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異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―  作者: 美風慶伍
〈第十二章/決起〉朝焼けに狼煙を上げた
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伍:激突 ―雷鳴騎士団 対 マルクス戦闘団―

「こいつはありがてぇ!」

「恩に着るぜ!」


 俺とエライジャがそう答えれば、ホルデンズの子分衆だった者たちが笑顔で通り過ぎる。

 

「ここは俺たちの街だ!」

「お前たちだけにいいかっこさせてたまるかよ!」

「ここはおれたちに任せろ!」

「お前たちは先にいけ!」


 それらの叫びとともに剣が抜かれ、槍が繰り出された。

 

「迎え撃て! 奴らを通すな!」


 ウォルフガングは号令をかける。そして、自らの布陣を構成する騎士たちに命じた。

 

「馬数ではこちらが多い! 一気に押し潰せ!」

「おおおおっ!」


 三十三騎対五十騎――数の上ではマルクス戦闘団の方が有利だ。だが――

 

「おれたちも行くぞ!」

「おおおっ!」


 人足頭のグスタフの号令が大地に響き、荷馬車の列がホルデンズの雷鳴騎士団の馬列とともに突進していく。数の上で不利な雷鳴騎士団の弱みを補っていた。さらに力自慢の人足たちだ、彼らならではの戦い方がある。

 

「喰らえ!」

「投石始めぇ!」


 荷馬車の上から投げられたのは〝投石〟だった。相手は全身鎧を身に着けた重武装だったが、これに四十人近い数が一斉に石礫を投げたのだ。致命傷とはならなくとも、相手の突進する力を削ぐには十分すぎる威力だ。


――ゴッ! ゴゴッ! ガッ! ドカッ!――


「くそっ! くだらない手を使いやがって!」

「う、馬が暴れる!」

「くそっ! 前に進めん!」


 石礫は馬にも当たって勢いを削ぐばかりか暴れさせることもある。敵の突進する勢いをものの見事に潰してみせたのだ。さらに数は少ないがフリントロックの小銃を所持している者も居る。敵の馬列の要所を狙い狙撃する。

 

――タァアンッ!――


 乾いた音が響いて敵を馬の背中から落としていく。さらには、軽量の槍を投擲する者たちも居る。


――ビュオッ!――


 金属鎧といえど万全ではない。特に貫通する力には弱い面がある。投げ槍も勢いと貫通力が勝れば鎧を貫き相手を仕留める事は可能なのだ。


「ぎゃああっ!」


 首筋、胸部、腹部――、敵の要所要所に突き刺さり一つ、また一つと、馬上の騎士は倒れていく。そして、要所要所で一騎打ちが始まろうとしていた。

 

 ソーンスは、いつぞや、イリスの店に乗り込んできたごろつきたちの一人と向かい合っていた。

 

「貴様は、ソーンス!」

「あの時は世話になったな」


 お互いに剣を抜く、左手で馬を操り、右手に剣を持ちながら馬上の果たし合いが始まる。

 

「やかましい! それはこっちのセリフだ!」

「ぬかせ! 今日こそケリを付けてやる!」


 馬の疾走の勢いを加えながらお互いに剣を振りかぶる。そして、すれ違いざまに振り下ろす。

 

――ギッ! ギィイインッ!――


 初合の斬り合いの直後、相手は馬を止めて両手で剣を握り締める。確実に剣に力を込める方を選んだのだ。対してソーンスは馬を操りながらの片手で剣を繰り出していた。

 

「死ねぇ! ソーンス!」


 馬上での剣術は不確かな足元ととの戦いでもある。あえて馬を無理に動かさず、両手持ちでの剣を繰り出しての確実な攻撃を狙っていた。だが、ソーンスはそれの上を行った。


「うるせぇ、馬鹿野郎」


 馬を自分の足のごとくに巧みに操り、敵の斬撃をかわす。そして、馬の踏み込む勢いに自分の斬撃を重ねてさらに斬り込みの勢いを増す。

 

――ビュオッ!――


 風を切る音の後に、ソーンスの剣は敵の剣を根本から跳ね上げた。

 

――ギィイインッ!――


「ぐっ!?」


 まさに一瞬、ほんの僅かな隙を突いて、馬を操り、首を振り回させて敵の馬に体当りさせる。敵がバランスを崩して馬から落ちそうになる。そして――

 

「もらった!」


 馬の後ろ足を振り回して蹄で敵を蹴り飛ばす。敵は砂塵にまみれて、地面の上を転げ回った。

 

「最後のときくらい、潔くしようぜ」


 青ざめた顔のゴロツキ騎士は立ち上がり逃げようとするが、その瞬間をソーンスに斬られた。兜の根本の首筋のあたりをまさに真一文字だった。敵の首は地面の上を転げ回り、そのまま絶命した。

 

「騎士の情け――なんてのはいらねぇか」


 軽く吐き捨てると次の敵へと駆けていく。騎士としても男としても、まったく格の違う戦いだった。


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