参:第3階層 ―伏兵の間―
両足を開いて腰を落とし、長脇差を両手で構えて、左脇に深く構えると、セシリアの姐さんは両手で俺の長脇差に風の加護を与える。
「風神の太刀――、〝颶風〟」
俺は大きく息を吸い込み、呼吸を整える。腹に力を込めて気合をいれる
「ふぅうううう……」
長脇差の刃峰に青白い波動が広がり、かすかに火花が走る。セシリアの姐さんは力を注ぎ終えると俺に向けて言い放った。
「今だよ!」
俺は気合一閃、長脇差を真横一文字に振り払う。そして、剣の刃峰から高圧縮の最大級の風刃が解き放たれたのだ。
「どぉりゃあぁぁぁぁっ!」
――ブッシュゥウウウウッ! ビュゥゥウウウッ!――
剣先から高圧の風が吹き出し、それがさらに激しくも巨大な太刀となる。巨大な風の太刀は嵐となり、四方八方へと広がり、そして、扉という扉を砕き始めた。
――ガッ! ゴォンッ! ドカッ!――
それは単なる風圧ではない。風の魔法を高圧で押し固めた風の刃の塊だ。扉という扉を砕きぶち抜き、扉の向こうに身構えていた伏兵を斬り刻み、血しぶきに変える。構えていた剣を振るう余裕はもちろんなく、マルクスの野郎が雷の力を放とうと準備していたらしいが、俺が突入せずに伏兵をほぼ全て撃破したので、事前の計算が狂ったのは間違いなかった。
さらに――
――ボォオオンッ!――
――パリィイインッ!――
外の壁がぶち破られる音がし、窓のガラスが砕ける音がする。建物の内部で巨大な爆発が起きたかのようだ。音と風とが止んだ時、周囲に気配を探るが、まともに動いている者は数えるほどしか感じられなかった。長脇差を鞘に納めず、右手に握りしめたまま砕けて飛び散った扉を越えて先を歩く。
「――う、うぅぅ」
腹を割かれ、額を割られた警備兵が横たわっているが、立ち上がる気力すらなさそうだ。俺を目の当たりにして明らかに怯えている。
「大人しく寝とりゃ、命は取りやせんぜ」
低い声で放ったその言葉に、男は無言で頷いていた。それでも、役目を果たし、俺を討ち取ろうとする剛の者は居る。そう言うやつは精霊の力無しに真っ向から切り捨てるだけだ。
「神落とし! 覚悟!」
両刃の剣を水平に構えて突き出して俺を突き刺そうとするが、とっさに身をかがめて低い姿勢で敵の懐に入り込むと、撫で斬りに逆袈裟懸けに、左の脇腹から右胸へと抜ける太刀筋でバッサリと切り捨てた。
その他にも数人ほど、俺に向けて剣を構えるやつが居たが、それ以上、俺に切りかかってこようとする奴は居なかった。横目で鋭く睨みつければ、大抵は戦意を失い後ろに下がる。一人が俺の背後から襲おうとしていたが――
「おやめなせぇ、無駄に命を散らす必要はありゃあせん」
わざと手首を返して長脇差を鳴らすと威嚇してみせる。
「ご家族が居るんでしょう? そいつのところにお帰りなせぇ」
言葉に温情を匂わせると男たちは散り散りに去っていった。




