四:援軍来たる ―雷鳴騎士団、立つ―
「こんなところで何やってる! 丈之助! エライジャ!」
――聞き慣れた意外な声が轟いた。
「この声は?」
「まさか?」
俺もエライジャも思わず振り返る。するとそこには――
「お前らが力を使うのはここじゃねえぞ!」
腹の底から轟くような蛮声――、この街を守るためにあえて野に下り、平民として根を下ろして生きてきた真の豪傑――、すなわち――
「ホルデンズの旦那?」
「それにソーンス!? グスタフも?」
遥か彼方から馬蹄の音が響く、荷馬車の車輪が軋む音が轟く、風に旗がたなびき、腰に大剣を下げた鎧の音がする。そして、彼らが翻す旗印はまさに〝雷〟を象徴していた。
――濃い紫を地色に持ち、垂直に描かれた大剣を三条の雷光が貫いている構図だ。さらに縁取りには銀糸での雷光模様が描かれている――
「あれは――〝雷鳴旗〟――まさか?」
「まだ残っていたのか?」
「馬鹿な?! 敗北して散り散りになったと聞くぞ?」
ウォルフガングの配下の者たちが口々に叫ぶ。そして、その旗を翻す者たちの名前を口にする。
「だがあれは――まさに雷鳴騎士団!」
今まさに、丈之助とエライジャを支援するかのように、横隊となって駆けつける。中央に全身鎧のホルデンズ――、その右隣にはソーンスが同じく鎧姿で馬を駆り、さらにホルデンズの子分衆までもが、銀色に光る全身鎧に身を固めていた。
それが馬列にして 三十三騎――整然と並んでいたのだ。さらに――
――ゴゴゴゴゴ――
路上の石を砕きながら、十台の荷馬車が車輪の音を蹴立てて驀進してくる。その荷台にはホルデンズのもとで汗を流して働いていた人足たちが乗っていた。彼らも剣や槍や小銃などで、各々に武装している。まさに隙のない戦列となって駆けつけたのである。
馬列の中央――、もっとも壮麗にして銀色の鋼に金の縁取り模様がなされた全身プレートメール姿のホルデンズが甲冑の面当てのバイザーを開きながら一気呵成に叫ぶ。
「雷鳴騎士団、心得ぇ!」
整然と並んだ馬列上の騎士たちは今こそ、忍従の時を超えて、その心に刻んだ矜持を声にした。
「|不屈《Tenacity and》と正義! |不屈《Tenacity and》と正義!』
彼らの声は轟となり、ウォルフガング率いるマルクス配下の戦闘団の者たちを圧倒した。
「ば、馬鹿な? 旗印もろとも、消されたはずではなかったのか?!」
ウォルフガングは明らかに動揺を見せていた。一度潰された騎士団が再興するのは並大抵のことではないからだ。だが、ウォルフガングたちの焦りをホルデンズは鼻で笑った。
「ふっ! 旗を焼かれた? 身分を取り上げられた? それがどうした! 騎士道とは地位じゃねぇ! 物でもねぇ! 騎士道とは〝誇り〟よ! この街を正義の名のもとに取り戻すまではと、耐えて耐えて耐え忍んできた! 立ち上がるのはまさに今だ! おれたちの剣と旗! 折れるもんなら折ってみやがれ!」
そして、ホルデンズの右腕であるソーンスが、俺とエライジャに向けて叫んだのだ。
「お前ら! 加勢に来たぜ!」
「おおおおおっ!」
「かかれぇ!」
まさに怒号一発――、騎士団長たるホルデンズの叫びを合図に雷鳴騎士団の彼らは突撃する。
「行くぞぉ!」
まさに、思いを晴らすはこの時とばかりに、三十三騎の馬上騎士と、四十人以上の人足たちは武器を取って立ち上がった。




