11. やっぱり四駆は最高よん
迎えた年末。
「久々ですねぇ、石川県に帰るのは」
助手席に座る北海さんが、景色を眺めながら呟いた。
私たちは今、GRヤリスに乗って高速道路を走っている。目的地は北海さんが言った通り石川県だ。
「私たちが出会った場所もあそこでしたね」
高校二年生の頃、北海さんは私のクラスに転校してきた。
『き、北海 新奈です。よろしくお願いします』
最初は馴染めていなかったけど、私が積極的に話しかけに行ったら、段々とクラスメイトと打ち解けていった。
……それ以来べったりとくっつかれたのだ。
「あのぎこちなさはどこへ行ったのやら…」
ふと隣を見ると、ドアにもたれかかった状態で北海さんは寝ていた。
「人の車で堂々と……仕事で疲れてるのかな」
そんなとき、一台のグレーの車が追い越していった。
あのデザイン……確か、『GRカローラ』だった気がする。
「あ、金沢ナンバー……」
ここでふと、この前に翫さんが言っていたことを思い出した。
『お姉ちゃんが[同名の車買った]って言ってきたんだけど、どこからどう見ても一緒には見えないよね』
そのメッセージに加えて、二枚の写真が送られてきた。
一枚目には翫さんが所有するカローラスポーツ、二枚目にはグレーのGRカローラがあった。素人の私でも分かる、全くの別物だ。
「もしかして……」
昼前のサービスエリアにて。
「あの…」
「ん?私に何か?」
勇気を出して、GRカローラの運転手の女性に声をかけた。
「……弟っていたりして」
「すご、なんで分かんの!?」
「こ、これってもしかして」
翫さんから送られた写真を見せると、その女性は目を丸くした。
「あ~!あなたが『かなで』の言ってた女優!?」
『かなで』という言葉が出てきたから確定だ。彼女こそ、翫さんのお姉さんなのだろう。
「そうです。豊沢雫といいます」
「私は『翫 白鷺』。あの頃から成長したね~!」
「あの時…?」
「あれ、高校の卒業式で会ったはずだけど」
……あ。
「もしかしてあのはっちゃけてた…」
卒業式のとき、翫さんにとにかく絡んでいた女性がいた。
『こんなのでも、僕のお姉ちゃんなんだよ。人が多いところだと他人のふりをするけど』
あの時のことをすっかり忘れていた。
「それで、どこ行くの?北陸?」
「石川へ向かってます。帰省…ですかね」
「じゃあ私と同じ!途中まで一緒に行こうよ!」
白鷺さんはそう提案してきた。
このGRカローラなら、見失うことはないだろう。
「分かりました。旅は人数が多いほどいいですからね」
「決まりっ!」
その後、北海さんを叩き起こして昼食をとった。
新潟県に入った途端に、雪が強くなった。それでも、GRカローラの存在感の方が強かった。
「あんな人、卒業式にいたかなぁ……?」
北海さんは覚えていないようで、先ほどのサービスエリアで白鷺さんに対して『初めまして』と言っていた。
思えば、高校で二人が話している場面を見たことがない。
『この先、通行止めです』
「えっ」
唐突にカーナビからそう告げられた。高速道路の案内板も通行止めを告げていた。
「そうみたいですね。ほら、左ウインカー出してますよ」
北海さんが指を指した先では、GRカローラが高速道路から降りていった。
「予定より時間はかかっちゃうけど、仕方ないかな」
あっ、チェーン忘れた…。
下道は地獄絵図だった。
「うわあ、至る所でスリップしてる……」
乗用車だろうとトラックだろうと関係なくスリップを起こしていた。
ちなみに、たとえ四駆であっても滑る。タイヤのグリップ力にかかってくるからだ。
「北海さん」
「はい?」
「チェーンないです」
「………」
北海さんの顔から表情が抜け落ちた。そんな反応になるよね。
そんなとき、タイヤが凍った路面を踏んでしまったようで、一時的にグリップ力が抜けた。
「やばっ」
「ギャ〜!人生終わる!」
北海さんは今まで聞いたことがなかった叫び声をあげた。
ここでふと、伊織ちゃんの言葉が蘇ってきた。
『四駆っていうのは、だいたい踏めば助かるケースが多いんだ。R35とかランエボ、WRXが例として挙げられるね。もちろんGRヤリスも例外じゃないよ』
踏めば、助かる。その言葉を信じてペダルを踏み込んだ。
ヴォヴォヴォヴォッッ!!
あっという間に元の姿勢に戻った。
「あ、あ、」
「大丈夫ですか?」
北海さんは自分の両肩を掴んでいた。
「悪い夢であってほしい......来なければよかった」
「もう帰れませんよ、ここまで来たので」
GRカローラとGRヤリスの(合法)ツインドリフトをしながら、確実に前へ進んでいった。
ちなみに、休憩で車を停めた時に白鷺さんにベタ褒めされた。




