8. スマホ『だけ』障害
猛暑日が各地で観測されている八月、日本中が混乱した。それは...。
「あれ、スマホが使えない...」
仕事用として使っているスマホのロックが解除できなかった。なんで…?
私のスマホだけなのか、それとも周りでも起きているのか。確かめるためにテレビをつけた。
『今朝からお伝えしているように、今日午前五時からスマートフォンが使えなくなっています』
私だけじゃなかった。
『ただ、[スマートフォン]だけが使えなくなっていて、パソコンやタブレットは動くようです』
アナウンサーは深刻な表情で情報を語り続けていた。
「…もってて良かった、タブレットとガラケー」
私は家で使うためにタブレットを持っている。ちゃんとデータは同期済みで、スマホとして使える。
一方のガラケーは、学生時代にそれで連絡先を交換して今も連絡を取り合っている。といっても頻度は少ないけど。
タブレットを充電コードから抜こうとしたとき、急に電話がかかってきた。相手は…公衆電話?
「詐欺かもしれないけど…」
用心しながら電話に出た。
『もしもし、雫さん!?』
「わっ、北海さん?」
相手は大声で叫ぶ北海さんだった。
『良かったぁ…連絡取れなかったらどうしようかと…!』
北海さんのスマホも使えなくなっていて、こうやって公衆電話から電話をかけているらしい。
『あれ、でも雫さんってスマホだけのはず……まさかドッペルゲンガー!?』
普通はかけ間違いとかを先に思い浮かべないの…?
「ちゃんと本人ですよ。これタブレットなんです」
『家のタブレット...まさかあっち系の動画を』
「あっち系?」
『な、何でもないです!』
今日は収録の予定は入っていない日だ。運が良かったのかもしれない。
私はGRヤリスにも影響が出ていないか確認することにした。
結果、問題なく動いた。指紋認証もカーナビも大丈夫だった。
「何してるの?」
いつの間にか後ろに伊織ちゃんが立っていた。
「...ああ、カーナビの影響確認かい?」
「そ、そうだけど」
「ニュース見た?今のところスマホ『だけ』動かないんだよ」
今思い出してみれば、アナウンサーはそう言っていた気がする。
「えっとね...」
伊織ちゃんはポケットからスマホを取り出して操作し始めた...あれ?
「な、何で使えてるの!?」
「ん?ああこれ?プログラムをいじって使えるようにしたんだ。いやあ苦労したよ。プログラムの書き換えに三十分も費やしたし」
三十分で使えるようにするって、凄いことをあっさりやってのけたなぁ。
そのとき、伊織ちゃんのスマホに電話がかかってきた。
「もしもし、タカさん?...うん、発明家だから。...うん、いいよ。すぐ向かう」
数分で電話を切った伊織ちゃんは、家に戻ってヨタハチの鍵を持ってきた。
「ちょっと知り合いに呼ばれたから行ってくるね」
「あ、行ってらっしゃい...」
伊織ちゃんはヨタハチに乗り込んで、さっさと走っていった。
正午を過ぎた頃。朝よりも社会は回っているらしいけど、まだ人々は混乱していた。そういう時に起こりがちなのが『デマ』だ。
ネットの海を泳いでみると、情報が錯綜していることが分かった。
『ただの悪戯』
『日本を狙ったテロ』
『AIの暴走』
『戦争が開戦する合図』
どれも信頼性が乏しい。そう思ってネットを閉じようとしたとき、一気に投稿が増えた。
『なんか使えるようになった』
『結局原因ってなんやろね?』
『一気に戻ってくるおまえら大好き』
「えっ…?」
特番のアナウンサーも驚きの声を上げた。
『つ、使えるようになってます!』
「じ、じゃあ私のも…」
ロックの解除を試してみると、あっさりと開いた。アプリも問題なく立ち上がる。
「どうなってるの?」
そのとき、ヨタハチのエンジン音がした。伊織ちゃんなら何か知ってるかもしれない。
「え、私が?いやいやいや。何もしてないよ。やったのは友人だから」
混乱を解消させたのは伊織ちゃんの友人らしい。主に伊織ちゃんはサポートしていたのだとか。
「けど、よかったね。スマホ使えて」
「うん、これで北海さんも電話できるだろうし」
「あ、そうだ。『EFD』ってAIアプリ入ってる?」
「え、あるけど…?」
「じゃあ消しといて。今回の事件、それが原因だから」
それだけ言い残して、伊織ちゃんは家に入っていった。
……言われた通り、消しておこう。嘘には思えなかったし。
解決時の様子はまた別の機会に。
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