3話 チートスキルが思ってたのと違う
「死神なんて、どいつもこいつも性格悪いな! もういい、さっさと転生させろ!」
「はいはい、わかったわよ。じゃあ、やり残したことが存分にできる世界へ、いってらっしゃーい!」
死神の不敵な笑みを最後に、カイトの意識は再びホワイトアウトした。
*
次に目を覚ました時、カイトは見渡す限りの深い森の中に立っていた。高くそびえる木々。湿った土の匂い。鳥の鳴き声。どうやら夢ではないらしい。
「……生きてる、のか?」
いや、一度死んだのだから、正確には「第二の人生」か。
『転生おめでとう! チュートリアルまでは付き合ってあげるわよ』
姿は見えないが、聞き覚えのある声が頭の中に直接響いた。どうやら、いわゆる“脳内ボイス”というやつらしい。
「……ここが、異世界か」
『そうよ。さ、早くステータス確認しなさい。私の仕事、これ終わったらおしまいなんだから』
相変わらず、せっかちである。「ステータス」念じると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
「なになに……筋力、体力、魔力……」
一つずつ目で追い、カイトは思わず声を荒げた。
「うわ、低っ! ゴミカスじゃねーか!」
全項目が軒並み最低水準。比較対象はいないが、一目でわかる弱さだ。異世界転生のお約束であるチートステータスは、どこにも見当たらない。
『文句言わないの。でもスキル欄を見てみなさい。私からの特大オマケ、最高に凄いわよ!』
その言葉に、わずかな期待を抱きながらスキル欄を確認する。
《固有スキル:在庫補充》
【効果:所持している『カップ麺』が無限に補充される】
《持ち物:カップ麺(種類不問・思い描いたものを生成可能)》
「…………は?」
一拍遅れて、絶叫が森に響いた。
「なんだこれ、いらねーよ!!」
『ええっ!? 何がいらないのよ! アンタ、死ぬ直前までこの「カップの麺」のことばっかり考えてたじゃない! 魂の叫びを聞いてあげたのよ!』
「違う! 俺がやり残したって言ったのは、もっとピンクで柔らかくて、かわいい女の子とのイチャイチャだよ!!」
『……ハッ、何言ってんの。あんた、滑って宙を舞ってる間、「あ、海老味噌……」って確信してたわよ? 私、この耳で聞いたんだから』
「それは……ッ!」
図星だった。
「たしかに一瞬よぎったよ!? 最後に海老の匂い嗅いじゃったし、せっかくお湯入れたのにって思ったよ! でもそれはそれ、これはこれだろ! 死神ならもっと魂の本質を汲み取れよ!」
『本質も何も、食い意地が煩悩を上回ってたんだから仕方ないでしょ』
死神は呆れたように続ける。
『あーあ、せっかくコンテストの賞金、全部これにぶっこんであげたのに。じゃあね、二度と会わないわよ!』
「おい、待て!」
返事はない。
声も気配も消え、森は元の静けさを取り戻した。
*
「……はぁ」
深くため息をついた瞬間、腹が情けなく鳴った。
「ダメだ、腹が減って力が出ない……」
どうやら空腹感までしっかり引き継いでいるらしい。皮肉にもほどがある。
カイトは観念し、スキルを試すことにした。
(……どうせなら、あの海老味噌を……)
そう念じた瞬間、ポン、と手の中に現れたのは――。
「……プレーンの醤油味じゃねーか!!」
期間限定でもなければ、特濃でもない。どこでも買える、ド定番の醤油味。
どうやらカイトの潜在意識は、死神への反発か、過労による味覚の鈍化か、一番刺激の少ない「いつもの味」を選び取ってしまったらしい。
「なんだよ……あんなに海老海老思ってたのに、俺の魂の答えはこれかよ……」
そして、もうひとつの致命的な問題に気付く。
……お湯が。
……お湯が、ない!!
カップ麺を握りしめたまま、カイトは森の中で立ち尽くした。




