九:山賊どもと金髪の異国娘
とっさに受け身を取って立ち上がる。
そこは見知らぬ森の中――木々の合間から煙の匂いと怒鳴り声が聞こえてくる。
「逃げても無駄だよ!」
「金目のもんがねえなら、体で払ってもらうぜ」
「ひん剥け! ひん剥け!」
数人の山賊が、軽い旅装の異国娘を取り囲んでいた。
粗末な鎧に血錆のついた短剣、荒れた顔には幾つもの古傷。
まっとうなこの身分の侍というよりは、山を根城にする山賊やごろつきのような連中だった。
女は必死に逃れようとしていたが、数が違いすぎた。
逃げ回る先に回り込み、退路を完全に断たれていた。
山賊のひとりが丸太を投げて、女を転ばせる。
「あっ!」
その瞬間にここぞとばかりに男たちは襲いかかる。
理不尽な光景に、俺の中で何かがはじけた。
「くだらねぇ」
振り分け荷物を投げ捨て、頭にかぶった三度笠を左手で脱ぎ、
正面の山賊に向かって投げつける。
脇差を抜いて鯉口を切ると、ごろつき共に向けて白刃を振るった。
「うわっ!」
「何だ貴様!」
笠を払った瞬間、俺は間を詰めていた。道中合羽を脱いでごろつきの一人にかぶせて視界を塞ぐ。
さらに、一人の喉を裂き、もう一人の腕を斬り落とす。
残る二人が慌てて構えを取るが、遅い。
――ドカッ――
蹴り飛ばし、返す刀で胴を割った。
最後の一人が腰を抜かして逃げ出す。
「ひ! ひえええ!」
情けない声を上げて仲間を見捨てて1人は逃げ去った。
「命が惜しけりゃ、二度と堅気の御仁に手を出すんじゃねえ」
その声に追われるように、男は森の奥へ転がって消えた。
返り血を払って鞘に収める。
――パチン――
鯉口が涼しい音を立てた。
「お嬢さん、立てやすかい?」
金色の髪、青い瞳。髪の毛は結い上げておらず、頭の額のあたりで紐でまとめてあった。
薄布の袖なし衣に、編み上げの履物――まるで異国の人間だ。
彼女は怯えたままも、俺の言葉を理解したようだった。俺は死んでから出会ったあのカロンと言う男に言われたことを思い出していた。
――こちらの世界での言葉を話せるようにしておく――
そうだ、言葉は通じるはずだ。
「ありがとうございます……助かりました」
だが、警戒――と言うよりは恐れの色はその目からは消えてない。それでも俺を理解しようとしているのは見て取れた。
「お強いのですね」
「長い間、命のやり取りをしてましたんでね」
「剣士様ですか?」
「様づけされるようなご丁寧な身分じゃありやせん。行き場所の無い根無し草でさぁ」
俺は自嘲気味に言葉を吐く。相手が俺のことを否定しないのに安堵すると、当座の行き場所探しにと、娘さんに話を聞くことにした。




