七:終わりの景色 ―追い詰められる悪党―
「戒めが消えた!」
驚きと歓喜の表情、その次の瞬間、ライディナは泣きながら崩れ落ちた。
「やっと助かった――、命令を嫌がると〝消すぞ〟って何度も脅された――、だから――」
それまでよほどに、辛い命令を繰り返しさせられていたのだろう。それまでの労苦を思いだしていた。そんなライディナに俺は優しく声を掛ける。
「もう大丈夫でござんすよ。姐さん――あんたは自由だ」
「自由――」
俺のその言葉にライディナはにわかに顔を明るくほころばせた。
「だったら――」
そうつぶやきながらライディナは俺に右手を差し出してくる。
「私と契約しておくれよ。対等な契約ならもう誰にも使役の戒めをされることもないからさ」
「へい、喜んで」
「名前を教えて」
「疾風の丈之助といいやす」
そう答えると俺は左手の手甲を外して差し出す。そこにはすでにセシリアの聖餅があるが、その隣にライディナは聖餅を彫り込んだ。
「このライディナの名において疾風の丈之助に精霊の力を与えん」
――バシィッ!――
一瞬、光がほとばしると俺に2つ目の聖餅が刻印されたのだった。そして、最後に――
「残るはあんたの始末だけです」
「ひ、ひぃ――」
俺は冷たい目でマルクスを見下ろした。最後の始末が残っている。
「た、頼む――命だけは――」
マルクスは瀕死の青い顔で、切られた手を抑えてうずくまっていた。
「命乞いですかい? 旦那、さんざんやりたい放題してきて今更そりゃぁねえでしょう」
俺はマルクスの頭の髪の毛を引っ掴むとそのまま窓の外のテラスへと引きずっていった。戦のための砦に、宮殿のような見晴らし台が? とも思ったが、この成金貴族のことだ、金にあかせてつくらせたのだろう。
テラスの上から遠くを見やれば、そこからは眼下の砦の敷地や、アルヴィアの遥か彼方の街の様子までもが遠くまで見えていた。そして、真下の砦の敷地の中庭の郭が良く見渡せたのだ。
「ご覧なせぇ」
俺はマルクスの顔を引き上げると、テラスの縁の石造りの胸壁からその体を突き出させた。眼下の中庭の広場には生き残っている城兵や、ここまでたどり着いた雷鳴騎士団の団員たちや、それを率いるホルデンズの旦那の姿が見受けられた。
戦いのすべての趨勢はほぼ決していたが、それでも多少の小競り合いは残っている。今なお戦おうとする気骨の有る城兵を相手に雷鳴騎士団や人足衆の兄さんたちが戦っていたのだが、突如、瀕死の状態で本邸のテラスから領主のマルクスが晒し者にされれば、誰だって驚いて手を止めるはずだ。
「あ……、あぁ……」
俺がマルクスの髪の毛を掴んだままその上体をテラスから突き出せば、落とされるかもしれないという恐怖からマルクスは一切の言葉を失っていた。だが、その眼下に何が見えるかはマルクスもわかっていた。
「あんたがこれまでやってきた事の結果でござんすよ」




