表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

1話 カップ麺で死にました。

「……あー、終わった。やっと終わった……」


佐藤カイトは、ゾンビのような足取りでワンルームの自室に辿り着いた。


一週間連続の徹夜。


SEという職業を選んだ過去の自分を、今すぐ往復ビンタしてやりたい。だが、その拳を振り上げる筋力すら、もう残っていなかった。


カバンを放り出し、真っ先に手が伸びたのは、キッチンに積まれた『期間限定・特濃海老出汁味噌ヌードル』だ。


別に、海老が死ぬほど好きなわけじゃない。正直に言えば、先週も食べた。


それでも「期間限定」という言葉を免罪符にしなければ、明日もまた不条理な会社に行くという現実に耐えられなかった。


ここで究極の選択を迫られる。

お湯を沸かすのが先か、服を脱ぐのが先か。


「……お湯だ。沸く時間をロスしたくない……」


朦朧とした意識のまま電気ポットのスイッチを入れ、その足で脱衣所へ向かう。


一日の疲労が染み付いたYシャツとズボンを脱ぎ捨て、洗濯機に放り込んだ。回すのは――明日でいい。


シャツとパンツ一丁という、誰にも見せられない姿で部屋に戻り、椅子にドサリと腰を下ろす。

お湯が沸くまで、ほんの数分。


「……俺、こんな生活でいいのかな」


塩分と炭水化物を啜るためだけに生き、彼女も出来ず、休日は泥のように眠って終わる。疲れ切った頭は、勝手にネガティブな方向へ沈んでいく。


――いや、考えるな。

とりあえず、シャワーだ。


浴室で泡を流しながら、嫌な予感だけが胸に残った。

仕事じゃない。もっと生活に近い、致命的な何かを忘れている感覚。

思い出そうとした、その瞬間だった。

(……カップ麺)

お湯を注いだことを、完全に忘れていた。


「しまっ――」


慌てて浴室を出ようと踏み出した足が、石鹸のぬめりに取られる。


次の瞬間、視界が鮮やかに反転した。

最後に強烈に鼻を突いたのは、脱衣所まで漂ってきた、カップ麺の香ばしい海老の香りだった。


「……あ、海老味噌……」


それが、カイトの今生最期の言葉となった。


 *


「大・成・功! いやー、完璧なスライディングだったわよ、カイト!」


目を覚ますと、一面の白。

目の前には、ゴスロリ風の服を着た、やたらと態度のデカい女が立っていた。


「……は? アンタ誰?」


「死神よ。アンタは石鹸で滑って後頭部を強打して、この世からログアウトしたの」


あまりの超展開に、カイトの思考が現実逃避を始める。


これは夢だ。明晰夢だ。死神の格好をした美少女が出てくる、都合のいい夢に違いない。


「……こうなったら好き放題してやる!」


「ちょっと! 今エッチなこと考えたでしょ! このケダモノ!」


死神が指先を向けた瞬間、カイトの身体が虚空で硬直した。


圧倒的な束縛感。

夢にしては、あまりにもリアルすぎる。


「……動けない。本当、なのか……? 俺、死んだのか?」


「そうよ。私の手によってね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ