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2. 解説

 翌日の朝七時、テレビ局内にて。

「おはようございま~す…」

「あ、雫さん!おはようございます!」

 控室に入ると、パンツスーツ姿の北海(きたうみ)さんが既にいた。右手にスマホ、左手に書類という『何でもこなせる女性』という装いだった。

 北海さんとは長い付き合いだ。私が女優になった五年前くらいからである。

「雫さん、準備できてますか?いよいよ生放送に出演ですよ!」

「もちろんです。初めての生放送、失敗しないようにぐっすり眠ってきましたから」

 スタジオへ向かうために、局の廊下を歩く。時間に余裕はあるので焦らないように進んでいく。

「それにしても、出世しましたね!五年でここまで人気になるなんて!」

「私も少し驚いてますよ」

 人気になったきっかけは何なのだろうか。心当たりといえば、映画の撮影時にアドリブを入れてしまったことくらいでしかない。

「…さて、気持ちを切り替えてっと」

 考えているうちに、スタジオへ到着した。今からバラエティ番組の生放送に出演する。

 …大丈夫。いつも通り、自分らしさを出していこう。


「そういえば雫さん、新しく車を買ったんですって?」

 生放送の終盤、MCの椎名(しいな)さんから質問された。

「ええ。といっても、中古なんですけどね」

「その車、なんぼしたん?」

 横に立っていたコンビ芸人のつくねさんもこの話題に乗っかってきた。

「だいたい350万円です」

「中古車でその値段って…どんな車買うたん?」

「え、普通のコンパクトカーですよ?」

「あとで写真見してくれへん?こう見えてめっちゃ詳しいから(キリッ)」

「どや顔ウゼェ~」

 つくねさんの相方の唐鳥(からとり)さんがツッコミを入れて、スタジオが笑いに包まれた。

「いやいや、普通のコンパクトカーですから~!」


「全然普通ちゃう…」

 生放送後、私、北海さん、つくねさん、唐鳥さんの四人は、テレビ局の地下にある駐車場に来ていた。私の車を見たつくねさんが呟いたのがこの言葉だ。

「え、ただ『ヤリス』を3ドアにしたものじゃないんですか?」

「あんなぁ雫さん、共通のパーツはヘッドライトとテールライトくらいなんやで」

 その後もつくねさんは、車を全く知らない私でも分かりやすいように説明してくれた。

「ボンネット、開けさしてもらうなぁ」

 つくねさんが慣れた手つきでボンネットを上げる。

「まずエンジン。普通の車は100~150馬力なんやで。それで十分やねんけど、この『GRヤリス』は272馬力。倍以上のパワーを持ってるんや。名前は同じやけど、全くの別物ちゅうことなんやで」

 説明しながら、つくねさんはエンジンをポンポンと軽く叩いた。

 まさかここまですごい車だとは思っていなかった。

「後席は普通のヤリスのほうが広いんやけど…雫さんには関係あれへんことやろうな」

「つ、つくね。お前ってそんなに詳しかったのか?」

「せやで。全部、独学で学んでん。ほな次、『シャシー』に移ろか」

 つくねさんは運転席側のドアへ回った。そして全身を使って説明してくれた。

「フロントのシャシーは『ヤリス』のものをベースにしてる。そしてリアは『カローラ』由来のもの。それらを再設計したものをつこてるんやで。完全にキメラやな」

「雫さん、なんでこの車にしたんですか?」

「確かに、教えてくれへん?」

「まあ、俺も気になってはいる…」

 北海さんたちが一斉に私のほうを向いた。

「実はですね…」

 私は一週間前のディーラーでの出来事を話した。


「…こだわりのない雫さんだからこそ、そんな選択ができたんですよねぇ。私にはできませんよ」

「俺も無理やな」

「同感だ」

 途中から、話を聞いていたみんなは呆れていた。

「…そういや唐鳥、ぼちぼちヤバいんちゃう?」

「ん、何が?」

「電車」

「………やっべ」

「はあ……送ったる。ほな、雫さんまたな~」

 そういってつくねさんと唐鳥さんは、反対側に停めてあった青色のセダンに乗り込んだ。

「ちなみに、こら『アルテッツァ』って言うんや」

 そう言い残し、つくねさんのアルテッツァは地上へ出るスロープを駆け上がっていった。


 夜、自宅の敷地内で私はGRヤリスの前に立った。

「あなたがそんなに凄い車だったなんて知らなかったよ」

 GRヤリスは一定の回転数を保ったまま、私の話を聞いてくれた。

「正直、『FR』とか『四駆』とか、車について全然知らないんだ。あなたの前のオーナーさんは多分詳しかったんだろうけど、私はそうじゃない。それでも、私の『相棒』としていてくれるの?」

 返事なんて返ってこないことは分かっていた。でも、不思議と返してくれそうな気がした。

 すると、一瞬だけエンジンの回転数が上がったような気がした。それは『もちろん』と言っているように感じられた。

「……ありがとう。それじゃ、おやすみ」

 エンジンを止め、鍵をかけて家に入る。GRヤリスのエンジン音がしなくなったことで、住宅街は一気に静かになった。

 もうただの車じゃない。私の大切な相棒だ。

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