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サラリーザムライ

作者: 化粧水

一人の男がいた。

彼の名はサラリーザムライ。

通称、サムライ。

彼の使命は悪を斬ること。

今日も彼は、ひとり孤独に悪を斬る。


寒い…、と古井戸優也は思った。

東北生まれの東北育ち。

――しかし、寒さは苦手だ。

古井戸は、帰郷した。

師走も終わりのことである。

小さなバス停の待合室には古井戸の他に一人の男が座っていた。

彼も帰郷するサラリーマンであろうか。

スーツをきちんと着こんでいる。

しかし、彼は長い髪を後ろで束ねている。

こんな髪型のサラリーマンを古井戸は見たことが無かった。

時代も変わったのだろう。彼も若いし。

そう思うことにした。

長髪サラリーマンは、古井戸を見てにこりと笑った。

「サラリーザムライ、でござる」

「え?サラリー、侍…」

「サムライ、とお呼び下されい」

古井戸は、びっくりした。

サラリー侍という世直し(かどうかは知らんが)集団が存在することは聞いていた。

まさかお目にかかれるとは…。

「今から、どちらへ…?」

古井戸はおそるおそる尋ねた。

サムライは侍らしい目つきで古井戸をきっと見据え、言った。

「悪を斬りに行くのでござる」

「やはり、悪を…」

サムライは、ニヤリと笑う。

「ご不満かな?」

「え…」

サムライは古井戸の心を見透かしているかのようにクックッと笑って続けた。

「顔に書いてあるでござろう」

古井戸は、そんなに感情が表に出るほうではないのだが。

「さて」

サムライは立ち上がった。

「御仁も、一緒に参られますかな?悪とはどういうものか見ておくのもよろしかろう」

外は少し吹雪いていた。

日は、暮れようとしていた。


深い山中である。

ザク、ザク、と雪を踏みしめる音だけが続く。静寂と漆黒。

前方を行くはサラリーザムライ。

古井戸は、その後ろに続く。

「古井戸殿は、悪を斬るということが信じられないようでござるな」

古井戸はしばらく考えてから言った。

「サムライさん、私はこの世に本当の悪人なんて存在しないと思っています。大体、悪とは何なのですか」

「さあて。良くない、正しくない、ことでござるかな」

「何を基準にそのような事を決めているのですか」

「法律、人間の良心、こんな答えでは不服ですかな?」

「…」

洞窟が見えてきた。

この穴の中に、本当の悪が存在するのだろうか。

サムライは穴の中に入っていった。

細長く、暗い道をしばらく進むと少し広い空間があった。

「祭壇…ですか」

古井戸は戦慄した。

朽ち果てた祭壇の後ろに、少年が貼り付けられていた。

虚ろな瞳。

「なんということを…」

祭壇に駆け寄ろうとした古井戸を、サムライが押さえた。

「駄目だ」

「なぜ」

二人はきつく睨み合った。

サムライは日本刀を取り出し、貼り付け少年に向かって構えた。

「斬る」

古井戸は強い怒りを覚えた。

「まだ子供ではないですか」

「人間にとって脅威となるものが悪だというのなら、その者は悪そのものでござるぞ」

「何を訳の分からん事を…。罪を犯したのなら償えば良いでしょう」

サムライは、フム、と頷いた。

「人でないものを、人が裁くかね?」

「え…」

「あれは、悪魔だ」

刃が少年に向けられる。

悪魔。

古井戸は急いで理性を取り戻した。

「悪魔だからといって殺すことは…。私の中にだって、悪はあります」

サムライはふっと笑った。

「古井戸殿の中には善の心だってあるではござらぬか」

古井戸はうろたえた。

「悪魔に良心が無いというのなら、教えればいいじゃないですか。善い心がないというのならそれを植え付ければいいじゃないですか」

サムライは目を細めて古井戸を見た。

「悪魔に善を教える、と。その覚悟はおありかな、古井戸殿」

古井戸は小さくうなずく。

「古井戸殿なら、できるやもしれませぬな。よし、あなたをあの少年悪魔ルシフェルの宿主にするとしよう」

サムライは何ごとか呪文をとなえ始めた。

そして、悪魔ルシフェルと古井戸優也は融合した。

この(のち)、古井戸は悪魔と生活を共にすることになるのだが…。

さてさて、どうなることやら――。




古井戸課長と山野君シリーズ4作目。

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