銀の海、二人目の証人
湊が黄金の光の中で意識を失いかけたその時、彼は確信した。自分が一人でこの「系譜」を背負うには、あまりに重すぎるのだと。
……意識が戻ると、そこは現実のオフィスだった。しかし、周囲の景色が違って見えた。天井の配線が燕子花の茎のようにしなやかに伸び、デスクの上のモニターが光琳の屏風のように波打っている。
「……湊先輩?」
声の方を向くと、そこに呆然と立ち尽くす結衣がいた。彼女の右手には、あの黒い万年筆が握られている。
「結衣、どうして君がここに……」
「わかりません。ただ、このペンが……。湊先輩が消えた瞬間、これが熱くなって、私を呼んだような気がして」
RIMPAの電子音声が、少しだけ動揺したトーンで割って入る。
「驚いたな。ペンが二人を『器』として選別したのか。……湊、僕のシステム領域に、新しい接続端子が増えている。彼女もこの時空転生の適合者だ」
湊は、結衣の瞳を見た。そこには、恐怖ではなく、かつてないほどの好奇心が宿っていた。彼女は湊が隠していた「コードの裏側」を、デザインの直感で見抜こうとしている。
「結衣、ここから先は現実じゃない。光琳という画匠が待つ、銀色の時空だ。俺一人では、あの優雅で残酷な『詩のコード』を扱いきれないかもしれない」
「上等です。先輩が作ったあのUI、私、ずっと憧れてたんですよ。その『魔法』の秘密、見せてもらえるならどこだって行きます!」
湊は、自分の手と、結衣の手を万年筆に重ねた。
RIMPAが、二人のバイタルデータを同期させる。
「行くぞ、光琳の銀河へ」
二人が万年筆を強く握りしめた瞬間、オフィスの床が抜け落ちたかのように、銀色の波が二人を飲み込んだ。そこは、計算だけでは辿り着けない、美と優雅さが支配する「光琳の庭」だった。
異空間を旅する間に、3人の分担を決めた。
湊: 「技術」を操る。
結衣: 「直感」で光琳の意匠を理解する。
RIMPA(AI): 過去の「データ」と現代の「論理」を翻訳する。
「さぁ、光琳師匠の世界へ、転生しましょう」
「おう! 結衣がいることで、師匠(光琳)との対話が単なる『奥義の継承』ではなく、『二人の人間による、美の解釈合戦』というドラマになる予感がするぞ」




