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朝の儀式と、孫の恐怖

隣の洗面所から、勢いよくお湯が流れる音が聞こえてくる。高校生の孫、れんが「朝シャワー」を浴びているのだ。


志村がキッチンでトーストを焼いていると、髪を完璧にセットした蓮が、制服の襟元を気にしながら入ってきた。その体からは、人工的なシトラスの香料が、暴力的なまでに漂っている。


「蓮、昨日の夜も入っていただろう。そんなに洗ったら皮脂がなくなっちまうぞ」


志村が冗談めかして言うと、蓮の手がピタリと止まった。その目は笑っていない。


「じいちゃん、そんなの無理だよ。もし学校で少しでも『匂う』って思われたら、それだけで終わりなんだ。SNSに書かれるんだよ。『あいつ、今日、風呂入ってないだろ』って。それは、この教室で人間じゃなくなるってことなんだよ」


蓮の声は震えていた。


志村は、トーストを噛みしめる。


今の教育は、清潔さを教える代わりに、**「清潔でない者への軽蔑」**を植え付けているのではないか。



それは、震災が起き、ライフラインが止まった瞬間に、孫のような若者たちが真っ先に「人間としての尊厳」を失って崩壊してしまうことを意味しているのではないか。


志村は、自分のカサついた、少し土の匂いのする手を見つめた。

この手は、昭和の不便な時代を生き抜き、泥にまみれて働いてきた手だ。今の清潔な世界では、この手さえも「異常」のカテゴリーに分類されてしまうのだろうか。






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