四:マルクス、現る ―最強の雷精―
そして、三つの部屋を巡り歩けば、一つだけ頑丈な両開きの扉があった。それだけは先程の颶風の太刀でも破れなかった。それだけ頑丈なのだ。
「これだけやたらと固めてあるってことは――」
「どうやら、これが正解のようだね」
「へい」
気配を探れば、扉の向こうに人の気配がする。建物の敷地の位置を読めば、扉の向こう側はアルヴィアの街を向いていて、領主が街を見張るのにはこれ以上にない場所だろう。ただ、
「この扉を開ければ〝雷〟が待ってるでしょうぜ」
「おそらくはマルクスも精霊持ちだろうね」
「武の立たない腰抜けでも、精霊さえ使役の魔法で奴隷にしちまえば、並の人間にはない力を得られやす。ましてや誰も信用できない悪党――一番使い勝手のいい強い精霊を抑えてるでしょうぜ」
「だろうね――おそらくはあいつかな」
セシリアの姐さんはため息をついた。どうやら心当たりがあるようだ。
「ご存知なんで?」
「多分だけど、雷精で10年前に捕まって連れてかれたやつが居る。雷精のライディナ――、雷を使わせたら最強格と言われた精霊さ」
「なるほど――」
そいつを使役して壁の向こうで待ち構えているわけだ。ならば――
「ここは正面突破と行きやしょう」
「え? 本気かい?」
「へい――」
俺は扉の取っ手に手をかけた。
「ちょいと仕込みがしてありやしてね」
「へぇ」
そういいつつ、姐さんは俺の長脇差にありったけの力を込めてくれた。
「丈之助、あと少しだよ」
「えぇ、あと少しで――悪党がおしめぇでござんすよ」
俺は腹の底に力を込めて歩き出すと、眼前の扉を蹴破った。
――ドカッ!――
すでに金具が先の颶風の風の大太刀でイカれていたのだろう。蹴りの一撃で扉ごと吹っ飛んでいった。
そして、外れた扉が宙を舞っているその間に、姿勢を低くしつつ、セシリアの姐さんの風の力を借りて流れるように吹き抜けるように扉の向こうの空間へと入っていく。
――ヒュゥゥウッ――
吹き抜ける風と化した俺は、視界の中に目標となる敵を捉えた。アルヴィアの支配者――マルクス――、奴は執務室のど真ん中に据えられたクソでかい机の、豪奢な革張りの椅子にふんぞり返ってドッかと腰を下ろしていた。
貴族のローブ衣装姿――、金にあかせた毛皮の衣装をまとっている。そしてやつの背後に佇んでいるのは、金色の髪の無表情な顔の美女、白い素肌の胸と腰回りには金色のラシャ布のような物を巻いている。
セシリアと同じ精霊の身の上の女だ。マルクスの意思に従い、すでに魔法を発動している。すなわち――
「来るよ! 魔法だ!」
――この部屋の空間そのものに〝雷〟を充満させていたのだ。
――ピシャァアッ!――
室内の空間の至るところから稲光がほとばしる。それは床を走り、空間を走り、4つの方向から俺へと放射される。その四条の光はまさに悪意の鉄槌となって、この俺を貫こうとしていた。だが俺は迷わない、ただ一直線に悪党の親玉へと突っ走るだけだった。
その時、セシリアの姐さんが叫んだ。
「だめだ! やられる!」
風と雷撃では、明らかに雷撃のほうが早いに決まっている。雷の稲光よりも素早い風などありえないからだ。俺の体に四つの稲妻は襲いかかった。
――ドォオオオオンッ!――
曇天の雲から雷が地上に落ちてきたときのように、凄まじい轟音があたり一面に響いた。そして、その轟音とともに俺は――俺の体は――
「残念だったな、神落とし――、儂のライディナの雷光を躱せるやつなど――」
マルクスが自信ありげに慇懃な口調で語ろうとする。だがその言葉は途中で止まった。
「残念でござんすね。どうやら、トドメにはならなかったようで」
奴は俺の姿に驚愕していた。




