十:分かれ道 ―それぞれの決戦へ―
人懐っこい笑顔の水の精霊だった。ややタレ目なのはその心持ちが現れているかのようだ。
「リカルドがお世話になってるみたいね。私は水精のマリネア、よろしくね」
水を象徴するようにその佇まいは穏やかで癒やしの気配に満ちていた。
「リカルドの旦那も精霊持ちだったんですかい?」
「あぁ、こっちの世界に迷い込んでから、運悪くここの領主に目をつけられてな、身の安全を守るために子分になってたフリをしてたんだ。用心棒としてな。それでそこそこ手柄を上げたら、このマリネアを任されたのさ」
そこにマリネアが言葉を添えた。
「それが今から3年前――それまではいろいろな人に使われてたんだけどね」
その時のマリネアは辛そうだった。
「俺の前の連中の扱いが酷くてよ。前の持ち主を事故に見せて始末して、俺を持ち主にしろってねじ込んだんだ」
「それで使役の戒めを?」
「あぁ」
だがそこでマリネアはリカルドの首に抱きつくとにこやかに笑った。
「でも、この人、紳士なのよ。〝女は優しくするもんだ〟ってね」
そういいながら人前で、リカルドの頬にキスをする。べったりくっついて離れないあたり、本当に惚れているようだ。セシリアも気づいていた。
「マリネア――、すっごい仲いいけど、そう言う関係?」
「うふふ、この人、アッチもすごいんだから」
「おいおい、今言うことじゃねえだろう?」
リカルドもまんざらではなさそうだ。だがフレイヤはイライラしていた。
「はいはい、お熱いのはわかったから!」
「それでこれからどうするの?」
セシリアの言葉にリカルドは落ち着いて言った。
「それなんだが、俺はこのままエマを連れて下水の先を行く。この城の領主の片腕だったグレゴールって大臣が逃げた。税を釣り上げて街の連中を搾取していた悪党だ。あいつだきゃぁ許せねぇ!」
「そして、あたしらがエマを川向いの南の街に送っとくよ。あたし、癒やしと記憶の操作しかできないからさ」
そう語るマリネアは自らの能力の至らなさを詫びるかのようだった。
「戦闘向きじゃねえってことか」とエライジャ、
「そう言うこった。まぁ、それで前の持ち主にいじめられてたんだがな」
リカルドの言葉に俺はうなづいた。
「外れ扱いされてた――ってわけですかい」
「あぁ、戦いに役に立たねぇって言われてよ。毎晩泣かされてた」
「それをかばってくれたのがこの人さ」
精霊にも心は有る。そして、恩を感じれば情をかわそうとするのは当然だった。
「そう言うことですかい。それであっしらはこれからどうすれば?」
「此処から先に行けば通路は2つに分かれる。左手が砦の中央へとつながる。右手は裏手の馬場兼練兵場だ。ウォルフガングは馬場から馬に乗って逃げるはずだ」
リカルドの言葉に俺達はうなづいた。
「ウォルフガングが俺が追う。フレイヤの袋さんを助け出す」
「それじゃあっしは、ここのクソ領主をぶっ倒すことにしますぜ」
エライジャと俺はそれぞれに道を決めた。リカルドの視線は熱心に俺達を見ていた。
「それじゃたんだぜ」
「へい」
「エマのこと頼んだぜ」
そして、精霊たちも。
「フレイア、セシリア――気をつけてね」とマリネア
「まかせて、姐さん」とフレイア、
「また後で落ち合おう」とセシリアが締めた。
そして俺たち3組、それぞれの道を向かったのだった。




