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10. サス

 久々のバス出勤(...?)は少し辛かった。

 人が多すぎて何もできないのだ。動くスペースなんてないし、加減速の度に人波に押される。

『ヨタハチ、借りるべきだったな...』と、少しずつ後悔し始めていた。

 けれど、三日耐えてしまえばこっちのものだった。

 いよいよGRヤリスが帰ってくる!


 収録が終わった頃に、伊織ちゃんからメールがあった。

『調整が終わったけど、受け取りは明日の方がいい?』

 私はすかさず返信を返した。

『今から受け取りに行く!』


「お、雫ちゃ〜ん!今、収録終わったん?」

 テレビ局のメインホールから出ようとしたとき、面倒な人とエンカウントしてしまった。

「つ、つくねさん...」

「どないしたん?まるで苦虫を噛み潰したような表情しとるけど」

 それはあなたのせいですよ...!今からウッキウキでGRヤリスを迎えに行こうとしてたのに!

 とは、口が裂けても言えない。

「実は収録のときにミスしちゃって...」

 私は咄嗟に嘘をついた。

「そら気の毒に。せや、ドライブにでも行かん?気分転換には持ってこいやで」

「早く家に帰りたいです...」

「ほなら送ったる!最近はバスで通勤しとるみたいやし」

 つくねさんの提案は少しありがたかった。この時間帯も満員だろうし。

「なら、お言葉に甘えて」

「おう、任しとき!ほなら早速...」

 つくねさんはアルテッツァの鍵を取り出した。

「道案内してくれへん?」

 ...北海さんに頼めばよかった。


「こんな静かな場所に住んどるんやな」

 ハンドルを回しているつくねさんが呟いた。辺りにはアルテッツァのエンジン音が響いていた。

「なんぞ目印みたいなものはあるん?」

「目印...隣の家には赤いヨタハチがあります」

「赤い...ヨタハチ...あいつか?」

 あいつ?

「なら、もう道案内せんでええよ」

「分かるんですか?」

「ああ!」

 不安に思っている私を乗せて、アルテッツァは道を進んでいった。


「やっぱりや」

 私の家に着くなり、つくねさんがそう言った。

「やあやあ、待ってたよ」

 伊織ちゃんが駐車場でジャッキを上げていた。もちろん、GRヤリスを載せている。

「お、君はタカさんのところの...?」

「ジブンが、アラタカの言うとった『発明家』さんか」

「そうだよ。私は風原伊織。好きなように呼んで」

 私だけ置いていかれてるんですけど?

「えっと...?」

「あ、ごめんごめん」

 伊織ちゃんはジャッキを素早く下ろした。

「前よりも少し柔らかくしたから、乗り心地は良くなってるよ」

 サスペンションって『柔らかい』とか『硬い』で表現するんだ...。

「んじゃあ私はこの人と話があるんでね。何かあったら伝えて」

「うん、ありがとね。伊織ちゃん」

 私は早速、GRヤリスと共に首都高へ向かった。


 サスペンションの違いは継ぎ目で感じられた。

 前までは段差があると、縦揺れが収まるまで時間がかかった(それでも数秒程度)のに、伊織ちゃんの手が加えられた今は、まるで段差なんて無いようだ。

 これなら、さらに安心して命を預けられそう。

「年末は、久々に帰ってみようかな」

 そして翫くんにも会ってこようかな。

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