弐:中央階段踊り場 ―渡世人 対 重装甲冑戦士―
その時、俺の眼前に重装の鎧甲冑を着た戦士が立ちはだかった。場所は、中央上り階段の踊り場、廊下ではないためある一定の広さが確保できる。甲冑の戦士は両手持ちの大剣を構えて振りかぶっている。
「来るよ!」
「上等!」
俺は長脇差を鞘に収めると姿勢を低くして居合抜刀の構えを取った。
「姐さん!」
「分かった!」
俺が叫べば姐さんは、ひときわ強く風の加護を俺の長脇差に与える。眼前に立ちはだかる大剣持ちの戦士がひときわ強く叫んだ。
「死ねぇ! 神落とし!」
その叫びを聞き終えるよりも前に、振り下ろされる大剣の太刀筋をかいくぐり風の勢いを得て一気にその懐に飛び込む。通り過ぎる、その瞬間、居合抜刀の要領で剣を抜き放ち一気に斬り伏せる。
――ズジャァアアアアッ!――
鋼と肉と骨と血――、それがまとめて一気に切断されて、一つの人間だったものが2つの肉塊に分離した。
「邪魔でござんすよ」
弔いの言葉もなしに冷たく言い放ち俺は階段を2階へと上がっていく。たった1人の細い刀を前にして、守備兵たちは恐れをなしたのか誰も追っては来なかった。
「これが、神落とし」
「これが、疾風」
「これが、精霊持ち」
次々に言葉が溢れて、それは賞賛ではなく畏怖となる。
その恐れはいずれ俺を守る〝盾〟となっていくのだ。
§
人間が5人はまとめて並んで登れそうな大階段を、俺たち駆け上がっていく。2階は不思議と誰もおらず、そのまま3階へと登ることができる。2階は家臣のための部屋や、生活の場が設けられている。3階へと登ると、階段の上がり口はそのまま小さな広間になっていた。そして、
その周囲に複数の扉がある。どの扉が怨敵マルクスへと繋がっているかは見当もつかない。
「どうする、丈之助」
「ちょいとお待ちを」
丈之助は刀を手に思案していた。
「姐さん、壁の向こうの気配を知る方法はありやすか?」
「そうだね――風に音を載せて声を聞くという方法はあるね」
「やっていただけやすか?」
「あいよ――魔法・風の気配――」
セシリアがそう唱えた瞬間、俺の周囲の雑音が一瞬消えた。そしてその代わり徐々に遠くの方の声が聞こえる。
――無駄に近寄るな――
――ご領主様の精霊の力を――
――ドアを開けるとともに雷撃を与える――
――向こうの動きの裏をかけ――
――3階に廊下はない――
――部屋と部屋とが続く迷路に誘い込め――
――3階はご領主様の雷の支配下だ――
それらの言葉を得て丈之助は把握した。
「廊下はない、部屋と部屋とが無駄に並んだ迷路のような作り、そして一番重要なのは――マルクスは精霊の雷の力を持っていて、それをこの3階に張り巡らせられると言うこと――」
そう言いながら俺は長脇差を握りしめた。
「だったら――」
俺はそれまで被っていた三度笠の顎紐をほどいて床に置く。そして、長脇差を両手で強く握りしめると姐さんに告げる。
「壁ごとぶっ壊しましょうや」
「あいよ」
俺は敵の裏を書く大技を仕込んだのだった。




