5. 盗難…?
「あれ...スマホがない!」
『SUPER GT』を観戦してから二日後、番組の収録前に北海さんが顔を真っ青にしていた。
「どこで落としたか、心当たりってありますか?」
「......ダッシュボード辺りかも」
「じゃあ取りに行きましょうか。あの車、私がいないと開かないんで」
「え、そうなんですか!?鍵さえあれば開くものだと...」
伊織ちゃんにつけてもらった、とは言えないかな。北海さんからすれば知らない人だし。
「まぁ、そこはちょいちょいと」
適当に誤魔化して駐車場に向かった。
「あれ、このあたりのはずなんだけどなぁ...」
センターコンソールやグローブボックスも探したけど、北海さんのスマホは見つからなかった。
プルルルル...プルルルル...
そんなとき、私のスマホに着信が来た。相手は今回の番組のスタッフだった。
『今どこですか?まもなく収録が始まりますよ?』
「あ、はい。分かりました。すぐに行きます」
収録時間が目前であることを北海さんに伝えると...。
「なら後は一人で探しますよ!」
とシートの下まで探している彼女から返事を受けた。
「本当に大丈夫ですか?」
「もうすぐで収録なんでしょう?遅れないでくださいよ!」
北海さんを心配していたものの、収録時間に遅れるのは良くないと思ったので、一人でエレベーターへ乗り込んだ。
今日の収録、何か違和感を感じた。
やたらと休憩を挟んだり、スタッフが通常の収録より少なかったり。
そして、スタジオから出ようとしても必死に呼び止めてくるスタッフたちを見て、確信してしまった。
『北海さんに何かあったんじゃないか』と。
「駐車場に行かせてください!」
大声でスタッフたちが怯んだ隙に、非常階段を駆け下りて駐車場へ向かった。
「北海さ〜ん!」
名前を呼びながらGRヤリスを停めた場所へ向かった。そこには...。
「北海...さん?」
ボンネットは開いていて、カバー類が見えていたけど、驚く点はそこではなかった。
エンジンにもたれかかるように、北海さんが倒れていた。
「いや〜、参ったな...」
車内から知らない男が出てきた。悪い夢なのか...?
気が付けばひたすらに、出口に向かって走っていた。
〜これはドッキリです〜
「ドッキリを仕掛けるんですか?」
雫さんがドッキリにかかる二日前、私はドッキリ番組のスタッフと打ち合わせをしていた。ちょうど今は雫さんはいないので、話し合うにはうってつけだった。
「『目の前で愛車が盗まれたら』というドッキリです。その反応をカメラに収めたくて」
「なぜ雫さんに?」
「演技派女優なら、良い反応してくれそうで...」
なるほど、そういう理由で抜擢されたか。
「いいんじゃないですか?仕掛けてみましょう」
ここから、ドッキリの具体的なに内容が決まっていった。
ドッキリの内容としてはこうだ。
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・私が忘れ物を取りに行くフリで車の鍵を預かる
↓
・鍵を開けてスタッフが中でスタンバイ
↓
・雫さんが駐車場にやってくる
↓
・突然、車が動き出して走り去る
↓
・反応を撮影する
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やっぱりシンプルが一番!これで具体的な内容が決まったし、あとはドッキリ当日まで待つのみ!
収録(偽)の少し前に、私はスマホがないと嘘をついた。本当はカバンの底に押し込んである。
しかしこの後、雫さんがとんでもないことを言った。
「あの車、私がいないと開かないんで」
その言葉を聞いた私はとても焦った。ついこの前まではそんなものついてなかったはず…!
「え、そうなんですか!?鍵さえあれば開くものだと...」
「まぁ、そこはちょちょいと」
で、でも。開錠できるのなら何も問題はない!計画は順調である。
偽スタッフに呼ばれて、雫さんが駐車場からいなくなった後。
「出本さん、オッケーですよ!」
念のために小声で、ロケバスの中で待機している出本さんに声をかけた。
彼はマニュアル車を十年以上運転しているドッキリ番組のスタッフだ。オートマ限定な私に、この車は動かせないからね。
「よ~し、まずはエンジンがかかるかどうか…」
出本さんはプッシュスタートボタンに触れたが…エンジンは始動しなかった。
「…あれ、なんでだ?」
何度も何度も押しても結果は同じだった。試しに私がボタンを押してもうんともすんとも言わなかった。
「仕方ない、トラブルシューティングをしていこう」
スタッフ総出で、配線系などを確認していった。
「な、なんだこの配線は…!」
出本さんが声を上げた。彼の視線の先にあるダッシュボードを見ると、赤や青、黄色などの色とりどりなコードが走っていた。
「こんなもの、GRヤリスにはないはず…」
「雫さんがいないと開錠できない理由ってもしかして…セキュリティがあるから?」
「その可能性が高いな…。これを外すには特殊な工具が必要だ。どうにかして別の方法を見つけないと」
そのとき、とあるスタッフのスマホが鳴った。
「はい、はい…。えっ!?も、もうすぐ雫さんが来るそうです!」
「ま、まずい!このままではお蔵入りに!」
そ、それはこっちとしても困るんですけどっ!?
「とりあえずお前らはロケバスの中に隠れてろ!こっちはギリギリまで粘ってみる!」
「「「「は、はいっ」」」」
そんなスタッフたちを横目に、私はエンジンルームを覗き込んでいた。
右手の懐中電灯によって、コードが複雑に走っているのが分かる。こんなものをいとも簡単に車に取り付けてしまう人は凄すぎる。しかもたった二日で…。
「あ、つった…………!」
腕がつってしまった。あまりの辛さに、その場から動けなくなった。現在、エンジンにもたれかかるような状態である。
「北海…さん?」
隣から、雫さんの声がした。その方向に向きたかったけど、今はそれどころじゃない…!
「いや〜、参ったな...」
出本さんが頭をかきながら、車内から出てきた。その瞬間、雫さんは身を翻して出口へ走っていった。
「し、雫さん…」
「こりゃ企画倒れだな…」
これが、事の顛末である。




