弐:リカルド叫ぶ ―海賊の矜持―
リカルドの声に気づいてグレゴールと取り巻き2人、リカルドの方を驚いたように見つめていた。
それを見て、リカルドはマリネアに告げた。
「一気に潰すぞ」
「あいよ」
そう言いながらリカルドはカットラスを振りかぶる。
そしてマリネアは呪文を唱え始めた。
「水攻撃、水刃――荒波の牙――」
カットラスの表面に水煙が立ち上る。そして――
「喰らえ!」
✗の字を描くように2度斜めに振り下ろす。するとカットラスの刃峰から、2つの水の刃が空を切って飛んでいく。それはまさに、見るも見事な〝水の刃〟だ。これこそ、マリネアが秘していた攻撃の手段であった。
グレゴールの取り巻きの2人はロングソードでそれを切り落とそうとする。だが――
「無駄よ」
――パキィン!――
ロングソードは甲高い音を響かせて砕けた。
「私の水の刃は鉄より硬いんだからさ」
マリネアは満足気に笑みを浮かべてニヤリと笑う。2人の取り巻きは抵抗虚しく斜め袈裟懸けにばっさり切り落とされた。
「これで取り巻きは消えた」
急ぎ崖を駆け下りながらリカルドは再び叫んだ。
「待ちやがれ! グレゴール! てめえだけは許さねえ!」
「り、リカルドか?」
「マルクスの野郎に入れ知恵して、精霊のことを教えたのはお前だ! 前の領主を暗殺して、前の領主の奥さんと娘を監禁して手篭めにしたのもてめえだ! 領主の地位を乗っとったのをいいことに、税金の吊り上げ放題! 余った金は貴族連中に賄賂としてばらまいて、悪政のやりたい放題! てめぇが諸悪の根源だ!」
腹の底から響く怒鳴り声でリカルドは一気にまくし立てた。
「お前のところに足止めされて6年間! お前らの悪事は嫌というほど見てきた! 今更、白を切ろうとしたってそうはいかねえぞ!」
すると豪奢な貴族向けのローブ衣装を身にまとったグレゴールは足を止めて振り返り腹いせとばかりにリカルドに言い返した。
「何を言う! 薄汚い人殺しの海賊が! 拾ってやった恩を忘れおって!」
「ああ、その通りよ! 俺は所詮、弱いものから略奪しまくった薄汚い海賊だ。だがな、お前たちと生きていて思い出したんだよ、俺が何で海賊になったのかを!」
そう叫んで一呼吸おく。そして腹いっぱいに空気を吸い込むと大声で叫んだ。
「腐った貴族や船主や軍人ども! そういった連中の圧政や横暴に腹を据えかねて〝自由〟を求めて海に飛び出したからだよ!」
海賊はなぜ自由を尊ぶのか? それはここに理由がある。中世近世の船の世界は理不尽で、無理やり水夫として船に載せられたり、船の上でも権力者に搾取されたりと過酷な運命をたどる。船乗りを俗に〝白い奴隷〟と呼ぶことも有るくらいなのだ。
そしてそうした運命に抗うように、軛を断ち切り、船を乗っ取り、あるいは船を捨て、新たな仲間たちとともに旗をかかげ大海原に出るのである。それが海賊という生き物なのだ。




