星々のたくらみ
―――――――――夜―――――――――
月明りの下、暗い海の上に突き出た小さな岩、涙落の岩。
その上で泣いている、ひとりの人魚。
空には、残りわずかになった星たち。
昔は、あんなにたくさんの星が輝いていたのに……。
その人魚の頬から、涙がキラリと一粒、流れて海へと落ちた。
それとともに、夜空から星がひとつ、スーッと尾を引いて流れて消えた。
……またひとつ、星が死んだのだ。
天上の星帝界から下界へ向けて、長老オリキスが弓を引いていた。
矢を放つと、それは真紅の光となって、岩場の人魚の胸を一発で貫いた。
人魚は、体をビクンとのけぞらせると、そのまま暗い海の中へ静かに沈んでいった。
「……仕留めたのか?」
年若くして星帝王の座に就いたライラオントが、オリキスの後ろから歩み寄ってきた。
「むろんじゃ、お主もそこで見ていたのじゃろう? 」
オリキスは声の方に振り向きもせず、悲し気に目を伏せた。
「ああ、確かに貴様の矢は、流星人魚の左胸を射抜いた」
ライラオントは足を進めてオリキスの横に並ぶと、下界の海へと目を向けた。
「さすがはオリキスだ、我々星の神々の中で、弓の名手として最高位の称号を得ているだけのことはある。……だが」
ライラオントは、オリキスの肩に手を置いた。
「星帝界一の弓の名手オリキスとて、寄る年波には勝てまい……」
冷笑を含みながら、ライラオントはその場を立ち去って行った。
オリキスは目を開けると、再び涙落の岩を見下ろした。
――死ぬでないぞ、サリア。お主はこの星にとって、最後の望みなのじゃからな――
心の中で祈ると、オリキスは弓を引いた。
矢をあてがわなくても、つると弓の間にすでに青白い光の筋が走っている。
――これからお主は、望む望まないにかかわらず、修羅の道を歩むことになる。そのときに、何かの役に立つかもしれん。わしからの贈り物だ、受け取るのじゃ――
オリキスは下界に向けて、青白い光の矢を放った。
その光は砂浜に突き刺さったまま、主を求めてその名を呼び続けるのだった。




