この青空のように腐りきった世界。
死を憎むべきものだと言い切る。
そんなことをする前に一読してほしいものですな。
なんちゃって
少年が愛したのは手の届かぬ相手であった。
それは、彼が薄汚い乞食で相手が高貴なお嬢様であったからではない。
彼が非情な現実主義者で相手が小説の美しいヒロインだったからではない。
彼が刑務所にいる殺人鬼で相手が潔白な社会人だったからではない。
彼はいつも6時には起き、朝食を取り、8時にはいつもの仕事を始める。9時には家に帰り夕食を取って寝る。
休日には部屋を片付けたり、旅行をしたり、本を読んだりする。
最近はある人を思うだけで何時間もなにもせずにいられる。
彼女はとても美しく、いままで多くの男がその手に入れようとしてきた。
そして、彼は結局、その中では一番彼女に陶酔していた。
彼は他の誰にも負けないほど彼女に惚れていた。
彼はおよそ考えうる最も情熱的な方法で愛を伝えていた。
彼女はいつも病室で目を覚ます。ついこの前交通事故にあったからだ。それまでは花屋でバイトをしていた。
休日には模様替えをしたり、遠出をしたり、小説を読んでいた。
最近は小説を読むくらいしか出来ないのをとても悲しんでいた。
彼は彼女を愛していたが。
彼女は彼を憎んでいた。
彼は愛する以外に無いもしなかったが。
すべての人々が彼を憎んでいた。
彼は無垢に無知にただ愛することだけをしていたが。
すべての人間たちがそれを逃れようとしていた。
彼は生まれてから多くの人を心の底からから愛していたが。
多くの知的生物がそれを逃れるべく躍起になっていた。
彼は愛する人々がなぜかすぐに死んでしまうのかを考え続けていたが。
世界中のすべての生き物達がその理由を知って生きていた。
彼の名は――。
死神はいつまでも、純粋に人を愛し続ける。
それが相手を殺してしまうとも知らずに。
死神はいつまでも、永久の時を生き続ける。
いつも愛する人との死別を悲しみながら。
彼の名は――。
愛する人は、皆死んでいった。
死や死神を悪だと言い切るのは、我々人間には些か身勝手なのかもしれません。