2話 死神は優しくない
「そんな……。まだやり残したことが……山ほどあったのに……ッ!」
カイトは叫んだ。
脳裏を駆け巡るのは、一度もデートすることなく終わった青春。
画面の向こうにしか存在しない“嫁”。
そして、いつか現実で彼女を作ってイチャイチャするという、あまりにも儚い野望。
走馬灯にしては、あまりにも情けない内容だった。
だが、それを聞いた死神は、フンと鼻を鳴らす。
「やり残したこと? ああ、下らない」
ゴスロリ風の女――生意気そうな死神は、呆れたように腕を組んだ。
「生前の記録、全部見たけどさ。あんた、本当にそういうの好きね。死ぬ直前まで、その手のことばっかり考えてたもの」
「うるさいな! 人の最期のプライバシーを覗くなよ!」
「死神にプライバシーもクソもないわ」
即答だった。
今までの超展開に感覚が麻痺していたが、カイトはようやく、ごく当たり前の疑問を口にする。
「そもそも、なんで俺なんだよ!」
死神は「はいはい」とでも言うように、空間から一枚の書類を取り出した。
それはリストのようで、中央にははっきりと《佐藤カイト》の名前が書かれている。
「何のリストだよ、それ」
「もうすぐ死ぬ人のリスト」
さらっと、とんでもないことを言いやがった。
「死神は、人間がいつ死ぬかを把握できるの。その死因を見て、できるだけ楽に死なせてあげる。それが私たちの仕事」
「……じゃあ、俺は?」
「本来なら、明後日の深夜。過労による衰弱で、身体中の穴という穴から血を噴き出して死ぬ予定だったわ」
「そんな死に方なの!?」
驚きはしたが、同時に妙な納得もあった。
最近、明らかに体調はおかしかった。
病院に行く余裕もなく、無理を重ね続けた結果だと言われれば、確かにそうだと思える。
「だから感謝しなさい。今の死に方なら、痛みもほとんどなかったはずよ」
「……たしかに」
死神という存在は、もっと冷酷なものだと思っていた。だがこの女は、口は悪いが、仕事はきちんとこなしているらしい。
「血を噴き出して惨めに死ぬよりは……まあ……」
そう呟いたところで、カイトの中に、ひとつの違和感が浮かび上がった。
――あれ?
「惨め」という言葉に、引っかかる。
俺は、どうやって死んだ?
風呂場で転んで、カップ麺のお湯を忘れて――つまり――
「ひとつ聞いていいか?」
「ええ、何?」
「俺、死んだ時……どんな格好してた?」
次の瞬間、死神は腹を抱えて笑い出した。
「っ、あははは! ちょっと待って! それ聞く!?」
「なんで笑うんだよ!」
「だって、あんたの死に様、情けなさランキングで金賞よ!」
「意味が分からないんだけど!?」
「今、死神界隈で流行ってるのよ。“楽でウケる殺し方選手権”」
そして、すっぽんぽんで滑って転んだ俺の死に様は、審査員満場一致だったそうだ。おかげで今の状態を引き継いで異世界転生が出来るらしい。
「死神、意外と優しいと思った俺が馬鹿だった……」
「失礼ね。ちゃんと苦しませなかったでしょ?」
「そういう問題じゃねぇよ……!」
カイトは、深く、深くため息をついた。
こいつは優しい死神なんかじゃない。
ーーおっぱいが大きいだけの、性格の悪い死神だ。




