参:母娘の再開 ―悪漢ウォルフガング―
「あれが?」
さすがのエライジャも驚きを隠さない。セシリアも気づいていた。
「カイラ!――10年前に連れて行かれたと思ったらこんなところに居たのね?」
「フレイヤのお袋さんでござんすか」
「あぁ、大勢でよってたかって嬲りものにして、無理やり連れてった! 死んだかもしれないと思ってたけど、生きてたんだね」
「素直に喜べる状況じゃあなさそうですがね」
俺の脳裏には蘇るものがあった。彼女が俺を焼いたとき〝ごめんなさい〟と呟いていたのを思い出す。
「お母さんを返せ!」
フレイヤの必死の叫びが響く。その声に驚愕の表情を浮かべたのはカイラ自信だった。
「フ、フレイヤ?」
「ほう? お前らも精霊を捕まえたか」
「う、うそ――」
娘も人間に捕まった――そう思ったのだろう、カイラの顔は蒼白だった。だが――
「馬鹿野郎、よく見ろ」
エライジャが叫んだ。
「お前の精霊と俺の精霊――ぜんぜん違うだろ」
「何を言って――」
そこまで言ってウォルフガングの表情が変わった。
「〝戒め〟が無い?」
「そうだよ! 私! お母さんを助けに自分でここに来たんだ! エライジャさんや丈之助さんといっしょに! だから――」
朝焼けにそまった街にフレイヤの必死の声が響いた。
「一緒に帰ろうよ! お母さん!」
「フ、フレイヤ――」
命を分けた娘の叫びを無視できるほどカイラは冷酷ではなかった。思わず身を乗り出して娘に近寄ろうとする。
「フレイヤ! フレイヤ!」
ウォルフガングから自分の意志で離れようとしたのだ。だが――
「どこに行く?! カイラ! 〝戻れ!〟」
ウォルフガングの声が戒めそのものとなり、カイラの自由を奪う。首にはまった光の首輪が輝きカイラを苦しめる。首を締めて命を奪うかのようだった。
「ぎゃっ! がっ――かっ――はっ――」
窒息したかのようにのたうち回る。それはまさに命を取り上げられているような様相だった。それでも娘にすがろうとするカイラにウォルフガングは駆け寄りその背中を踏みしめた。
――ガッ!――
「さっさと戻れ、お前に自由など無い!」
そればかりかフレイヤにまで視線を向ける。
「ちょうどいい、お前らを始末してその火精のガキと、風精の女もいただくとしよう。親子揃って俺が飼ってやる!」
騎士として鎧を身に着けていても、その中身はそのへんのゴロツキと変わらなかった。
「冗談じゃないよ。お断りだね」
「さっさとお母さんを放せ! お前を焼き殺してやる!」
セシリアもフレイヤもウォルフガングの悪行に憤懣やる方ないという有り様だ。だが、やつには蚊ほどにも感じない。
「吠えたいだけほえろ! お前ら4人で、マルクス様直轄の戦闘団を突破できるのならな!」
その声と同時に、頑丈な鎧に身を包んだ馬上の騎士たちは一斉に剣を抜いた。そして、こちらへと突進する準備をはじめた。まずい、流石にまずい流れだ――、エライジャも冷や汗をかいている。
「くそっ、ここまで重武装の連中が控えてたとはな」
「強引に突破するかい?」とセシリア、
「いや、姐さんとフレイヤの力は敵の本陣に突入したときに残しておきてぇ、力を使い切っちまったら万事休すだ」
そうなればいよいよ逃げ場はない。もとよりアイツらはおれたちをここで足止めするために二段構えで待ち構えていたのだ。
「引くか、攻めるか――二つに一つ――」
俺が迷いを振り切ろうとする――そのときだった――




