壱:エリザ、出迎える ―セシリア、むくれる―
戦いは終わった――
俺とエライジャの旦那がアルヴィアの南側、慣れ親しんだ街の人々と過ごした場所へと帰ってきたのはその日の夕暮れ近くだった。
街の北側の大通りを歩いてヒース川にかかる橋を渡る。その向こうの辻の広場には見慣れた姿のあのひとが俺達を待っていた。
「来た!」
そう、優しい声で迎えてくれたのはエリザの姐さんだった。朝、俺達を見送ったときのドレスにショール姿という出で立ちそのままで、辻の目印の石塔のそばに佇んでいたのだ。無事そうな俺達の顔を見て、安堵しているのがよく分かる。俺達は彼女に声を掛ける。
「よぉ」
「ただいま、もどりやした」
「お帰り! 首尾の程は聞いたよ。街の連中もイリスの姉さんの店で待ってくれてるよ」
「そうですかい」
街のみんなが待ってくれていた――それだけで俺達には命をかけた甲斐があったというものだ。
「そら、良うござんした」
「これで明日から多少は過ごしやすくなるだろう」
そう答える俺たちにエリザの姐さんは不安げに言う。
「そうだといいんだけどねぇ」
「――どういう意味ですかい?」
「ん? いやね、マルクスは消えたけど、次に来る領主がマトモなやつとは限らないからね」
その言葉の意味をエライジャも即座に悟った。
「そうか――、領主はこの国の支配者たちが選んで送り込むわけか」
「あっしが元いた世界でも、土地土地を収める殿様を決めるのは、国を治める将軍様とその家臣の方々でした。土地を治めてくれている殿様が嫌だからといって、理想の御仁を送ってくれるとは限りやせん」
「そうなんだよ。そうなれば二人の苦労は無駄になっちまうからね」
そう答えてエリザの姐さんは派手にため息を突いた。だが俺は言う。
「でも、大丈夫でしょうぜ。ホルデンズの旦那がなんとかしてくれますぜ」
「え? そりゃどういう意味だい?」
俺の言葉の裏をエライジャの旦那はそこはかと無くわかっていたようだ。だが、エリザの姐さんにはピンとこないようだ。
「あっしはやるべき事をやりました。あとは前の領主のヴァレンス公に縁のある御仁がするべき事でござんすよ」
「あぁ、そうだな」
「とりあえず、次の出立の準備でもしましょうや」
「出立――」
俺の言葉にエリザの姐さんは、俺がこの街に居着かない事を察したようだ。
「皆さんのところに顔を出しましょうぜ。全てはそれからだ」
「あぁ、そうだね」
そう言いながらエリザの姐さんは俺の右腕に縋りながら歩き出す。俺の肩ではセシリアが少しばかり嫉妬したのか不満げな表情を浮かべていたのだった。




