1話 カップ麺で死にました。
「……あー、終わった。やっと終わった……」
佐藤カイトは、ゾンビのような足取りでワンルームの自室に辿り着いた。
一週間連続の徹夜。
SEという職業を選んだ過去の自分を、今すぐ往復ビンタしてやりたい。だが、その拳を振り上げる筋力すら、もう残っていなかった。
カバンを放り出し、真っ先に手が伸びたのは、キッチンに積まれた『期間限定・特濃海老出汁味噌ヌードル』だ。
別に、海老が死ぬほど好きなわけじゃない。正直に言えば、先週も食べた。
それでも「期間限定」という言葉を免罪符にしなければ、明日もまた不条理な会社に行くという現実に耐えられなかった。
ここで究極の選択を迫られる。
お湯を沸かすのが先か、服を脱ぐのが先か。
「……お湯だ。沸く時間をロスしたくない……」
朦朧とした意識のまま電気ポットのスイッチを入れ、その足で脱衣所へ向かう。
一日の疲労が染み付いたYシャツとズボンを脱ぎ捨て、洗濯機に放り込んだ。回すのは――明日でいい。
シャツとパンツ一丁という、誰にも見せられない姿で部屋に戻り、椅子にドサリと腰を下ろす。
お湯が沸くまで、ほんの数分。
「……俺、こんな生活でいいのかな」
塩分と炭水化物を啜るためだけに生き、彼女も出来ず、休日は泥のように眠って終わる。疲れ切った頭は、勝手にネガティブな方向へ沈んでいく。
――いや、考えるな。
とりあえず、シャワーだ。
浴室で泡を流しながら、嫌な予感だけが胸に残った。
仕事じゃない。もっと生活に近い、致命的な何かを忘れている感覚。
思い出そうとした、その瞬間だった。
(……カップ麺)
お湯を注いだことを、完全に忘れていた。
「しまっ――」
慌てて浴室を出ようと踏み出した足が、石鹸のぬめりに取られる。
次の瞬間、視界が鮮やかに反転した。
最後に強烈に鼻を突いたのは、脱衣所まで漂ってきた、カップ麺の香ばしい海老の香りだった。
「……あ、海老味噌……」
それが、カイトの今生最期の言葉となった。
*
「大・成・功! いやー、完璧なスライディングだったわよ、カイト!」
目を覚ますと、一面の白。
目の前には、ゴスロリ風の服を着た、やたらと態度のデカい女が立っていた。
「……は? アンタ誰?」
「死神よ。アンタは石鹸で滑って後頭部を強打して、この世からログアウトしたの」
あまりの超展開に、カイトの思考が現実逃避を始める。
これは夢だ。明晰夢だ。死神の格好をした美少女が出てくる、都合のいい夢に違いない。
「……こうなったら好き放題してやる!」
「ちょっと! 今エッチなこと考えたでしょ! このケダモノ!」
死神が指先を向けた瞬間、カイトの身体が虚空で硬直した。
圧倒的な束縛感。
夢にしては、あまりにもリアルすぎる。
「……動けない。本当、なのか……? 俺、死んだのか?」
「そうよ。私の手によってね!」




