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四:歓喜の宴 ―前領主の妻と娘―

 そして俺は店に入っていく。そこには見慣れた顔がある。女将のイリスの姐さん、ホルデンズの親分さんの子分衆の兄さん方、人足の兄さんたちに、街の連中もちらほらいる。

 そのどの顔にも喜びが浮かび、憂いはみじんも残っていなかった。


「お? 来たぞ! 丈之助たちだ!」

「こっちだ!」

「遅えぞ!」


 あちこちから声がする。流れ者でよそ者だった俺を受け入れてくれた街の人々の声だ。俺はその声のありがたさを噛みしめながら返事をしながら駆け出した。


「お待たせしやした。今めぇりやす!」


 俺たちの到着を合図に宴は賑やかに今こそ始まったのだった。



§



 時の流れも忘れるような宴の中で俺は一生分のウサを晴らした。


 街の誰もが俺がこのままこの街にいるものだと信じているようだった。

 だがそれはできない。俺は、前の世界でやらかした過ちを今一度やってしまったのだから。

 俺は酒を酌み交わしながら心の中で別れを告げた。


 それから、いくつかの出来事が起きた。

 宴も半ばに差し掛かった頃に、店の前に馬車が止まりそこからホルデンスの旦那の声が聞こえてくる。その後ろをついてくるように現れたのは年の頃四十代の半ばくらい中年の美しい女性。その傍らには16か17くらいの年の頃の若い女性の声だ。


「今、連れて来たぞ」


 その声と共に現れたのは前のご領主であるヴァレンス公の奥さんと娘さんだった。ホルデンスの旦那が仕えていたかつての君主、ヴァレンス公――、謀略で殺され命を落とした後、領地はあのマルクスに簒奪された。そしてこのアルヴィアの苦難の日々が始まったのだ。

 この2人も父親にして夫であるヴァレンス公を失ってからひたすら耐え抜いた日々を送ってきたはずだ。


 美しい金髪と、やつれた表情が、その過酷な日々を物語っている。2人は、ホルデンズの旦那の案内で俺たちのところに近づいてきた。そして真っ向正面から視線を合わせると深々と頭を下げてくる。


「かつてのこの土地の領主であったギベルティ・アルヴィアの妻であったエリサです。ここにいるのは私の娘のセリーナ」


 娘も母親ともども聞きしに勝る美しさだった。なるほどこの美貌ならマルクスの野郎が何としても手元に置いておきたいと考えるのは無理はない。


「この度は、夫の無念を晴らしていただき、アルヴィアの領地をお救い頂いたこと誠に感謝いたします」


 そして彼女の口から〝お礼がしたい〟という言葉が流れてきた。


「丈之助様、エライジャ様、お2人のお力無くして、アルヴィアも私たちも救われることはありませんでした。つきましてはそのお礼がしたいのです」


 だが俺は――


「そいつは勘弁してください。物が欲しくて刀を振るったわけじゃござんせん」

「ですがそれでは――」

「いえ、こういう時は笑顔ひとつで十分でごさんすよ」


 そう言って俺たちは彼女の申し出を断った。それとどのみち明日の朝にはこの土地を旅立つ身の上だ。ならば余計なものはもたない方がいいだろう。


 こうして俺たちの勝利と街の開放を祝う宴は夜更けまで続いたのだった。


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