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4話 俺の無双、もう終わり?

カップ麺を握りしめたまま、カイトは森の中で立ち尽くしていた。


……お湯が、ない。


いくらスキルで麺を無限に生成できても、火も水もなければ、それはただの「乾燥した小麦粉の塊」だ。


空腹という名の現実が、容赦なくカイトの胃を締め上げる。


「……つけ……ついてくれよ……っ!」



数時間後。


カイトは川べりで、拾った石を必死に打ち合わせていた。


サバイバル知識ゼロの現代人にとって、火おこしは魔王討伐より過酷な試練だった。


手の皮が剥けそうになりながらも、ようやく火花が枯れ草に燃え移る。


小さな火が灯った瞬間、カイトは思わずその場に座り込んだ。


拾ったボロ鍋で川の水を汲み、火にかける。

湯が沸くまでの時間が、やけに長く感じられた。


「……やっとだ。プレーン醤油だけど、今はこれが聖杯に見えるぜ……」


震える手で蓋を開けると、香ばしい醤油とジャンクな香辛料の匂いが立ち上る。


原始的な森の空気に、その文明の香りが溶け込んでいく。


それだけで、死ぬほど心細かった心に、わずかな安らぎが灯った。


――だが。

その「文明の匂い」に引き寄せられたのは、人間だけではなかった。


ガサガサッ!!


「……っ!?」


茂みから飛び出してきたのは、三匹の野犬ワイルド・ドッグ。剥き出しの牙から涎を垂らし、その飢えた視線は、カイト本人ではなく、手にしたカップ麺に注がれていた。


「来るな! これは俺の……俺の最後の……いや、最初の晩餐なんだよ!」


反射的に、足元に落ちていた木の棒を掴み、振り回す。


(あれ……? 思ったより、動ける?)

必死に振った棒が、野犬の鼻先をかすめる。

キャン、と悲鳴が上がった。


死神に設定された「ゴミカス」ステータスだが、火事場の馬鹿力を出した現代人なら、この世界の雑魚モンスター相手には、どうにかなるらしい。


「いけるか? 俺、もしかして実は無双できるタイプ――」


そう思った、次の瞬間。


森の奥から、空気を震わせるような重低音の咆哮が轟いた。


グオオオオオッ!!


野犬たちが悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。


代わりに現れたのは、全身から禍々しい赤いオーラを放つ巨体――

『紅き魔狼クリムゾン・ウルフ』。


「…………嘘だろ」


一目で分かった。


あれは、木の棒を振り回すだけの元SEが挑んでいい相手じゃない。


逃げようとするが、恐怖で膝が笑い、一歩も動けない。


魔狼が大きく口を開け、カイトの喉笛を狙って跳びかかった――その瞬間。


「――『刻の断絶タイム・スキップ』!!」


鋭い声と同時に、世界から音が消えた。

視界の端を、何かが高速で通り過ぎる。


ドシュッ!!


魔狼の巨体が、目に見えない壁に叩きつけられたかのように、不自然な軌道で弾き飛ばされた。


舞い上がる砂埃の中。

そこに立っていたのは、一人の少女だった。


使い古されながらも手入れの行き届いた杖。

銀色の髪をなびかせ、鋭い眼光で魔狼を睨みつけている。


少女はゆっくりと振り返り、腰を抜かしているカイトを見下ろした。


「……お怪我はありませんか、旅の方?」

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