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3話 チートスキルが思ってたのと違う

「死神なんて、どいつもこいつも性格悪いな! もういい、さっさと転生させろ!」


「はいはい、わかったわよ。じゃあ、やり残したことが存分にできる世界へ、いってらっしゃーい!」


死神の不敵な笑みを最後に、カイトの意識は再びホワイトアウトした。



次に目を覚ました時、カイトは見渡す限りの深い森の中に立っていた。高くそびえる木々。湿った土の匂い。鳥の鳴き声。どうやら夢ではないらしい。


「……生きてる、のか?」


いや、一度死んだのだから、正確には「第二の人生」か。


『転生おめでとう! チュートリアルまでは付き合ってあげるわよ』


姿は見えないが、聞き覚えのある声が頭の中に直接響いた。どうやら、いわゆる“脳内ボイス”というやつらしい。


「……ここが、異世界か」


『そうよ。さ、早くステータス確認しなさい。私の仕事、これ終わったらおしまいなんだから』 


相変わらず、せっかちである。「ステータス」念じると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


「なになに……筋力、体力、魔力……」

一つずつ目で追い、カイトは思わず声を荒げた。


「うわ、低っ! ゴミカスじゃねーか!」


全項目が軒並み最低水準。比較対象はいないが、一目でわかる弱さだ。異世界転生のお約束であるチートステータスは、どこにも見当たらない。


『文句言わないの。でもスキル欄を見てみなさい。私からの特大オマケ、最高に凄いわよ!』


その言葉に、わずかな期待を抱きながらスキル欄を確認する。


《固有スキル:在庫補充インベントリ・リフィル


【効果:所持している『カップ麺』が無限に補充される】


《持ち物:カップ麺(種類不問・思い描いたものを生成可能)》


「…………は?」


一拍遅れて、絶叫が森に響いた。


「なんだこれ、いらねーよ!!」


『ええっ!? 何がいらないのよ! アンタ、死ぬ直前までこの「カップの麺」のことばっかり考えてたじゃない! 魂の叫びを聞いてあげたのよ!』


「違う! 俺がやり残したって言ったのは、もっとピンクで柔らかくて、かわいい女の子とのイチャイチャだよ!!」


『……ハッ、何言ってんの。あんた、滑って宙を舞ってる間、「あ、海老味噌……」って確信してたわよ? 私、この耳で聞いたんだから』


「それは……ッ!」


図星だった。


「たしかに一瞬よぎったよ!? 最後に海老の匂い嗅いじゃったし、せっかくお湯入れたのにって思ったよ! でもそれはそれ、これはこれだろ! 死神ならもっと魂の本質を汲み取れよ!」


『本質も何も、食い意地が煩悩を上回ってたんだから仕方ないでしょ』


死神は呆れたように続ける。


『あーあ、せっかくコンテストの賞金、全部これにぶっこんであげたのに。じゃあね、二度と会わないわよ!』


「おい、待て!」


返事はない。


声も気配も消え、森は元の静けさを取り戻した。



「……はぁ」


深くため息をついた瞬間、腹が情けなく鳴った。


「ダメだ、腹が減って力が出ない……」


どうやら空腹感までしっかり引き継いでいるらしい。皮肉にもほどがある。


カイトは観念し、スキルを試すことにした。


(……どうせなら、あの海老味噌を……)

そう念じた瞬間、ポン、と手の中に現れたのは――。


「……プレーンの醤油味じゃねーか!!」


期間限定でもなければ、特濃でもない。どこでも買える、ド定番の醤油味。


どうやらカイトの潜在意識は、死神への反発か、過労による味覚の鈍化か、一番刺激の少ない「いつもの味」を選び取ってしまったらしい。 


「なんだよ……あんなに海老海老思ってたのに、俺の魂の答えはこれかよ……」


そして、もうひとつの致命的な問題に気付く。


……お湯が。

……お湯が、ない!!

カップ麺を握りしめたまま、カイトは森の中で立ち尽くした。

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