弐:開戦の狼煙 ―風刃と爆炎―
エライジャが指先で銃身下のレバーを操作して銃身後部の〝薬室〟を開く。それを指差しフレイヤが聞いてくる。
「これも詰める?」
「頼む。目いっぱいな」
「うん!」
長物の小銃は銃口の先から弾薬と弾丸を詰め込むと思っていたが、これは銃身の後部が跳ね起きるように開閉し、薬室に弾薬と弾丸を素早く詰められるようになっている。口径はコルトドラグーンよりも大きく、込められる火弾の威力も大きかった。
「そいつは?」
「俺の〝とっておき〟――ホール・カービンライフル――、持ち歩きやすいように途中でぶった切ってるがな」
フレイヤが炎の魔法を詰めると薬室を閉じる。
「できたよ」
「おう」
方や、俺が引き抜いた長脇差の刀身にセシリアが手を触れる。すると風の力が刃峰にほとばしる。
「祭りの騒ぎは賑やかに行きましょうや!」
俺は周囲の気配を読みながら長脇差を両手で構える。
「よし! ド派手に行こうぜ!」
エライジャがホールカービンの引き金を引き、銃口から爆炎がほとばしり周囲の建物の一部が吹き飛んだ。
――ドォオオオン!――
俺も長脇差を振りかぶり一気に振り下ろせば、刀身から風の斬撃が一気に飛んでいく。
――ビュオッ!――
人の気配がする裏路地、その入口あたりの建物の壁を砕いて瓦礫を飛び散らせる。そして次の瞬間、物陰から一気にマルクス配下のゴロツキたちが姿を表したのだった。
「丈之助! ここは一気に突破するぞ!」
「承知!」
そして、俺とエライジャは敵の数を削り始めた。
エライジャはフレイヤと連携して、ホールカービンで火弾の爆炎をぶっ放した。一発につき5人位はまとめて吹き飛んでいる気がする。俺はセシリアの風の斬撃を使い、離れた位置の敵を一つ一つ潰していく。
――ビュオオオッ――
――ゴォオオンッ――
斬撃と爆炎が吹きすさび、物陰に隠れていた連中は次々にあぶり出される。そして、姿を表すそばから、俺の長脇差とエライジャのコルトで確実に仕留めていく。
「ぎゃぁああっ!」
エライジャの爆炎で吹き飛ばされた連中が地面を転げ回り、
「ぐあっ!」
俺の刀の斬撃で急所を斬られたやつがその場に崩れ落ちる。
「順調だね、丈之助」
セシリアも上機嫌だが、俺は内心、冷や汗をかいていた。
「いや、ちょいと早計ですぜ」
「えっ?」
エライジャも気づいていたようだ。
「おい、あれを見ろ」
エライジャが声で示す先には新たな手勢が現れていた。軽装のゴロツキ共とは違い、金属製の鎧甲冑を身に着けた正統派の戦闘団だ。おそらくは領主マルクスの直轄の連中だろう。アルヴィアの街の南側でイキっていたチンピラとはわけが違う。装備、武器、気配――どれをとっても本物だった。ざっとその数、五十騎以上――、いずれも馬に乗っていて機動性も高そうだ。
そして――、その中央にはあの男が居た。炎の精霊を連れたあの男が。
そいつにはセシリアも気づいたようだ。
「あ、あれは――、精霊使い?」
そこには以前に俺を焼いたあの男が居た。
「ウォルフガング!」
その傍らには戒めで縛られた精霊の姿もある。それに一番強く反応したのは――
「お母さん!?」
――フレイヤだったのである。




