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【超短編小説】頭狂童夢

掲載日:2025/12/21

 ここはどこだ?そこはどこだ?

 それに答えられる奴はどうかしている。おれがいる場所も、お前がいる場所も、疑えないくらいにピュアなら、好きにしたらいい。

 ここはおれの部屋か?

 鉄とコンクリートの子宮か?

 記憶の残骸か?

 それともおれの環世界?

 とにかくおれはそこから出ようとしていたし、だから電車に乗ったんだ。


 正気でいられる運が無かった。それは仕方ない。

 外は雨だ。雨が降っていようといまいと、俺の頭は狂っていく。そうやって狂ってきたし、これからも狂っていく。それが止まる事は無い。

 ここが四谷だろうと麻布だろうと三鷹だろうと八王子だろうと、おれの頭はずっと狂っているし、ずっと狂っていく。

 正しい曲がり角はどこかにあったんだろうか。今になって振り返っても、そんなものは見えやしない。


 窓の外を流れていく田園風景は繁殖そのものを意味している。

 あの稲穂、まるで夜空に散らばる星の数ほどの繁殖行為が行われてきた。だからおれもこうしてここにいる訳だ。繁殖の結果で、おれはその行き止まりだ。

 だから狂っているのか?

 繁殖と言う遠い夢、それはつまり憧憬と絶望がマーブル模様になった悪夢だ。

 おれは焦燥と疲弊を手慰みにして洗う。乾ききらない手がベトつく事にうんざりする。


 それは、白い、正気の、破片。


 つまりおれはその風景から、繁殖から取り残された反社会的存在だ。だから狂っていくのも仕方がない。

 おれは真っ黒い夜の海に向かって突堤を歩く胡乱な個体だ。

 歩きながら薄いゴムに包まれた繁殖を思い出しては、それが繁殖では無い事を笑い、その笑いを薄く引き伸ばす。

 おれは童貞じゃない。つまり神の子では無い。使えない中古品の存在だ。

 だが新品なんて言うのは病気じゃないし、天然記念物にも指定されないから政府は保護してくれない。


 窓から見えるランドの光は希望か。


 

 個室サウナの泡の中に置き忘れた悦びとか期待とかを思い出そうとしてもそれは無理な話だった。

 名前のない女の肌は、柔らかいが冷たく、どこまでも他人でしかない。

 仮初の恋人。

 即席の恋愛。

 回り続ける換気扇の音すら遠い。


「意地汚く3回も出そうとするよりマシだよ」

 タオルを巻いた女が慰めるように言う。

 その救いの瞬間に女はマリアたりえただろうか?

 人より少し恋愛の数が多いマリア、聖母、おれを赦す存在。

 だがその部屋はコンクリートの子宮で、その過去も頭蓋骨と脳味噌の子宮で、おれが乗っているのは鉄と電気の子宮で、おれは、流れて、いく。


 ニューロンと捜査線、またはNTSCフリッカーの差異が曖昧になっていく。

 おれが見た景色に実体があるのか、それとも画面の向こうにあったのか。インスタントマリアがいた部屋におれも存在していたのか、それとも画面に見たのか。

 おれのセックスは他の男のセックスだった時、YouTuberやVtuberがしているセックスは誰のものだったのか、代理店崩れのコンサルとしているセックスも含まれるか?

 地下アイドルもそうだ。

 どうせ既に他の男に抱かれた女だ。名前のない女と同じだ。名前の無いマリア。顔のないマリア。


「そんな奴らを応援なんかしてたまるか」

「だからおまえは狂っているんだよ」

「そんな奴を応援する訳がない」

 ボックス席でひとり呟くおれの周りには誰もいないのでそこはおれの小さな部屋となりおれのタウ=ゼロは加速していく。



 娼婦、淫売、河原乞食。

 対するおれは賃労働と情報の奴隷、資本主義の走狗、現代社会の成れの果て。

 だけどあいつらはおれいなけりゃ立って歩く事もできないくせに、どいつもこいつもおれを馬鹿にしやがる。おれを置いていきやがる。

 おれは、そうだ、窓の外を流れていくのは景色じゃない、おれが遠ざかっていってるだけだ。おれがタウ=ゼロの速度でおれがセックスから遠ざかっていく。


 おれは勃起すらできない。

 薄汚れた年増のマリアが微笑む。

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