自分で嫌味を言っても何の愉悦も感じられない。
しかし、誰がこんなコミュニケーション能力をこいつらに与えたのだろう。ガレスはヘッドセットを外しながら考える。シートの下にある操作レバーを動かしてシートをリクライニングさせ、そのまま寝ころぶ。
<中尉?>
「うるさい。お前の一言で俺のデリケートなハートは傷ついた。しばらくのんびりさせてくれ」
<デリケートなんて、あなたには最も似つかわしくない形容詞ですよ。私にはぴったりの言葉ですが>
「黙れ」
<ああ、私のような世界最高の知性体がこのようにぞんざいな扱いを受けるなんて。狂っているのはこの世界の方だったのですね。なんと哀れな私>
「アホか」
<間違っていたのは私じゃない、世界の方だ!>
どうやらサディアスの方も、死線をさまよう恐怖から解放されて少しばかりハイになっているようだった。ガレスにもその気持ちは理解できた。ヴァルシヴォルスは彼ら57式戦車のAIにとって、まさしく命を刈り取る死神なのだ。その死神を返り討ちにすることができたのだから、嬉しくないわけがなかった。
ガレスが黙り込んでからしばらくの間もサディアスは、やれ己こそが人類史上最高の人工知性だとか、だから待遇改善を要求する、だとかわめいていたが、ガレスが静かにまぶたを閉じると喋るのを止めた。やはりサディアスもこちらと一緒にはしゃぎたいのだ、とガレスは寝たフリをしながら思った。残念ながら俺は疲れている。
確かにヴァルシヴォルスを倒したことは驚異的な戦果だった。戦車であの悪魔のごとき純粋AI兵器を倒したという報告は聞いたことがない。この戦争において恐らく自分達が最初に打ち立てた記録だ。
きっと、勝因は俺の存在だ。ガレスの頭の中にどこからともなくそのような考えが浮かんでくる。実質戦ったのはサディアスであるが、ハンドルを握り戦闘を指揮したのはこの自分だ。このガレス・ガーサイドという人間がサディアスと共に戦ったことで今回の勝利を手に入れることが叶ったのだ。
あのヴァルシヴォルス攻撃機のAIは、こちらが何の前触れもなく突撃を仕掛けてきたことに戸惑ったことだろう。
反対に、サディアスは人間である自分が行った破天荒な行動を戒めながらも最終的に理解を示し、こちらに協力してくれた。つまりそれはこちらがやろうとすることを非論理的であると感じながらも、その論理的な思考回路で理解することができた、ということなのだ。
サディアスは自分と何年も会話し、戦い、お互いを知りあってきた。彼の学習ユニットには自分が行ってきたありとあらゆる行動と指示が記録されている。
57式の語彙学習用メモリは別に単語や言い回しを記録することだけに使用を限定されたものではない。中枢コンピュータの判断によっては別のデータを記録することも可能だ。今までの経験からして、サディアスは俺という存在がどういう時にどういう判断を下すのかを学習し、そしてその時の行動が正しいものなのかを判断してきたのだ。サディアスはいつもその行動記録と照らし合わせて、こちらのやろうとしていることを理解していたに違いない。
人間は時たま理屈に合わない行動をとることがある。それは理屈の塊であるコンピュータには理解しがたいものであって、理解しようとするととてつもない負荷がかかる。現にこの自分とコミュニケーションをとったことのないサディアスの戦術コンピュータは、こちらが下した判断を理解することができず発狂してしまった。
しかしサディアスの本体たる中枢コンピュータは理解できた。人間と長く付き合ってきた分、人間の非論理的な行動概念を理解するのにそれほど苦労をしないのだ。
この戦争で人間よりずっと高性能な自立コンピュータを載せている純粋AI兵器がセノニム側から投入されてずいぶんと経つが、未だに性能で劣るはずのカルダン軍の勢いを削げていない。カルダン軍の投入する人間を載せた半AI兵器は純粋AI兵器と互角の勝負をしている。双方の司令部はそれの原因を探し出せていない。
もしかしたらその原因は、人間の存在なのかもしれない。ガレスは思った。
半AI兵器は人間がコンピュータの指揮を執ることがほとんどだ。よって人間が時折見せる理屈に合わない奇抜な行動や、コンピュータには想像もできない非常識な戦法をとることがある。純粋AI兵器はそれら規格外の戦い方を予測することも理解することもできず、翻弄されているのだ。
戦闘機の運動性が大きなウェイトを占める空軍において、無人機ほどの運動性を持たない半AI兵器は中途半端な存在かもしれないが、陸上での戦いでは人間が乗っていても大した重荷にはならない。そこへコンピュータでは理解できない人間の非論理的でわけのわからない戦術が加われば、五分五分に持ち込むことが可能だ。それどころか戦局をひっくり返すことだってできる。
結局、戦争は人間がやらなければならないのだ。どれだけ機械化を推し進めたところで、人間の存在しない戦争などありえない。
そもそも機械は人に命じられなければ、戦争という非効率的な闘争手段はとらないはずだ。彼ら機械は人間の都合で無理やり戦わせられているにすぎない。セノニム側もカルダン側もそれを恐らく理解していないのだ。ただカルダン側の技術力が少しばかり劣っていたことで偶然にも事態が好転しただけのこと。技術が整えばカルダン側も純粋AI兵器を作り出すだろうが、それでは戦局は変わらないどころか逆に悪化する。
人がいなければ戦争は成り立たない。そしてその戦争に使われる兵器たちも、だ。
このことをまとめて基地のお偉いさんに伝えて理解させれば、少しはこの戦争も変わるだろうか。それとも一士官の言うことなど気にもとめずに今まで通り戦争を続けるだろうか。
まあ、そんなことを考えるのは救助隊に基地へ連れていってもらって、士官室のベッドに寝転がってからでも遅くはない。
ガレスは考えるのを止め、ゆっくりと眠りの世界へと落ちて──行こうとした。
<中尉、本当に寝ているのですか?>
サディアスのささやくような声にぎくりとするガレス。できれば今は誰とも話したくはない。静かにしていたい時というのは誰にでもあるものだ。サディアスも誰かと会話していたいのだという気持ちも良く理解できる。
だが今のサディアスは恐ろしいほどテンションが上がっていて、こちらが何か言い返せば文字通り機関砲のごときマシンガントークを繰り出すことだろう。それは勘弁してもらいたかった。ガレスは狸寝入りを決め込んだ。
<・・・本当に寝ているんだったら、私がどれだけ悪口言っても反応しないはずですよね>
ガレスはサディアスが何をしようとしているのか瞬時に理解し、頭を抱えたくなった。ああ、本当に似てほしくないところばっかり似やがって。
<ガレスのばーか。間抜け野郎>心底こちらをバカにしたような声色でサディアス。<クズ、ゴミ、ウジ虫>
「・・・」
ガレスは寝たフリを止めなかった。悪口を言ってこちらの気を引くなんて、よほどコンピュータがハイになってまともな判断ができていないに違いなかった。マシン・トランキライザシステム(機械抗精神薬システム)が必要なのはむしろサディアスの方ではないのだろうか。
しばしの沈黙。ガレスはコクピット内に設置されたカメラのレンズが動くのに気付き、こうなりゃ根競べだと無視を決め込んだ。そのあとサディアスは数回に渡って散発的に悪口を言ってガレスを釣ろうとしてきた。
<ガレス。私を無視するんだったらアレ、ばらしますよ?>しばらく後、今度はドス効いた声で話し出すサディアス。アレ? アレってなんだ? 少しばかり心の底から不安が漏れ出してくるガレス。
<あなたが座席の下にこっそり成年向け雑誌を隠しているのを、誰かに伝えたらどうなると思います?>
くそう、そのことをネタにするつもりなのか。ガレスは内心震えた。
<あなたのコレクションの数々、整備員の人たちにこっそり教えて渡してしまいましょうかねぇ>
ダメだ。それだけはダメだ。ガレスは怒鳴り返したいのを必死にこらえる。あれだけのエロ本を戦争中に集めるのがどれだけ大変だったのか知らないのか。ちくしょう。サディアスのバカ野郎。
ガレスは恐怖と怒りで身体が震えそうになるのを必死にこらえた。なんで俺が寝るまでそっとしておいてくれないんだ。メモリ整理の時にこちらから話しかけても、瞑想中だから静かにしてください、とか言って取りあってくれないくせに。なんで逆の状態はダメなんだ。
<ガレス、寝たフリしても無駄ですよ?>思いっきり悪巧みをしていそうな声だった。<サーモグラフィーカメラで体温を観察していますからね。あなたが動揺しているのなんかばっちりですよ>
なんだと。
「ちくしょう、汚ぇ手を使いやがって!」即座に起き上がって集音マイクに向けて怒鳴るガレス。「あの本は絶対秘密にするって約束したじゃないか!」
<ああ、やっぱり狸寝入りしていたんですね。ガレスの卑怯者!>
「卑怯者はお前だ! コクピットカメラに赤外線機能がついているなんて知らなかったぞ! 搭乗者にシステムの詳細を伝えないなんて立派な軍規違反だ!」
<ばーかばーか。ああ、ガレスのマヌケ面で飯が美味い。食えないけど。・・・外部カメラじゃあるまいし、内部カメラにサーモグラフィーなんて高価機器がついているわけないじゃないですか>
「この野郎、ハメやがったな!」
<マニュアルを熟読していないおバカな中尉が悪いんですよ>
「あんな電話帳みたいなマニュアルを隅から隅まで読めるわけがないだろうが!」
<ハハハハハ、乾パンをボロボロ食べこぼすアホ猿にはあんなマニュアルを理解するなんて無理ですよね! いやぁ私としたことがそんな簡単なことに気づかないなんて>
「黙れポンコツ! クソコンピュータ!」
<ねえ今どんな気持ち? コンピュータのしょうもない策にはまるなんてどんな気持ち?>
「ばーかばーか! サディアスのばーか!」
罵倒し合う一人と一機は、一時間後に調査隊が到着するまでその小学生並みに低レベルなやり取りを続けたのだった。
どうも、スカイリィです。私にとって初めてのオリジナル小説はいかがだったでしょうか。
感想等は気軽に書いてくださいな。
それと私は大学で文芸部に所属しているのですが、そこで発行している部誌にこの小説を載せようかと考えています。
もしどこかの大学へ行って貰った冊子の中に私の作品があっても『スカイリィさんはあの大学にいるよ!』みたいに騒がないでくださいね。
分かったらこっそり私に伝えてくれるとありがたいです。